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相木ふゆ彦
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Novels by 相木ふゆ彦

ダメだし夫からさよならして冷酷社長に溺愛される人生を選びます

ダメだし夫からさよならして冷酷社長に溺愛される人生を選びます

結婚四周年の沙織は、残業する夫の元にいくと不倫され、離婚を突きつけられた。財産も奪われて追い出された沙織はある幼なじみを当てにする……しかし、沙織を巡って弁護士になった後輩、ライバル会社のエースなどが動き出した――。
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Chapter: 第11話 1461日の輝き
「鮎川さん、こっちを頼むよ」今日も沙織は忙しく、あちこちから呼び止められていた。彼女は、もうコア検査チームに抜擢されている。沙織に言いがかりをつけられたと騒いだ試香室の主任は降格となった。試香室でもコア検査チームでも、誰ともなく沙織の許可を得てから作業が進むようになってきた。「”アデリア”の原材料をすり替えてミライに売っていたスパイ、きちんと特定されたみたいだね。解決できたのは、鮎川さんのおかげだよ」「いえ、解決して良かったです」にこりと沙織は、コア検査部の部長に笑う。まるで結婚する前に戻ったようだ。義母に怯え、隼人の言いなりで、家の中に居場所がなかった生活からはさよならした。自然と、自分のかける時間も増えて、今の沙織は肌も艶が出て顔色もいい。朝は、ファンデーションを乗せて今までとはワントーン肌が白くなっていることに気が付いた。ふとトイレで鏡を見ても、以前より若返って見える。ゆるやかに戻ってきた調香の自信が、彼女の雰囲気も変えた。「鮎川さんて綺麗だよね、年上に見えないー」「社長と仲がいいのよね? お似合いだわ~」離れたところで、女子社員たちが囁きあう。その声は、仕事に集中する沙織には聞こえていなかった。昼休みになると、沙織は待ち合わせのカフェに行った。朝霧司と、元夫の隼人の対策について話し合うためだ。司は先に来ていて、パソコンに熱心に向かっていた。「ああ、鮎川先輩」眼鏡を拭いた司が、穏やかにほほ笑む。通りすがる女性たちがちらりと司に視線をやる。それも無理はない、と沙織は苦笑した。弁護士なのはバッジで分かるし、仕事の出来る男のオーラが漂っている司は、本人の意思なく目立っている。「接近禁止令なんですが……今のところ難しいんです」沙織が隣に座ると、司が切り出しにくそうに告げた。 「今の時点で情報をまとめると……元夫が妻の実家まで押しかけた。「金をよこせ」などと怒鳴った。店の営業に支障が出た、家族が恐怖を感じた。今後も来る可能性が高い。これらは、単なる口論ではなく
Last Updated: 2026-07-31
Chapter: 第10話 過去の思い出
「なんだか、大騒ぎになっちゃったね……」「沙織が気にする必要はない」塔矢奏多と沙織は、奏多が運転するメルセデスベンツの中に居た。隼人の暴走を警告してくれた知加子へ、お礼のメッセージを打っているとスマホが鳴った。「お母さんだ……」「どうせなら、顔をだしたらどうだ? 少し寄り道するだけの話だ」奏多が微かに笑む。沙織の実家”あゆかわ食堂”は、奏多も小さいころに父とよく通っていた。よく見ると、母と父とそれぞれから着信履歴がたくさんある。「いいの? それなりに遠出だけど……」「構わん。せっかくだ、ご両親に顔を見せて安心させてこい」「きっと、満腹になるまで食べさせられるね」沙織が、安心しきった笑顔を見せた。今日の騒ぎに、予想外に疲弊しているのだ。それに両親には、最低限の話しかしていない。きっと、そうとう心配をかけているはずだ。これから行くとメッセージを入れたが、あゆかわ食堂はまだ混雑している時間だ。昼はランチだが、夜は半ば居酒屋のようになる。OL向けのヘルシーメニューなどは、沙織も手伝っていた。 「あぁ、沙織! 良かった、心配したのよ」「沙織……おまえ、大丈夫なのか?」あゆかわ食堂の、のれんをくぐると、エプロン姿の母と父が仕事の手を止めて沙織を出迎えた。その引き攣った顔に、沙織は嫌な予感がした。「もしかして、ここに高山がきた……?」「仕込みの時間に、若い女とここにきてね。沙織の財産がどうのって怒鳴り込んできたのよ」「ああ……ごめんなさい」もっと早く、知らせておけばよかった。隼人のやりそうなことだ。塔矢フレグラスを警備に追い出されて、そのうっぷんばらしに沙織の実家に突撃したのだろう。「本当にごめんなさい……!」「いいんだよ。隼人さんがあんなひとだとは思わなかった。あんたが時々寂しそうに電話をかけてきていたときに、こっちがもっと突っ込んできけばよかったねぇ……つらかったろうに」食堂の客に聞こえないように、囁きあって沙織は親不孝を恥じた。抑えていた涙が、頬を伝う。
Last Updated: 2026-07-29
Chapter: 第9話 修羅場
エレベーターが一階に着き、ドアが開くと、隼人がエントランスの真ん中に立ち、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。川辺美緒が彼の腕にしがみつき、そばでことさらに傷ついたふうを装っている。警備員が制止しようとしているが、隼人の声はやけに大きく、退勤途中の社員たちが大勢足を止めて見物していた。沙織の姿を認めるや、隼人は目を剥いて飛びかかろうとした。「よくもぬけぬけと――」「そこを動くな」奏多が一歩前に出て、長身を盾にするように沙織の前に立った。声は氷のように冷たい。 「ここは塔矢フレグランスのオフィスエリアだ。これ以上騒ぐなら、警備員に業務妨害で通報させる」隼人はその迫力に一瞬ひるんだが、すぐに首を突き出すようにして喚いた。「俺は元妻に夫婦の共有財産を請求してるだけだ!あんたには関係ない!」「離婚登記は既に済んでいます。夫婦関係は存在しません」別の声が横合いから届いた。朝霧司がブリーフケースを手に歩み寄り、沙織の右斜め後ろに立つ。司は眼鏡を押し上げ、隼人へ冷ややかな視線を向けた。「ちょうどいいところです。こちらにも渡したい書類があります。婚内不貞の確たる証拠、そして鮎川さんの婚前財産を不法に占有した明細を含む、補充の証拠資料です。裁判を望まれるなら、いつでも受けて立ちます」隼人は彼の手にある書類を見て、顔色を白くしたり赤くしたりした。「やれやれ、ずいぶん賑やかだな」なんと瀬名大地がまだ帰っていなかった。エントランスの柱に背を預け、腕組みをして面白そうに眺めている。彼はゆっくりと歩み寄り、隼人を一瞥すると、気のなさそうな口調で嘲りを落とした。「自分の妻の才能にも気づかず、ただ喚いて金を要求するだけじゃ、愛想を尽かされるのも無理はないな」 三人の男、それぞれに違う立ち姿だったが、いずれも沙織の側に立っていた。奏多の視線が、隣の朝霧司を流れ、さらに傍らの瀬名大地へと走る。眉根がほんの微かに寄せられたが、すぐにまた冷たく硬い表情に戻った――この二人が、よりによってこの場にいるとは予想外だったのだろう。司はその視線を感じ取り、かすか
Last Updated: 2026-07-27
Chapter: 第8話 品質管理室の異香
「そうです、あの人――あの人が、香料が違うと言って」沙織は、指をさされてひるんだ。出勤二日目、昨日沙織が指摘したことは主任のプライドをかなり刺激してしまったらしい。取締役の視察に同行していた奏多の目の前で、突撃してきた主任が沙織を弾劾したのだ。「いやしかし、入社二日目の新人ですから……」「それほど相手にすることはないでしょう」重役たちが口にする中、奏多は切れ長の瞳を沙織に向ける。 「遠慮なく、言ってみろ。そもそもはお前の作品だ」「はい。ええと……『アデリア』には本来、スパニッシュジャスミンが入っているのですが、スパニッシュジャスミン特有のティーノートが、今回は感じ取れないんです。私が感じたのは、アラビアンジャスミンという種類で、スパニッシュジャスミンには入っていない、動物的な香りがしているんです。あと決定的なのが、オレンジブロッサムではなく、ネロリが使用されていることです。オレンジブロッサムとネロリはそもそもは同じ花から抽出しますが、ネロリが水蒸気蒸留なのに対して、オレンジブロッサムはアブソリュートなんです」「と、いう事だ。今すぐ成分分析を頼む」不満そうな主任を筆頭に、”アデリア”の成分調査が始まった。沙織は自分の鼻を信じていたが、奏多もまた沙織を信じて疑わないようだった。彼の整った顔には、戸惑いはひとかけらもない。「し、信じられません――彼女の言う通りでした!」泡を食ったように、試香室チームが戻ってきた。部屋全体が、ざわざわとざわめく。――なんということだ。――信じられない。どよめく社内で、奏多はこの間違いを誰が行ったかを調査するように命令した。沙織に向けては、微かに「よくやった」という笑みを見せる。社内は騒然としたまま、トラブルの原因を洗い出した。どうやら、原料は人為的にすり替えられたようだ。購買担当者のミスかと思われたが、重役の責めで競合会社”ミライ”に買収されたことが判明した。沙織がいなければ、あやうく間違った香りを販売するところだった。「鮎川沙織は、今日からコア検査チームに抜擢だ。ぞんぶんに働い
Last Updated: 2026-07-24
Chapter: 第7話 哀れな元夫
高山隼人は、川辺美緒と話し込んでいた。仕事時間だが、隼人も美緒も気にしていない。美緒は秘書課に縁故採用で、採用されている。強いコネがあるので、堂々と仕事をサボっている。美緒が彼のデスクに寄りかかり、甘ったるい声で話しかけるのを聞いて、彼はすっかり有頂天だ。「沙織のやつ、大金を隠してたなんてな。その金を手に入れたら、ヨーロッパに新婚旅行に連れて行って、ブランドバッグもたくさん買ってやるよ」「本当?嬉し~い!」美緒は目を輝かせ、それからわざとらしく眉をひそめた。「でも、オバサンに着信拒否されてるんでしょ。素直にお金を出すかしら?」「問題ないさ。実家はまだ繋がるし、適当に話せば情報がくる」美緒と親しくなったのは、去年のホームパーティーからだ。凄い家庭的な奥さんですね~でも私なんて……。そう切り出してきた美緒の目は、隼人を見て潤んでいた。同期の中でも、係長に出世したのはまだ隼人だけだ。尊敬していると言われて、寄りかかられてからは隼人も夢中になった。思えば、沙織は気に食わなかった。完璧な妻であり、いつも隼人を支えてくれるがこんな風に甘えたことはない。母の目さえなければ、いつでも美緒を家に呼ぶつもりだった。そのための資金は、もうすぐ沙織から手に入る。「失礼します。高山係長あてに速達です」部下の一人が、ノックして速達の封筒を持ってくる。美緒のことは見ないようにして、渡すなり出て行ってしまう。お茶ぐらい、淹れていけ――隼人の機嫌が悪くなった。役に立たない部下だと思いつつ、それでも沙織から金が入れば有給で美緒と旅行も悪くない。気分は再びあがってきた。なにかブランドもののプレゼントをしてもいい。自分用に、いい時計でも買おうか。そう思いながら封筒を見ると、差出人:朝霧法律事務所。朝霧司。いかめしいその封筒からは、嫌な予感がする。書類を取り出した隼人は、読みながらどんどん顔が青ざめていくのを止められなかった。「嘘だろ……どういうことだ、沙織のやつ! 生意気な……」青ざめていた顔は、怒りのあ
Last Updated: 2026-07-22
Chapter: 第6話 大学の後輩
沙織は、昼食の時間で塔矢フレグラスの会社を出た。昨夜、連絡してきた大学時代の後輩、朝霧司がきているはずだ。待ち合わせ場所には、 スーツの若い眼鏡の男がひとまち顔で立っていた。「鮎川先輩、お久しぶりです」「久しぶり、司くん」最後に会ったのは、沙織の結婚式だったと思う。知的で端正な顔には、大学時代の面影より、より大人びている。司の黒いスーツにはひまわりのマークの弁護士バッジが光っている。司が取り出した名刺には、朝霧法律事務所・代表弁護士と書かれている。「鮎川先輩、戦いましょう。財産がなにも割り当てられないのはおかしいです。無償でいいので、僕にやらせてはくれませんか?」司と沙織は、近くのカフェに入った。サンドイッチとコーヒーを頼み、テラス席に座る。司に、改めて離婚した状況を話すと、眼鏡ごしにその眼光が冷たくなっていく。「一切の財産放棄、婚費ゼロ、精神慰謝料ゼロ……先輩、これがどれだけ異常な内容か、わかってますか」沙織は、食欲はなかったが何か食べねばならないと思って、一生懸命にサンドイッチを食べる。「二人で協力して生活を維持していたのなら、法律でも婚姻中に築いた財産は夫婦の共有財産として認められているんですよ?」「私、あの家をただ出たくて、それで、離婚届にサインをして……」隼人の発言からして、会話が成立するとは思えなかった。そして、沙織にはそんな隼人と離婚調停で長々と戦う気力もなかった。ただ、こんな男とはもう関わりたくない。その気持ちだけで、飛び出したのだ。それでも、今朝の電話で裁判だと言い放った隼人の声は本気だった。弁護士である司に、そのことも説明する。「それこそ、共有財産として言い張るのかも……でも、このことは美里にはまだ内緒にしていてね。そのうち自分で話すから」「わかりました。それにしても隼人さんが、先輩のお金を欲しがっている? 異常ですね」ホットコーヒーを飲んだ司が、眼鏡を拭く。その表情は、サークルや大学で見た親しみやすい司にはなかった表情だった。「不貞行為による民事上の責任
Last Updated: 2026-07-20
運命にあらがう俺は、異能でSランク宇宙人をぶっとばす

運命にあらがう俺は、異能でSランク宇宙人をぶっとばす

西暦2000年に地球外生命体が地球を襲った。宇宙人たちは様々な形態をしているが、狙いは地球人の感情、文化、歴史だった。銃火器は役に立たず、地球人は宇宙人から超常の力を手に入れて、異能で地球外生命体と戦うこととなった。この作品は、チートと呼ばれる主人公の復讐と成長の物語である。
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Chapter: 第22話 極秘ミッションスタート2
「あれは――Bランクのソウゲンオオカミ型です!本部は動いているんですよね?」   宮田オペレーターが口を覆う。 生島と宮田中尉は、お茶の水基地の司令室で偵察ドローン《スカウトオービット》の映像を、密かに確認していた。  何も手助けができないが、結末を知らなくてはならない。 一方剣崎(けんざき)副司令は、いつものオペレーション任務で詰めている。  生体反応を探し出す剣崎の異髄力”ニューロ・パルス”は、事務方ではレアな異髄力の一つだ。なかなか替えは利かない。 「おそらく――だが、本部もいま市原支部の受け入れをしている最中だし、後詰の部隊は新横浜支部の協力に向かった。……人手が足りるといいのだが」 「こちらから応援をだせないのですか?」 「シェルターから有識者を連れ出したであろう時間、仕事でアリバイがある部隊だけを選出したんだ。出したら極秘ではなくなってしまう……」  生島の声がしぼむ。 出せることなら、だしてあげたいのは生島も同じだ。  映像の向こう側では、カガリがソウゲンオオカミ型の地球外生命体《ヴォイドフォーク》を縫い留めて、旅客機型コープスイングをどうにか先にいかせようと悪戦苦闘している。  旅客機型の中にいる有識者を一度に失ったら、地球外生命体《ヴォイドフォーク》の侵略はさらに過激になるだろう。 人間という生態や感情、歴史などが| 地球外生命体《ヴォイドフォーク》のねらい目だ。  倒すことより、有識者たちの命を富士山麓の特別シェルターに運ぶことが、任務である。 「あれは――さらにDランクのスライム型でしょうか?」  ソウゲンオオカミ型を空間に固定して離脱しかけた集団に、また地球外生命体《ヴォイドフォーク》が降り注ぐ。 旅客機型コープスイングに、丸い球体が張り付いた。 「いや、変化していく!……なんだあれは?」  生島の険しい目線の先で、球体はキノコへと変化した。 「あれは――ツキヨタケ型地球外生命体《ヴォイドフォ
Last Updated: 2026-07-31
Chapter: 第21話 極秘ミッションスタート
 奥多摩支部基地は、ざわめいていた。 旅客機型のコープスイングが動くことといい、他支部の応援が来ることといい普通ではない。  この作戦に参加しないものは自室以外に立ち入り禁止になり、ひとけは減ったもののざわざわしている。 「さっ、そろそろ支度だよ。三度目だけど、シュミレーション確認と装備の確認しよーね」  御厨《みくりや》大尉が声をかけると、オフィリア05部隊の不知火カガリ、種田上等兵、五百雀《いおさき》月子たちが動き出した。 「御厨先輩、それ三度目ですよ?」  御厨をからかうように声をかけたのは、鷲塚晴一中尉。 ローゼン02部隊の隊長だ。 「うちの部隊の話だから、気にしないで」  付き合いの長い相手だが、御厨は苦手になってしまった。 入隊して、出世して隊長などにならない限り部隊は固定化される。  今年、お茶の水基地で新人が二人も入った部隊はオフィリア05部隊だけだ。 去年、夏と秋に隊員を一人ずつ亡くした。  それから春の新人入隊まで、他部隊の補助要員として動いていた。 そのせいで、意見を言うのが怖い。  鷲塚中尉はその辺、副隊長が隊長に昇進しての新人導入であったし、御厨とは立場が違う。 「人の部隊のことは、余計なお世話じゃないですか?」  カガリが、鷲塚隊長の目を見て平然と口を出す。 「すみません、隊長。こいつほんとに生意気で!」  揚羽がカガリを小突きながら謝らせようとするが、体格が及ばない。 鷲塚も、鼻で笑い返した。 「そっちこそ、よその部隊の隊長に余計なお世話じゃないのか?」 「まあまあ、作戦前にもめるのはよしませんか。自分が抜けたあとも、もめごとは厳禁ですよ」  飄飄とした種田が間に入り、緊迫した空気が緩和される。 このあと頼りになるベテランは、移送される箱の中に入ってしまう。  御厨も、止めるべき立場だったがおろおろして終わっ
Last Updated: 2026-07-29
Chapter: 第20話 2つの気持ち
 久遠揚羽は、イライラとして自室に戻った。 自室といっても二人部屋だ。  同じ階級で部屋は決まるので、兵長である揚羽より下は四人部屋となる。 「あーもー、なんでこんな腹たつんだろ……」  月子は初陣を失敗したことを悔やんでいたが、カガリは気にしていなかった。 それはいいことなのだろうが……何故か揚羽の胸の中はすっきりしない。 「なんか、どんどん背が伸びてるし……」  揚羽がよく知るカガリは六歳から十五までのカガリだ。 その頃は揚羽のほうが背が高かったし、カガリが自分の後ろをついてくるのが可愛かった。  反発することも少なかったし、怪我人がでるたびに本部に呼ばれては連れていかれるのが可哀そうに思っていた。 小さい頃のカガリは、二人も治すとバテて寝込んでいたからだ。  体の成長と共に異髄力も増したのだろうが、口数は少なくなっていって目つきは鋭くなる。 しかし、揚羽を見る目は変わらず優しかった。  防衛高には家から通えたのに、カガリは寮に入ることを選んだ。 遠慮していたのだろうか、当時二年生の揚羽は悩んだものだ。  入学したカガリは防衛高で高い成績を出しながら本部に通う。 そんなカガリを見ながら一年、揚羽は卒業して入隊した。  一年目は、追いつくのに必死だった。 自分も実家に帰る余裕はなく、カガリが入隊したら通常業務に追加で人を癒すのかと、想像しただけで疲労したぐらいだ。  そんな揚羽を、カガリはさんざん甘えさせてくれた。 規則正しい生活のカガリに、長電話したり外で食事をしたり。  だから揚羽の中で一時はカガリは、全般的に優しい人間だと思っていたくらいだ。 それが、入隊してきたカガリの周囲の態度が一変していてびっくりしたのだ。 「いつから、ああだったんだろう……」  クッションを抱きしめて、揚羽はベッドに寝転がる。 もしかしたら、カガリの今までの揚羽への態度は「特別」だったのではない
Last Updated: 2026-07-27
Chapter: 第19話 作戦会議
 防音の会議室に、オフィリア05部隊とローゼン02部隊が集まった。 指揮をとるのは、基地司令の生島だ。  副司令の剣崎は、その異髄力でそうそうオペレーションルームから離れられない。 ローゼン02部隊にも事情を話すところから始まり、カガリたちは机の上の駒を眺めていた。 「我々の担当は、奥多摩の有識者の移動だ。旅客機型のコープスイングでおよそ三十分と少しといったところか。他の支部はそれぞれの県で応援を受けるとのことだ。本部は一部は護送、残りは先に富士山麓で、受け入れ態勢をとる」  生島は、飛行機のおもちゃを地図に乗せる。 「地球外生命体《ヴォイドフォーク》の素材で隠蔽した箱には、一つずつ隊員一人を付き添うことになる。他の隊員は、常に旅客機型のコープスイングから一定の距離で護送してほしい。旅客機型のコープスイングの操縦は、奥多摩支部から人が出る」  人型のおもちゃを、生島が飛行機の側に配置した。 つまり、部隊から一人ずつ有識者たちの付き添いにだし残り三名ずつが、万が一の襲撃に備える役だ。  はい、と種田上等兵が手をあげる。 「有識者の付き添いは、自分がやります。ここは若手よりベテランのほうが、不安にも対応しやすいでしょう」 「では、うちの部隊でも最年長を出します」  ローゼン02部隊の鷲塚中尉が、年かさの隊員に頷いた。 いくら頑張って声をかけても、見た目の力は強い。  ここは貫禄があるほうが、適任だろう。 「部隊で前方と後方にわけたほうがよさそうですね。うちはどちらでもいいですよ。《《新人さん》》を二人抱えている、オフィリア05部隊のほうで好きなほうを取ってください」  鷲塚が、結んだ長い髪を背中に流す。 御厨《みくりや》大尉がカガリを見たので、カガリは口の形でぜ・ん・ぽ・う、と伝えた。  どちらでも良かったのだが、前方のほうが危険な気がしたのだ。 「では、前方で」 「承知しました。では、我々は後方で」 
Last Updated: 2026-07-24
Chapter: 第18話 恋のカケラ
「いやー、せっかく彼氏が出来たのにな~。過密スケジュールでデートが遠のくよ~」  廊下を歩く御厨《みくりや》大尉が、明るい声で愚痴った。 重大な任務を任されたが、全員の足取りは軽い。 覚悟は、皆が決まっていた。 「え、合コンうまくいったんですか?」 「なんでヒいてるの、不知火くん!!」 「ははは、おめでとうございます、隊長」  カガリの袖が、ふいに引かれる。 正体は、五百雀《いおさき》月子だった。 「あの、ちょっといいですか?」  先月まで対等だった月子は部下となってから、敬語を貫く。 当然のことだが、今はその言葉にとげがあった。 「ンだよ?」 「なんで、私だったんですか」 「はあ?」 「あの学者を連れて帰る役割――」  何故かけわしいその顔に、カガリは面倒そうな顔つきをしてしまう。 防衛高時代から月日は経っていないのに、どうしてこうも頑なになったのか。 「なんでって、隊で俺の次に速度だせるのお前じゃん」 「え……?」 「タネさんが部隊で一番遅いんだぜ。隊長は指揮があるし、オレはいざってとき足止めの異髄力があるわけだし、どう考えてもお前だろ」   月子の肩から力が抜ける。 何か検討違いなことでも考えて、つっぱらかっていたに違いない。 「上官じゃなくて、同期としてもっとオレを信じろ。おまえを使えないと思ったことなんかねえよ」   カガリは月子の頭をわしわしと撫でる。 途端に壁によろけた月子に、カガリのほうが今度はいぶかし気な表情を浮かべた。 「どした? つーかお前具合でも悪いんか」  片腕で月子の体をしっかり立たせると、軽くしゃがんでその額に自分の額を押し当る。 見る見るうちに、カガリの額にも熱が移ってきた。 「し、失礼します!」   月子が、大声を
Last Updated: 2026-07-22
Chapter: 第17話 後始末
 月子がお茶の水基地に飛び込むと、基地に付随したシェルターが解放されていた。 地下は深い。  そのままコープスイングでシェルターに飛び込むと、長い長い闇に包まれる。 何重もの内扉が、素早く月子の前で開閉していった。 「う……う」  コープスイングに括り付けた男が、くぐもった声を出す。 意識が戻ってきたようだ。  ここで暴れられたら、落ちて死なれてしまうかもしれない。  月子が加速して地下三十階以上の地面に降り立つと、待ち構えていた隊員たちが男を羽交い絞めにした。 「五百雀《いおさき》二等兵ご苦労。後の始末はこちらでしておく。このまま武装解除しろ」 「しかし、まだ部隊は哨戒中です! 私一人だけが戦線離脱は――!」 「五百雀二等兵、同調率は今70|IzF《イズ・フラックス》だそうだ。気持ちはわかるが、武装解除しろ」  イレギュラーが起きて、思わず同調率が上がったのだろう。 くやしさで歪みそうな顔をこらえて、月子は地上に上るエレベーターに案内された。  そもそも、何故この男を運ぶのにカガリは月子を指名したのだろうか。 バイオメタリック・エクソスーツを着ている限り、男女の力の差は関係がない。  あの一瞬で、カガリは月子の同調率の高さを見抜いたのだろうか。 種田に命令があってもおかしくないのに、何故自分が選出されたのだろう。  おそらくは、月子の力不足のせいだ。 「五百雀二等兵、司令室から呼び出し。至急、司令室へ出頭せよ」  バイオメタリック・エクソスーツから軍服に着替えていると、アナウンスが流れる。 おそらくは事情の説明だろうが、月子は男の捕まった経緯を知らない。  汗ではねたショートカットをなんとか撫でつけて、司令室をノックした。 「どうぞ」  穏やかな生島司令の声がして、月子は背筋を伸ばして入室する。 「五百雀《いおさき》くんだね、座ってくれないか」
Last Updated: 2026-07-20
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