不機嫌になるキャスリンを横目に、私はつい笑ってしまう。
「本当に昴生らしいなって…彼、本当に不思議な人だから。」
いつの頃からか死を考えるようになっていた私を、どん底から救ってくれた人。
昴生がいたから、私はもう一度立ち上がることができた。 彼がいたから、生きようと思えた。「昴生は私に、生きる希望をくれた人です。
だから私も、そんな彼に答えたい。 しっかりと前を見つめて生きていきたい。 そう思わせてくれる人です。」「ふ、…ふん!私と一緒ね!分かってるじゃない!」
キャスリンは少しだけ照れくさそうに、プイッと顔を横に背けて、また料理に集中し始めた。
第二の勝負は私の完敗。単調な和風料理だったから、新鮮味に欠けたのが敗因理由だった。 私が作ったのは、照り焼きチキンに、卵焼き、ヒジキの煮物、ほうれん草の胡麻和え、具沢山のお味噌汁だ。 いつも昴生が美味しいと言ってくれるし、自身があったんだけどなあ。一方のキャスリンは和風テリヤキバーガーで、日本寄りの手作り料理を作った。
バンズは自身で作り、ふわっとした食感にこだわり、ほのかに抹茶の香りを付け足した。 パティはビーフ100パーセントに、味噌と生姜をブレンド。 和の深みを感じさせる仕上がりになった。 付け合わせのフライドポテトにも一工夫加えた上に、柚塩コショウをふるなど、アイデア満載の料理ばかりだった。「侑さ〜ん!裏切ってごめんなさい〜!
確かに侑さんの料理も、家庭的ですっごく美味しかったんですよ? お母さんの味!って感じで好きです! でも……キャスリンさんの料理、初めて食べるものばかりで、インパクトも強烈だし、すっごく美味しいかったんです!」必死で、申し訳なさそうにする鳥飼さん。それに対して私は、穏やに返事をした。
「いいよ、鳥飼さん。気にしないで。
忖度なしって言ったでしょ?」「ワタシも
昴生と出会えたこと。 一緒に生きると約束してくれたこと。 何もかもが奇跡。だからこそ、この熱い思いを今全て言葉にしたくて———。 息を切らすほど演技に集中していたら、スタジオに、皆の間から別の人の影が。 だが皆、その影が気にならないほど私の方を見つめている。 特にキャスリンと、彼女のマネージャーが二人とも涙を流していた。 「『…ねえ、覚えている? あなたが私にかけてくれた、不思議な言葉。 それまでとは全然違うあなたがそこにいて、私はまるで魔法にかけられたみたいだった。 あなたはいつも、気がつけば隣にいてくれた。 あの頃の私の心は脆いグラスのようだった。 けれど私が泣いていれば、あなたはそれ以上涙が流れないように、グラスの傷を癒してくれたよね… 私、ずっと臆病だった。でも、あなたに出会えた。 全てが夢のようで、全てのことが奇跡だった。 あなたの分かりにくい優しさや、深い愛情が、私の心を溶かしてくれた。 だから今はただ、あなたに出会えた奇跡を、心に刻みつけたい。 あなたがいるから私は強くなれる。 あなたが笑ってくれるなら、私はどんな自分にだってなれるよ。 これからも、あなたが隣にいる未来を楽しみにしているね。』」 私はつい、紙を床に舞い散らせた。 「…昴生?いつの間に…来たの?」 「うん。結構前にいたよ。けど、皆、侑さんの演技に夢中で、俺に気づかなかったみたい。」 相変わらずトップモデルみたいな容赦と服装で、昴生は私が落とした紙を拾い上げる。 「はい。これ。」 「あ、ありがとう…もしかして、聞いてた?」 「うん。」 何も書いてないけど、クスクスと昴生に笑われ、真っ白な紙を渡されてしまった… ふわっと昴生の香水が香る。そのまま昴生は私にキスできる距離まで近づき——&
思えば私は、鳥飼さんにも救われてきた。 苦しい時も側にいてくれた鳥飼さんに、私はいつも感謝してる。 それにしても、キャスリンの演技には正直、驚かされてしまう。 豪快なトーン、そして自信満々の表情。 全身を使ってのダイナミックな演技。 手紙を持ち変えたり、あるいは手紙を伏せたりして、キャスリンは目線は力強く上に持ち上げた。 恋人への信頼感が強い、前提の手紙。 私達は揺るがない関係。 怖いものなどない、といった内容。 大成功を収めた、等身大の彼女を見事に反映している。 もしも、キャスリンから昴生がこんな手紙をもらったら少しはクラっとしてしまうんだろうか。 少し前ならそう思っただろう。でもあの夜、昴生と愛し合ったから。 私はもう大丈夫だ。 そんな私が彼にラブレターを書くとしたら…… 「Great!すごいわ、キャスリン!さすがよ!」 あっという間にキャスリンの演技が終了し、彼女のマネージャーが手を叩きながら椅子から立ち上がる。管理人や佐久間さんも、感心したようにため息を吐いた。 確かに息を呑むほど、良かった。 私、自分が役者だって忘れるくらい、キャスリンからいい刺激をもらってる。 負けられない。そんな闘志が湧き上がる。 「どうだった?侑。さっきのは…コーセーに宛てた手紙よ。彼に、今の私の全ての気持ちをぶつけたの! さあ、次はあなたの番よ!」 「私も……昴生へのラブレターを読みます。」 シン、とスタジオ内が静かになった。 キャスリンを含めた皆が、一斉に私を見てる。 真っ白な手紙を持つと、スゥッと息を吸い込む。 そうして私は彼らの前で静かに瞳を閉じた。 「"...Hey, do you remember? The strange words you said to me. You were there, who was comple
いよいよ、最後の勝負。 「侑。これまでのテーマは私が決めたから、最後はあなたが決めるといい。 このスタジオでできるものなら、何でもいいわ! 自分がこれなら勝てる!と思うものにして!」 「私が勝てると思うものを? …分かりました、キャスリンさん。」 最後のテーマを私が選んでいいというなら。 だけど、何がいいだろう… じっくり考えたけど、やはり思いつくのは私もキャスリンも役者だという事。 それに私は長い間、役を演じる事しか知らずに生きてきた人間だ。 そんな私の強みを活かすなら…やっぱり。 「決まりました。最後のテーマは《ラブレター》対決です。 即興で、何も書かれていない真っ白な紙を見て、愛する恋人にあてた手紙を読みあげます。」 「面白そうじゃない!いいわ、侑! これで泣いても笑っても最後…アナタには、絶対に負けないんだから!」 「私だって同じです。」 ふん!っと、これまでと同じようにキャスリンとはお互い顔を背けあったのに。 なぜか私は少しだけ、心地よい感覚を覚えていた。 ずっと、転校ばかりの人生で、プライベートで友人がいなかったせいだろうか? それとも無愛想だと、皆に線を引かれて、自分でも線を引いて、人間関係が希薄だったせいだろうか? 昴生を奪われる気は全くないけど、キャスリンとこうしてるのが何だか… プルプルと首を左右に振り、私は最後の勝負に向けて気合いを入れた。 ジャンケンで買ったのはキャスリンだった。 彼女は綺麗な金髪に、若々しい肌、大人っぽいスタイルをしている。服装もギャルと言ったかんじの。 日本語で話す声もどちらかと言うと甲高い。 けれど私は知っている。アカデミー賞を取ったキャスリンが、演技の最中に話す声は… 手紙を持ったキャスリンの表情が一気に変わった。深い青色の瞳に、熱がこもる。 彼女は真っ白な手紙を持っ
不機嫌になるキャスリンを横目に、私はつい笑ってしまう。 「本当に昴生らしいなって…彼、本当に不思議な人だから。」 いつの頃からか死を考えるようになっていた私を、どん底から救ってくれた人。 昴生がいたから、私はもう一度立ち上がることができた。 彼がいたから、生きようと思えた。 「昴生は私に、生きる希望をくれた人です。 だから私も、そんな彼に答えたい。 しっかりと前を見つめて生きていきたい。 そう思わせてくれる人です。」 「ふ、…ふん!私と一緒ね!分かってるじゃない!」 キャスリンは少しだけ照れくさそうに、プイッと顔を横に背けて、また料理に集中し始めた。 第二の勝負は私の完敗。単調な和風料理だったから、新鮮味に欠けたのが敗因理由だった。 私が作ったのは、照り焼きチキンに、卵焼き、ヒジキの煮物、ほうれん草の胡麻和え、具沢山のお味噌汁だ。 いつも昴生が美味しいと言ってくれるし、自身があったんだけどなあ。 一方のキャスリンは和風テリヤキバーガーで、日本寄りの手作り料理を作った。 バンズは自身で作り、ふわっとした食感にこだわり、ほのかに抹茶の香りを付け足した。 パティはビーフ100パーセントに、味噌と生姜をブレンド。 和の深みを感じさせる仕上がりになった。 付け合わせのフライドポテトにも一工夫加えた上に、柚塩コショウをふるなど、アイデア満載の料理ばかりだった。 「侑さ〜ん!裏切ってごめんなさい〜! 確かに侑さんの料理も、家庭的ですっごく美味しかったんですよ? お母さんの味!って感じで好きです! でも……キャスリンさんの料理、初めて食べるものばかりで、インパクトも強烈だし、すっごく美味しいかったんです!」 必死で、申し訳なさそうにする鳥飼さん。それに対して私は、穏やに返事をした。 「いいよ、鳥飼さん。気にしないで。 忖度なしって言ったでしょ?」 「ワタシも
第二の勝負のテーマは《料理対決》。 あらかじめ用意してあった食材を使って、私とキャスリンはそれぞれ得意料理を作った。 「侑!アナタもなかなかね!でも、ここで私も負けるわけにはいかない!」 「…私だって負けませんよ。」 隣り合うキッチンのシンクの上で、それぞれ料理を作りながら、お互いバチバチと火花を散らす。 キャスリンは横目で、私を挑発するように何度も話しかけてきた。 「コーセーは、一体アナタのどこが良かったのかしら?」 「私と昴生には、キャスリンさんには分からない、深い絆があるんです。」 落ち着いた口調で、私はキャスリンを一蹴する。 「私だって…!!私だって彼のコト、真剣に想ってるのよ!!」 「キャスリンさんは、一体どこで昴生と知り合ったんですか?」 相変わらず私は無表情で、しっかり手だけは動かしつつ尋ねた。あまり、何かを同時に作業するのが得意では無いからだ。 もし相手がキャスリンじゃなかったら、目の前でフライパンを揺らし、全力で料理を作る事に神経を注いでいただろう。 けれど今回ばかりは別。キャスリンがなぜ昴生に惹かれているのか、いつ彼を好きになったのか、すごく気になっていたから。 「コーセーとは…直接会ったのは今回が初めてよ!! 彼を見たのは、ズイブン前… 私、コーコーセーの頃、すごく太っていて周囲から虐められてたの。 けど、コーセーがテレビで言ってた言葉に、すごく励まされたのよ。何かのバラエティ番組だったと思うわ。」 キャスリンが高校生?その頃だと、昴生はまだ今みたいに売れてなかった時期だ。 「その番組に、ちょっと可愛くない芸人の女性が出てたの。司会者とかが、彼女に対して『ブスは見た目で判断されやすいよね?』『ブスの大会だと、君は一位じゃない?』とか腹の立つこと言ってたわ。 もちろん笑いを取るためなんでしょうけど、見ていて気持ちのいいものじゃなかった! それで司会者が昴生に尋ねたの! 『昴
正直、さすがだと思った。 悔しいけど、これがアカデミーの主演女優賞を受賞した、ハリウッドスターの実力。 制限時間はあっという間に終わり、演技を終えたキャスリンは勝ち誇ったように笑みを浮かべた。 「フフ、どうだった?侑。さあ、次はあなたの番よ!」 キャスリンは満足気に、空いた椅子に腰掛けた。 …私だって。ぐっと気合いを入れ、一歩足を踏み出す。 《別れ》。そのテーマほど、私に相応しいものはなかったかもしれない。 これまで私は様々な別れを経験してきた。家族や、恋人…聖との辛い別れ。 だけど私が生きてきた中で最も印象的で、最も辛かった別れがあった。バチっと目を見開き、私はキャスリンに向かっていった。 「私は…親友との別れを演じます。病院のベッドにいる彼女と、最後の別れを。」 ———もうずっと遠い昔の記憶。けれど決して忘れることはできない、記憶。 さりげなく目を閉じ、私は病院のベッドに横たわる《親友》を見つめていった。多くの言葉は語らず。 「…また、桜を見に行こうね。」 私は震える声で呟き、目で彼女を必死に捉える。瞳が潤み、頬に一筋の涙がこぼれた。悲しげに眉を顰め、それだけではない複雑な表情で彼女に訴える。 「………また、一緒に……っ、桜を……」 絶妙な間の空け方。様々な感情を表した表情で、彼女との別れを演出。 涙が落ちる瞬間に、親友の手をぎゅっと握りしめた。 ———私は彼女に、昴生の姉、渉を思い浮かべて演技をしたのだ。 親友との別れは、ただ悲しいだけではなかった。彼女の痛み、彼女の苦しみを分かってあげられなかった後悔や、自責の念。 それらが自然と私の演技に結びついたのだ。 渉と同じ、《死にたい》という思いを経験した私だからこそ、この切ない別れに全ての感情をぶつけられた。 「キャスリンさんの演技はダイナミックで、まるで映画を観ているようでした。」 と、佐久間さんがキャスリンの演技を評価。管理人も頷いた。 「私は、忖度抜きで、侑さんの演技すごいなって思いました!」 「ソウ!侑の演技に、私もナイテしまったわ!あ、ごめん、キャスリン!もちろん、あなたの演技もヨカッたのよ!ダケド」 何とキャスリンのマネージャーが、カタコトな日本語ながら、私の演技を評価。 「そうですね。どちらも比べようが無いほど良かったですが、あえて言うなら…常盤