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第44話

last update 最終更新日: 2025-07-01 17:00:00

「あんなの気にするな。陽菜は可愛いし、何より俺は……お前のことが好きだから。それで良いだろ?」

伊月くんが、私の肩にそっと手をまわしてくれる。

「うん、そうだね。ありがとう」

不思議。伊月くんの言葉ひとつで、モヤモヤしていた心が一気に晴れたよ。

……と、思ったものの。

「ああ、可愛くなりたい……」

「陽菜ーっ、どうしたの?」

朝礼後。机に肘をついてぼーっとしていると、目の前には羽衣の顔。

お団子ヘアがトレードマークの羽衣は、今日も元気いっぱいで、目がくりっとしていて、とっても可愛い。

「ねえ、羽衣はどうしてそんなに可愛いの?」

「えっ。どうしたの、急に」

こんなこと、普段は言わないけれど。改めて羽衣って可愛いなあって思ったら、口が勝手に動いていた。

実は羽衣は、私たちの学年では麻生さんに次いで可愛いと言われていたりする。

「いきなりそんなことを聞くなんて。陽菜、何かあった?」

「いや……」

「心配しなくても、陽菜は可愛いよ?」

「そう……かな?」

可愛いと言ってくれるのは嬉しいけど、それはきっと、親の欲目ならぬ友達の欲目ってやつだよ。

「ははーん、分かった。陽菜、佐野くんのためにもっと可愛くなりたいんだね?」

「えっ?」

「よし。そういうことなら、わたしに任せなさい!陽菜に、メイクのやり方を教えてあげる」

羽衣が、自分の胸をトンと叩く。

言われてみれば、いつもはリップを塗るくらいで、そこまでしっかりとお化粧をしたことはなかったから。一度、ちゃんと教えてもらいたいかも。

「羽衣、お願いしても良い?」

「もちろん!わたしと一緒にメイクや自分磨きを頑張って、佐野くんを今よりもっと惚れさせてあげようね?」

「もっと惚れさせて……って!もう、羽衣ったら何言ってるの!?」

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