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霧内杳
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Romans de 霧内杳

捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~

捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~

「僕は絶対に、君をものにしてみせる」 挙式と新婚旅行を兼ねて訪れたハワイ。 まさか、その地に降り立った途端、 「オレ、この人と結婚するから!」 と心変わりした旦那から捨てられるとは思わない。 ホテルも追い出されビーチで途方に暮れていたら、 親切な日本人男性が声をかけてくれた。 彼は私の事情を聞き、 私のハワイでの思い出を最高のものに変えてくれた。 最後の夜。 別れた彼との思い出はここに置いていきたくて彼に抱いてもらった。 日本に帰って心機一転、やっていくんだと思ったんだけど……。 ハワイの彼の子を身籠もりました。
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Chapter: 最終章 三日月は満ちて満月になる 11
「パパー、おかえりしゃい」「ただいまー、みちかー」出迎えた娘を悠将さんが抱き上げる。「李依もただいま」「おかえりなさい」空いた手で私を抱き寄せ、悠将さんはキスをした。「調子はどうだ?」「順調ですよ」今、私のお腹は大きく膨れている。二人目を妊娠していた。リビングに向かいながら、後ろから着いてくる運転手をちらり。彼の手には例のごとく、大量の箱と紙袋が持たれている。「……また、買ったんですが」「……いいだろ、別に」よくない! とかツッコミたい。最初は広い家だと思っていたが、今では悠将さんの買ってきた子供用品と私の服で溢れそうだ。「ほら、|満華《みちか》。お土産だぞー」「わーい!」ぴょんぴょん跳びはねる満華の横で、にこにこ笑いながら悠将さんが買ってきたものを開けていく。それは、この家の下見に来たあの日、見た幻そのものだった。……ああ、幸せだな。可愛い娘がいて、素敵な旦那様がいる。それに、もうすぐ二人目も。悠将さんは約束どおり、私を幸せにしてくれた。私も悠将さんも幸せにできていたらいいな。「うわーっ、おひめしゃまだー!」悠将さんが取り出したのは、フリルたっぷりのワンピース……というよりも、もはやドレスだった。「だろー、パパは約束を守るからな」悠将さんは得意げだが、そういえば今回、日本を立つ前にお姫様もののアニメを満華と一緒に観ていて、満華もお姫様になりたいとかねだられていたな……。「あとはティアラに……ネックレスに……イヤリングに……」「……ちょっと待ってください」次々に取り出されたそれらに、とうとうツッコミを入れた。「もしかしてそれって、本物とか言いませんよね?」「ん?ダイヤとプラチナで作ってもらったが?」「ああ……」それを聞いて崩れ落ちてしまったが、仕方ない。子供のおもちゃに本物を買ってくる人がどこにいる?ここにいるんだけど。「イミテーションでいいんですよ、イミテーションで」それでも子供のおもちゃと思えない、高級なものが出てきそうだが。「なんだ、李依も欲しかったのか?心配するな、お揃いで作ってある」悠将さんが新たに開けた箱の中から、同じデザインのネックレスが出てきた。「僕のタイピンも作ったんだ」さらに同じモチーフのタイピンが取り出される。「男の子はなにがいいのかわからなかったん
Dernière mise à jour: 2025-10-31
Chapter: 最終章 三日月は満ちて満月になる 10
「だから、まだジャニスにやり直す気があるのなら、手を貸してやろうと思った。それだけだ」ぽりぽりと人差し指で、彼が頬を掻く。悠将さんは自分が気づいていないだけで、凄く優しい。こんなに優しい人が私の旦那様で、そして子供の父親でよかったと思う。「それにしてもアイツ、僕に『和家様!』とか言って過剰な接待をしてくるのはなんでだろうな?」悠将さんは不思議そうだが、私に聞かれてもわからない。「あ、そうだ」立ち上がった悠将さんが荷物の中からなにかを探し、戻ってくる。「ジャニスが李依に、って。妊婦も大丈夫なリラックスできるアロマスプレーだって言ってた」「へー」軽く空間に向かってスプレーしてみたら、ラベンダーのいい匂いが広がった。「好きな香りだし、いいかもです。お礼を言っておいてください」「わかった。というか、エステに来るときはぜひ連絡くれ、私自身がお相手をしたいので、とか言っていたぞ」「はい……?」まだ私に敵対心を燃やしている……とかないと思いたい。「李依様は和家様の大事な奥様で、和家様の御子を産む大事な身体なのですから、大事にせねばなりません……とかなんとか言っていた。聞き流していたが、あらためて思い出すと気持ち悪いな」不快そうに眼鏡の下で悠将さんの眉が寄る。これってもしかして、尊敬がすぎて崇拝になっていないかな……?ちょっと心配だ。「……ん?」「李依、どうした?」私が微妙な声を出し、怪訝そうに悠将さんが顔をのぞき込む。「なんか今ちょっと……」……ズキッとしたような?「もしかして陣痛じゃないのか?」「そうなんですかね……?」なにせ、初めてなのでわからない。「病院、今すぐ病院に行こう!」「えっと、そこまで慌てないでいいので……」「今すぐ生まれたらどうするんだ!?」らしくなく慌てふためいている悠将さんを見ていたら、反対に冷静になってきた。でも、ちょうどいいタイミングでよかったな。出産予定日にあわせて帰ってはきたけれど、少しズレていたら立ち会えなかったもんね。深呼吸したら落ち着いたらしく、病院に向かう車の中でも、着いてからもずっと、悠将さんはどっしりとかまえて手を握っていてくれた。そして――。
Dernière mise à jour: 2025-10-31
Chapter: 最終章 三日月は満ちて満月になる 9
私の予感は的中し。「李依、ただいま!」一週間ぶりに帰ってきた悠将さんの後ろには、いくつも積み重なった箱を抱えている運転手が見える。それにはぁーっとため息をついてしまった私に罪はない。だって。「……また、買ってきたんですか?」「だって可愛いのがあったからさー」あったからさー、じゃないです。そうやっていつもいつも買ってくるから、家の中は子供用品であふれかえっていますが?買ってきたものは仕方ないので運び込んでもらう。今日はおままごとセットに、お姫様セット、あとは洋服や靴だった。性別がわかる前はどちらにもOKなぬいぐるみやユニセックスなデザインの服。女の子らしいとわかってからは拍車がかかり、可愛らしいお洋服を山ほど買ってくる。そういえば、ハワイでも私に死ぬほど服を買ってくれたなー。これは、悠将さんの仕様なんだろうか。夕食を食べたあと、リビングのソファーでまったり過ごす。「お腹、大きくなったな」「そうですね、もういつ生まれてもおかしくないです」とうとう臨月に入った。会社も少し前に産休に突入。私としては子育てが落ち着いたら復帰したいところだが、ハイシェランドホテルとの契約が決まってからというもの軽く役員待遇で居心地が悪いので、こちらはちょっと考えている。それにその頃には、アメリカに渡っているかもしれないし。後ろから私を抱き締めて座り、悠将さんがいつものように口付けの雨を降らしてくる。「そうだ。エステサロンを買ったんだ。マタニティエステもやる予定らしいから、李依も利用したらいい」……まさか、私のために買ったりしてないですよね?悠将さんならやりそうだから怖い。「べ、別に李依のために買ったわけじゃないぞ?」私の疑惑の視線に気づいたのか悠将さんは慌てて否定したけれど、眼鏡の奥で目がきょときょとと忙しなく動き、視線も合わせないとなると疑わしい。「ジャニスが心機一転、新しい事業を立ち上げると言うから、出資したんだ。アイツのホテルでやっていた、ジャニスプロデュースのエステは評判よかったからな。きっといいエステサロンになると思うんだ」これってあんな厳しいことを言っていながら、ジャニスさんを救済したんだろうか。「評判が上がればうちのホテルに導入してもいい。先行投資というヤツだ」まだ私のため疑惑は拭えないが、とりあえず他の理
Dernière mise à jour: 2025-10-31
Chapter: 最終章 三日月は満ちて満月になる 8
……その後。「李依ー、ただいまー!」「おかえりなさい」ドアから飛び込んできて速攻抱きつき、キスしてくる悠将さんには苦笑いしかできない。「聞いてくれ。ジャニスのホテルを買ってきた!」「……は?」超うきうきな悠将さんが、いったいなにを言っているのかわからない。ホテルって、コンビニでおにぎり買うみたいに買えるもんなの?「一度まっさらになって考え直したいのでホテルを買ってくれ、なんてアイツらしくなく殊勝に言ってきたから、好条件で買ってやったよ」ジャニスさんはホテルを失ったわけだし、いい結果なのか悪い結果なのか私にはわからない。そのあとしてくれた説明によると、悠将さんはジャニスさんのホテル買収を画策していたらしい。しかも、彼女が応じなければかなり強引な手段も考えていたみたいだ。しかし、ジャニスさんからホテルを買ってほしいと真摯に相談され、できるだけ彼女の希望に添う形で買い取ったそうだ。これってジャニスさんが心を入れ替えたからなんだろうか。そうだったらいいな。「李依、お腹少し大きくなったか?」ソファーで後ろから私を抱き締める悠将さんの手が私のお腹を撫でる。「わかりますか……?」五ヶ月に入り、お腹の膨らみがわかるようになってきた。でも服を着ていたら気づかない程度なのに、悠将さんにはわかっちゃうんだな。「可愛いなー、男の子かなー、女の子かなー」悠将さんはにこにこしっぱなしで、私も自然と頬が緩んできちゃう。「悠将さんはどっちがいいんですか?」「そうだな、女の子は李依に似て絶対可愛いだろうし、男の子も可愛いと思うから悩むな……」真剣に悠将さんは悩んでいるが、そこまで?「……でも、男の子だったら形は違うとはいえ、お父さんとキャッチボールの夢が叶うんだよな……」淋しげに悠将さんが眼鏡の奥で目を伏せる。……んんっ!絶対私、男の子を産む!産んでみせる!……とかいうのは半分冗談として。「……父とキャッチボールは、どうですか……?」たぶん、父なら喜んで悠将さんの相手をしてくれると思う。悠将さんの夢はできるだけ叶えてあげたい。「李依のお父さんと……?」「はい。頼んでみましょうか?」「いや、いい」あっさり断られ、出過ぎた真似をしたのかと思ったものの。「……そうか。僕にはもう、お父さんとお母さんがいるんだ」ふふっと小さ
Dernière mise à jour: 2025-10-31
Chapter: 最終章 三日月は満ちて満月になる 7
次の健診も経過順調だった。出社前にこの間のカフェで昼食を取る。「ハロー」聞き覚えのある声がしたあと、誰かが私の前に座った。顔を上げると予想どおりジャニスさんがいる。たぶんどこかで、私が来るのを見張っているんだろう。今日も私の許可など取らず、勝手に注文して居座った。「悠将、ホテルをひとつ失っちゃったわね。可哀想」「……そう、ですね」グループのホテルのひとつが、ジャニスさんの買収に応じた話はすでに悠将さんから聞いている。彼は私のせいじゃないから気にしなくていいと何度も言ってくれたが、それでも心苦しい。「それだけ?あなたのせいなのよ?どうする気?」ジャニスさんは愉しそうにニヤニヤ笑っていて、性格悪いなと思う。そんなところが悠将さんと合わないのだと気づかないのかな。「私はただ、それでも私を愛してくれる悠将さんを、精一杯愛して、幸せにするだけです。悠将さんもそれでいいと言ってくれました」私の答えで鼻白み、不機嫌そうにジャニスさんはグラスを口に運んだ。悠将さんは渡しのせいじゃないと言ってくれたが、それでも心苦しい。きっと償いなどと言ったらまた怒られるだろうが、それでもこれが私なりの償いだ。それにきっと、これなら彼も許してくれると思う。「あなたこそ、大丈夫なんですか?悠将さんのホテル買収なんて派手なことをしていますが、……経営、苦しいそうですね」さっと彼女の顔に朱が走る。……本当、なんだ。悠将さんから聞いたときは、まさかと信じられなかった。けれど従業員の対応が悪いとSNSで噂になっていて予約が減っていると教えてもらえば、なんか納得した。「そ、そんなこと、あるわけないじゃない」強がりを言いながらも彼女の声は震えている。「なら、いいんですが」嫌な思いをさせられたんだからやり返してやれと悠将さんから教えられた話だけれど、ちょっとフェアじゃないなと心が痛い。無言で残りを食べてしまう。ジャニスさんの料理も運ばれてきたが、彼女はなに言わずにもそもそと食べていた。食べ終わり、席を立つ前に声をかける。「悠将さんから伝言です」私の言葉でぱっと彼女の顔が上がった。「こんな卑怯な手を使わず、正々堂々合併や融資の相談をするのなら話は聞く、……だ、そうです」みるみるジャニスさんの顔が恥辱に染まっていく。「私は、これで」彼女
Dernière mise à jour: 2025-10-31
Chapter: 最終章 三日月は満ちて満月になる 6
悠将さんの今回の帰国は、一週間ほどなのらしい。「なのに引っ越しなんてしていていいんですか……?」帰ってきて翌々日に、ホテルから購入した家に移った。アメリカに発つ前に手配した家具などはすでに運び込まれていたし、幸いなのか私の荷物も出ていくつもりでまとめてあったので、よかったと言えばよかった。しかし忙しいだろうに、家移りなんてよかったのか気になる。「んー?今回は引っ越しするために帰ってきたんだ。ホテル住まいも悪くないが、李依は落ち着かないようだったからな」無言で彼の顔を見上げる。まさか、気づいていたなんて思わない。綺麗に整えられているホテルは楽だったが、そのために従業員だけだとはわかっているとはいえ、不特定多数が部屋へ入るのを気にしなければならない。それがいつまで経っても慣れなかった。「これでゆっくりできるだろ?」「そうですね、ありがとうございます」一緒に窓際に立って庭を眺める。「でも、ブランコは必要ですか?」そこには可愛らしい白のブランコが設置してあった。「必要だろ?」「あと、滑り台も」「いるに決まっている」悠将さんはドヤ顔で頭が痛い。これらは相談なく置かれ、今日ここに来て初めて知った。「……そうですね、あるといいかもしれませんね」「だろ?」本当に嬉しそうに悠将さんが笑う。家が嫌いだと言っていた悠将さん。嫌いだから、滅多に帰らない。その悠将さんが楽しそうに家のことをあれこれ考えているのは、私も嬉しい。ここを、悠将さんが帰ってきたくなる家にする。これが当面の、私の目標だ。引っ越しが終わり、落ち着く暇もなく悠将さんはアメリカに戻っていった。やはり、ジャニスさんからのホテル買収でバタバタしているらしい。今日は休みだったので、家からお見送りした。「悠将さん。今日は寒いので、よかったら」腕を伸ばし、自分が編んだマフラーを彼の首に巻く。「これは?」「私が編んだんです。お気に召してもらえるといいんですが」色、チャコールグレーにして正解。スーツやコートの色と合っているし、悠将さんによく似合っている。「李依が?僕のために?」「はい、そうですが」悠将さんは微妙な反応で、やっぱり手編みなんてダメだったのかと思ったけれど。「ありがとう、李依!」いきなり、悠将さんから抱きつかれた。「手作りのプレゼン
Dernière mise à jour: 2025-10-31
私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした

私にワルイコトを教えたのは政略結婚の旦那様でした

「本当に俺でいいのか」 お見合いして結婚に異存はない。 それでも――一度は悪いことがしてみたかった。 そんな私を見合い当日、連れだしてくれたの見ず知らずの男の人でした。 彼は私の願いを叶えてくれ、素敵な恋もさせてくれた。 満足して私は、親が勧めるがままに見合いをしたのだけれど……。 まさか、相手が彼だと誰が思う?
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Chapter: 最終章 ワルイコトは終わらない
「パパー、早くー!」「こらっ、ひとりで行くなと何度言ったらわかるんだ!」駆けていこうとした女の子の襟首を炯さんは捕まえた。「だって待ちきれないんだもん」初めてのキャンプ、唇を尖らせている女の子の気持ちは理解できる。あれから、私たちは無事に夫婦となった。あのとき授かった娘、|璃奈《りな》ももう五つになる。義父が引退したのもあり、炯さんは子会社の社長から三ツ星造船の社長へと変わった。これで私たちの危険が減ると喜んでいて不思議だったが、海運業の仕事柄、海賊にその身を狙われていたらしい。「凛音、頼む」「はーい」猫の子よろしく炯さんから差し出された璃奈を受け取った。「璃奈の気持ちはわかるけど。ひとりになっちゃ、ダメ。怖い思いはしたくないでしょ?」璃奈を膝の上に抱き上げ、目をあわせる。「したくないけど……」完全に璃奈はふてくされているが、仕方ないか。いくら言い含めようと、実際にその〝怖い思い〟がどんなものか、体験しないとわからないもんね。でも、そんな体験は娘には絶対にさせたくない。「ちょっと窮屈だなとか思うだろうけど。パパもママも璃奈に怖い思いをさせたくないだけなの。だから、我慢して?」「……うん」まだ幼い璃奈に理解できないのは仕方ない。私だって璃奈と同じくらいの頃は、なんで自分はまわりと違うんだろうって不思議だった。「ママもね。小さい頃はひとりでなにもさせてもらえなかった。幼稚園のお友達のところにも遊びに行かせてもらえなかったんだよ?」「うそだー」完全に璃奈は、疑いの目を私に向けている。そうだよね、信じられないよね。璃奈は警護付きとはいえ、行きたいと言ったときはなるべく行かせてあげるようにしているもの。「でもね、パパはなるべく、璃奈にいろいろなことをやらせてあげたい、って。だから今日だって、無理してきたんだよ」今日のキャンプはグランピングではなく、一般キャンプ場での普通のキャンプだ。危険はないか、事前に調査した。今日も数人、見えないところに周囲に警備員を配置してある。そこまでして炯さんは璃奈にキャンプを――悪い遊びをさせたかったのだ。「だから、ね。パパにさっきはごめんなさいって謝ろう?」「……うん」ここまで言っても璃奈は渋々で苦笑いしてしまう。子供なんだから理解できなくても仕方ないよね。
Dernière mise à jour: 2025-11-03
Chapter: 第十一章 ワルイコトが起きても大丈夫 4
「無理はさせたくないんだが……わるい、抑えられない」目をやった彼のそこはすでに、パジャマの上からでも屹立しているのがわかった。「大丈夫です。私も……炯さんが、欲しいから」彼の手を私の秘密の入り口へと導く。そこは先ほどのキスでしとどに濡れており、触れた彼の指先がぬるりと滑った。「……そんなに俺とのキスは気持ちよかったのか?」くちゅくちゅと蜜口を擦られながら耳もとで囁かれるだけで、お腹の奥がきゅんと締まった。「今、締まった。感じてるのか?」意地悪く言われ、さらに締まるのを感じる。「あっ」パジャマの裾から入ってきた手に胸の頂を摘ままれ、ついに声が漏れた。「気持ちいいか?」自己主張を始めた可憐な尖りをこりこりと弄ばれ、薄く涙の浮いた目でうんうんと頷く。「あっ、んんっ」そのうち二本の指が花壺に差し入れられた。「すぐにでも挿入れたいけど、慣らしておかないと凛音がつらいからな」花芽をぐりぐりと親指で潰しながら、ゆったりと彼が指を前後させる。下着の中だからか緩慢な動きがもどかしく、それがさらに私の身体に火をつけていった。「もう、いいからっ……!」「なにがいいんだ?」手を止めた彼が、右頬を歪めてにやりと笑う。その顔を見て私の身体は、これ以上ないほどきつく彼の指を締め付けた。「奥が疼いて、我慢できない、のっ」「奥って?」からかうように軽く、炯さんがまだ私の胎内にいる指を動かす。それは私のキモチイイ場所には僅かに届かず、疼きに拍車をかけるだけだった。「炯さんがいつも、撞いて可愛がってくれるところ……!」「可愛い、凛音」彼の唇が、目尻に溜まる涙を拭ってくれる。「そんなに可愛いと、手加減できなくなるんだけど」そう言いつつも私を気遣うように、ゆっくりとパジャマを炯さんは脱がしていった。「あの、ね。炯さん」彼も服を脱ぎ、避妊具を着けようとしたところで止める。「……そのまま、きて」こんなことを言うのは恥ずかしくて、顔ごと視線を彼から逸らした。「凛音?」「あの、ね?身体が、炯さんの赤ちゃん、欲しい、って。だから、ね?」身体が、炯さんの赤ちゃんを待ち望んでいるのがわかった。だったら、今だと思う。「凛音」少し低い声は、怒っている。そうだよね、式どころか入籍もまだなのに、赤ちゃんできたら困るよね。「あ、あの……
Dernière mise à jour: 2025-11-03
Chapter: 第十一章 ワルイコトが起きても大丈夫 3
「私に悪い遊びをたくさん教えてくださるんでしょう?私はまだまだ、遊び足りないですよ。炯さんじゃなきゃ、誰が教えてくれるんですか」「そう……だな」あっけに取られている彼に、さらに捲したてる。「それとも炯さんにとって私は、そんなに簡単に手放せる存在なんですか」「それ、は……」苦しそうに彼の表情が歪む。「私を幸せにできるのはもう、炯さん以外いないのに……」私はこんなに彼を想っているのに、彼にとって私はそれくらいの存在だったんだろうか。ズタズタに切り裂かれるように胸が痛い。耐えきれなくなった涙がぽろりと、頬を転がり落ちていった。「……ごめん」伸びてきた彼の手が、私の頬を拭う。「俺ももう、凛音のいない人生なんて考えられない。でも、俺のせいで凛音を失ったらと考えると、怖くて怖くて堪らないんだ……」縋るように私を抱き締める腕は小さく震えていた。こんなにも、もしもの可能性に怯えるほど、炯さんは私を想ってくれている。そんな彼が、――堪らなく、愛おしい。「大丈夫ですよ、今回だってなんとかなったじゃないですか」「でも、次はまにあわないかもしれない」「私もミドリさんに、護身術を習います」「相手の男のほうがもっと強いかもしれない」炯さんの不安は晴れないのか、ただの可能性で否定してくる。「炯さんは私を、守ってくれないんですか」「絶対に守るに決まってるだろ!それでも……」「だったら、大丈夫です」彼を抱き締め、いつも私にしてくれるみたいに背中をとんとんと叩く。「炯さんが絶対に守ってくれるんなら、少しくらい危険な目に遭ったって大丈夫です。炯さんは絶対に私を守ってくれるんだから、絶対にピンチにまにあうんです。だから、絶対に大丈夫です」自分にも言い聞かせるように〝絶対に大丈夫〟と繰り返した。私はもしこの先、また危険な目に遭って、今度こそ炯さんと会えなくなっても――今度こそ殺されたって、その気持ちがあれば十分だよ。それにたとえどんな危険が待っていたとしても、炯さん以外の人となんて一緒の人生を歩んでいけない。私の気持ち、届け……!「……そうだな」そっと炯さんの手が、私の頬に触れる。レンズの向こうの瞳は、濡れて光っていた。「なにがあっても俺が絶対に凛音を守る。だから、安心していい」泣き出しそうに彼が笑う。「はい」たぶん、私
Dernière mise à jour: 2025-11-03
Chapter: 第十一章 ワルイコトが起きても大丈夫 2
「炯さん?」「あ、いや。飲めたんならよかった」慌てて笑って取り繕ってきたが、なんだったんだろう?「炯さんは朝食、食べないんですか?」「あ、俺か?俺はそれ作りながら、端を摘まんだからいい」などと彼は笑っているが、それは反対に心配です……。スムージーを飲んだあと、炯さんもベッドに上がって私を抱き締めてくれた。まだダメージの抜けきらない私としてはありがたいけれど、いいのかな。「炯さん。お仕事はいいんですか?」別に、仕事に行けと催促しているわけではない。それよりも今は、こうして一緒にいてほしい。しかし、ワーカーホリック気味な彼が、休みでもないのに家に居るのは気になる。「しばらく休みにした。凛音もそのほうがいいだろ」「……ありがとうございます」甘えるように彼の胸に顔をうずめる。いいのかな、本当に。私のために、そんな無理をさせて。「……その。昨日ははしゃいではぐれてしまって、すみませんでした」私がはぐれたりしなければ、あんな危険な目には遭わなかった。炯さんをこんなに心配させずに済んだ。後悔してもしきれない。「どうして凛音が謝るんだ?悪いのはアイツだろ」「でも……」それでも、申し訳ない気持ちが先に立つ。「それに悪いのは俺だ。俺が凛音から手を離したりしたから……!」強い声がして、思わずその顔を見上げていた。炯さんの顔は深い後悔で染まっていた。「炯さん……」そっと脇の下に腕を入れ、広い彼の背中を抱き締め返す。「炯さんは悪くないですよ。仕方なかったんです」あの人混みではぐれるなというほうが無理だ。私が彼とはぐれたのは仕方なかった。彼が私を見失ったのも仕方なかった。ただ、運が悪いことにそれを悪い人間が利用した。それだけなのだ。「仕方なかった、か」「はい、仕方なかったんです」それで片付けていいのかわからない。でもこれは、そうするのがいいのだ。炯さんは私を子供のように膝の上に抱き上げて、ずっと髪を撫でている。それが酷く落ち着いて、意識がとろとろと溶けていった。「……なあ、凛音」「……はい」「婚約、破棄しようか」「はいーっ?」さらりと爆弾発言され、さすがに目が覚めた。「なに、言ってるんですか?」炯さんは本気で言っているんだろうか。信じられなくて彼の顔を見る。彼は私に視線は向けてい
Dernière mise à jour: 2025-11-03
Chapter: 第十一章 ワルイコトが起きても大丈夫 1
目が覚めたら、炯さんの腕の中にいた。「おはよう、凛音。身体、つらくないか?」「……はい」彼は私を気遣ってくれるが、目の下にはくっきりとクマが浮き出ている。もしかして、眠れていないんだろうか。「腹、減ってないか?それとも喉が渇いてる?」炯さんは私を心配しているが、私は彼が心配になった。「なんか持ってくるな。凛音はまだ、寝ていていいからな」「あの、炯さん!」寝室を出ていこうとした彼を止める。「その。……お手洗いに、行きたいので」こんなことを言うのは恥ずかしいが、そうでもしないとこのまま今日はベッドに拘束されそうだ。「あ、ああ。そうだな。どうぞ」ドアを押さえ、彼が道を譲ってくれたので、ベッドを下りてお手洗いへ向かう。用事を済ませながら目に入ってきた私の手足には、包帯が巻いてあった。気づくと同時に、そこがじんじんと鈍く痛み出す。「けっこう擦れてたもんなー」昨日は異常事態だったから感じていなかったが、もしかしてけっこう酷い傷になっていたりするんだろうか。痕にならなきゃいいんだけれど。トイレを出たら、炯さんが壁に寄りかかって待っていた。「えっと……」もしかしてそんなに切羽詰まっていたんだろうか。しかし、この家にはトイレが二カ所ある。「大丈夫か?どこか痛いとかないか?」過剰なくらい彼は心配してくるが、昨日の今日ならそうなるか。「大丈夫ですよ」手首と足首は痛むが、平気だと笑顔を作る。これ以上、彼を心配させたくない。「食欲はあるか」「そうですね……」あると答えたいが、まったく食べたいという気が起こらなかった。炯さんと一緒にこの家に帰ってきて落ち着いたと思っていたが、心のダメージはそう簡単にはいかないらしい。「……すみません、ないです」情けなく笑って顔を見ると、みるみる彼の表情が曇っていった。「凛音が謝る必要ないだろ。ベッドで待ってろ、なんか飲むもの持ってくる」「……はい」僅かな距離なのに炯さんは私をベッドにまで送り届け、寝室を出ていった。「うーっ」こんなに炯さんに心配をかけている自分が情けない。昨日だって、初めてのお祭りではしゃいで私がはぐれたのが、そもそも悪かったんだし。「凛音」少しして炯さんは大きめのグラスを手に戻ってきた。「これなら飲めるか?」「ありがとうございます」受け取
Dernière mise à jour: 2025-11-03
Chapter: 第十章 ワルイコトはワルイコトです 4
「連れて帰ってきた」「おかえりなさいませ……!」帰ってきた俺たちを見て、出迎えたスミは目に涙を浮かべた。意識のない凛音をベッドへ寝かせ、スミが呼んでいた医者に診てもらう。手首と足首は縄が擦れたのか血が滲んでいて、痛々しい。しかもきつく猿轡を噛まされていたせいか、唇の端も切れていた。詳しい結果はまだあとだが、とりあえずはなにか薬を使われていた形跡はなさそうで、ほっとした。スミたちに感謝を伝えて帰し、軽くシャワーを浴びて寝室へ戻る。「うーっ、ううーっ」「凛音?」うなされている彼女に気づき、ベッドに駆け寄った。身体を丸め、凛音は苦しそうに息をしている。医者は大丈夫だと言っていたが、やはり異常があるのでは。不安に駆られながら、その華奢な身体を抱き締めた。「苦しいのか?医者を呼ぶか?」少しでもその苦しみを和らげようとゆっくり背中を撫でてやる。すぐに彼女は穏やかな呼吸になり、すーすーと気持ちよさそうに寝息を立てだした。ただし、縋るように俺の寝間着をきつく握りしめて。「傍にいるから、安心していい」つむじに口付けを落とし、凛音を抱え直す。夢の中ではまだ、彼女はあの男に捕らえられているのかもしれない。なのにひとりにするなど、申し訳ないことをしてしまった。「ごめんな、凛音。本当にごめん」今回はベーデガーの個人的な偏執で家も俺の仕事も関係なかったが、またいつ同じような状況になるかわからない。今までだって何度か誘拐未遂に遭っているし、その危険は俺との結婚でさらに上がっている。「どうするかな……」凛音を籠の中に――狭い世界の中に閉じ込めてしまえば、危険は格段に減るのはわかっていた。凛音の親も彼女の自由を制限していたのは、その理由もあったのだと理解している。それでも俺は、彼女を外へ出してやりたかったのだ。あの日、俺の隣でキラキラ目を輝かせて遊んでいる凛音が、不憫になるのと同時に堪らなく愛おしくなった。さらに、素敵な殿方と恋をしたいので抱いてくれと俺に頼んでくるほど、度胸もある。……この可愛い女を俺のものにしたい。俺のものにして、本気で恋に堕としたい。それは俺が、初めて抱く感情だった。今まで人並みに女性と付き合ったことはあるが、凛音にここまで本気になるとあれは本当に恋だったのか疑わしい。凛音のことになると、まるで高校生の
Dernière mise à jour: 2025-11-03
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