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第1話
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クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第410話
紗雪は困惑した様子で言った。「何が言いたい」美月もベッドに寄りかかりながら、戸惑った顔で緒莉を見つめた。今日の彼女はまるで別人のようだ。それとも。本来の姿がこうだったのか？美月はその目に浮かんだ感情を覆い隠したが、疑念という種は一度心に植えられれば、静かに根を張っていくものだった。「母さんが入院したのはあなたのせいでしょ？それなのに、よくも見舞いに来たわね」その一言で、場の空気が一気に静まり返った。緒莉は誰に対しても容赦なかった。大きく目を見開き、悔しそうな顔で美月を見つめる。「お母さん、どうして......？ねぇ、なんでよ？」「私の方が最初からずっとお母さんのそばにいたのに......でも何度呼んでも目を覚まさなかった。なのに紗雪がちょっと来ただけで、すぐに目を覚ますなんて......」「ふん」緒莉は冷笑を漏らす。「この世に嘘つきなんていくらでもいるけど、私みたいなバカも珍しいでしょ？」美月はその錯乱した姿に胸を痛めた。結局、二人の娘をこんなふうにしてしまったのは、自分だった。「私は......」美月の口元に苦い笑みが浮かぶ。どう返していいのか、分からなかった。日向も少し居心地悪そうな顔をしていた。最初は緒莉の精神状態がおかしいと思っていたが、話を聞いてみれば、そこには理由があるのだと分かる。そんな中、紗雪は冷静に言った。「そうね、母さんを怒らせたのは私よ。私が悪かった。後でちゃんと謝るつもり。だからこの件について心配無用よ」「笑わせないで！」緒莉は皮肉たっぷりに言い、紗雪の言葉をまったく信じていなかった。それでも紗雪は落ち着いたまま続けた。「母さんを責めるのは間違ってる」「そんなこと言っても意味ないじゃない。母さんがいつ目を覚ますかなんて、誰にも分からないでしょ？それを母さんのせいにするなんて、おかしいよ」緒莉は紗雪の冷たい視線を受けて、しばし言葉を失った。一方で、京弥は大きな体で紗雪を庇い、明らかに緒莉に敵意を向けていた。態度ははっきりしている。緒莉と相対する気だ。「そう、分かったわ」緒莉は指を一本ずつ立てながら、部屋の中の人々を順に指していく。「いいよもう。どうせあなたたちはみんな立派で清廉潔白で、私だけが最低ってわけ」
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第409話
彼らには、何の問題も見えていないようだった。ちょうどそのとき、京弥が前に出て声をかけた。「お義母さん、体の調子はどうですか？」その声を聞いた瞬間、美月の表情が一瞬固まった。そして、驚いたように言った。「椎名君も来てたの？神垣さんも......」美月は本当に驚いた様子で、今回の自分の病気がこれほど多くの人を動かすとは思ってもみなかった。いや。二川はどうなっている？もし外部に自分の病気が知られたら、株価に影響が出るはず。そんなのは絶対にダメ！「紗雪、私は退院する。すぐに戻って全体を指揮しないと！」紗雪は困惑したように聞き返した。「どうして？目を覚ましたばかりなのに......」「分からないのも無理もないわ。突然の発病で、会社に誰もいなかったら絶対まずいのよ。外がどうなっているかも分からないし......」紗雪は思わずため息をついてから、静かに説明した。「母さんはちゃんと休んで。体が一番大事だから」そう言いながら、美月を寝かせようと動作を止めた。だが美月は納得せずに言い返した。「グループはまだ私が必要なのよ。寝てる暇なんかないわ」「安心して、母さん。何も問題ないよ。今回の入院も完全に秘密裏に行われたから、外部にはまったく知られてない。グループの方もすべて順調」紗雪は内心でちょっと皮肉に思った。確かに今回の情報統制は完璧だった。自分ですらぐるっと遠回りしてやっと辿り着いたくらいだ。美月はようやく落ち着き、少し不思議そうに紗雪を見た。「......本当に？」「もちろん」そう言って、紗雪は京弥と日向に視線を向けた。「私の話が信じられないなら、この二人に聞いてよ。二川グループの株価に影響は出ていないかって」美月の視線も紗雪の言葉に従って、京弥と日向へと移った。彼女は紗雪を信じてはいたが、やはり他の人からも裏付けが欲しかったのだろう。日向と京弥は目を合わせ、二人揃ってうなずいた。京弥も続けて保証した。「そうです。私たちが来るときも、完全に人目を避けてきました。誰にも気づかれていません」「ならいいわ......紗雪がいてくれて、本当によかった」美月は満足そうに紗雪を見つめた。「あなたも、立派になったのね。これで安心できるわ」「母さん、それ
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第408話
今回の件は、自分のせいだった。あんなに我を張って美月を怒らせ、入院させてしまうべきではなかった。自分のことより、美月の体の方が一番大事だ。二川グループは美月なしでは成り立たないが、紗雪なしではやっていける。そのことに気づいた紗雪は、美月を見る目にいっそうの罪悪感を浮かべた。あのとき、自分はもっと冷静になるべきだった。これまでの経験を通して、自分は多くのことに対してもう執着しなくなっていた。だが、それでも母親にあんな態度を取るべきではなかった。そうしなければ、母がこんな姿になることもなかったはずだ。紗雪は目を伏せ、何を言えばいいのか分からなかった。その様子に気づいた京弥は、そっと彼女の手の上に手を置き、静かに慰めるように言った。「今はお義母さんの前だよ。これ以上自分を責め続けて、お義母さんが聞いたら、きっと辛くなるよ」紗雪は京弥を見つめ、何か言おうと口を開いたが、結局言葉にできず、ただ静かに頷いた。彼女には分かっていた。京弥は、ただ彼女のためを思って言ってくれているのだと。ここは病院であり、彼が気を配って慰めようとしてくれるのも当然のことだ。ただ......これだけのことを経験した今、紗雪にはもう、自分の責任を他人のせいにするなんてことはできなかった。「二人とも、見て！」日向が驚いた声を上げ、紗雪と京弥に伝えた。それを聞いた紗雪は、反射的にベッドの方へ目を向け、そこで美月の目と視線が合った。その瞬間、美月の目にはいつもの鋭さはなかった。あったのは、ただ虚ろな弱々しさと、娘の前で気丈に振る舞おうとする姿だった。この光景を見て、心が痛まないはずがなかった。彼女の母は、あれほど商業の世界で戦い抜いてきた人物だ。それなのに今は、こんな狭い病室に閉じ込められている。こんな場所、きっと母が好きなはずがない。結局、自分が余計なことを考えすぎたのだろう。「母さん......やっと目を覚ましてくれた」紗雪の声は、本人も気づかないほど詰まっていた。自分はもっと強いと思っていた。どんなことだって耐えられると信じていた。でも現実は違った。こんなにも脆かったのだ。美月は、目を潤ませた紗雪を見て、胸が締めつけられた。どうやら、自分が意識を失っていた間、紗雪をとて
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第407話
幼稚なだけでなく、どう見ても根に持つタイプだった。人前に出ると、いつも彼を挑発したがる。日向は内心で思わず目をひそめた。そのとき山口が出てきて、三人が病室の前に立っているのを見た。「紗雪さん、中には入らないんですか？」紗雪はそっと首を振った。「さっき医者に聞いてきたの。それで、少し待ってから入ろうかと......」「お医者さん、何て言ってました？」山口も美月の体を心配していた。長年そばに仕えてきたが、こんなにも弱った美月を見るのは初めてだった。普段の彼女は商戦の中でも余裕があり、勇敢で知略にも富んでいた。まるでスーパーヒロインのようで、休むことすら必要としない存在だった。けれどここ最近になって、山口はようやく気づいたのだ。美月もまた、彼らと同じ人間なのだと。ただ、他の誰よりも強くあろうとした女性だったのだ。紗雪は彼を安心させるように言った。「大丈夫よ。お医者さんも、しっかり休めば問題ないって。ただ、もう刺激は絶対にダメだって」「刺激」という言葉を口にしたとき、一瞬だけ彼女の瞳に陰が差した。山口はその一瞬の変化を見逃さなかった。まさか、今回の入院は。何か強いショックが原因だったのか？誰にショックを受けたのか......山口はちらりと紗雪を見て、乾いた唇を舐めた。どう言葉を続けるべきか分からなかった。その視線に紗雪は気づかなかったが、傍にいた京弥は見逃さなかった。男は山口を警告するような目で一瞥し、軽く首を振った。余計なことは言うな、と。そもそも紗雪は、すでに十分傷ついている。山口がもし下手に口を開いたら、それは彼女の傷口に塩を塗るようなものだった。山口は最初、躊躇いながらも聞こうとしていたが、京弥の目を見た瞬間、その考えは消え去った。この男、ただ者じゃない。彼の纏う雰囲気は異様なほどに圧があり、これまで見てきたどんな大物よりも存在感がある。山口は心の中で少し疑問を覚えた。紗雪が選んだ夫って、噂ではヒモの美男だったはずじゃ......？どう見ても、その噂とはまるで違う。あの顔立ちといい、気配といい、ヒモだなんて、百回言われても信じられない。山口は話題を変えることにした。「紗雪さん、やっぱり中に入って、そばにいてあげてください
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第406話
彼女に悪気がないことは分かっていた。だが、今の彼女は自責の念に囚われていて、誰の言葉も耳に入らない。日向も紗雪の傍に寄り添っていた。こんな彼女の姿を見るのは、彼にとって初めてだった。「さっちゃん、君のせいじゃないよ。君に悪気なんてあるわけがないし、わざとじゃないに決まってる」京弥は声を抑え、根気強く紗雪を宥め続けた。だが、紗雪は自分の感情に沈み込み、京弥の言葉には反応しなかった。それでも彼女の美しい瞳は、病室のドアにある小さなガラス窓越しに、ベッドに横たわる母親をじっと見つめていた。あんなに強気だった母が、まるで壊れた人形のように静かにベッドに横たわっているなんて。母さんはいつも強かったじゃない。起きて、また説教してよ。大丈夫、今回は口答えなんてしないから。紗雪は心の中でそう呟きながら、目尻を真っ赤に染めていた。何を言っても通じないと察した京弥は、そっと紗雪の手を握った。その手をしっかりと、離さないように。ときに、言葉よりも行動のほうが、ずっと大きな力になる。手から伝わる温もりを感じながら、紗雪は感謝の気持ちを込めて京弥を見つめた。「ありがとう。でも大丈夫。私、もう平気」「こんなの、全然大したことじゃない。ただ、母さんのことが心配で......苦しいだけ」紗雪の口元に微かな笑みが浮かぶと、京弥の気分も少し晴れた。「きっとお義母さんは運の強い人だよ。これからは俺たちでちゃんと支えてあげよう」紗雪は頷きながら、京弥の腕に身を預けた。二人はまるで他人の目なんて気にしないかのように、ぴったりと寄り添っていた。その光景は、日向の目に深く突き刺さった。背を向けようと思った。見ないふりをしようとした。けれど、それはまるで棘のあるバラのようだった。刺されると分かっていても、その香りを求めてしまう。それが「愛出ずる者は愛返り、福往く者は福来る」という意味なのか。あるいは、それ以上の思惑があるのか。日向は何度か深呼吸をし、気持ちを整えると、微笑を浮かべて言った。「お二人とも、そろそろ帰ろっか？」「ここは一応、病院なんだから......もう少し配慮したほうが.....」紗雪はバツが悪そうに顔を上げ、日向に申し訳なさそうに言った。「えっ。あ、ごめん......
クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚！ 第405話
どうやら、あの子も最近は少しは考えを改めたらしい。それならそれで、悪くない。一つの可能性にしがみつく必要もないし。でなければ、安心して会社を加津也に任せるなんてできない。こういうことは、一つ一つちゃんと見極めていかないと分からない。そうでなければ、加津也が「優秀な後継者」だなんて言えない。室内。加津也はスマホを手に取り、見つめたまままた置いて、初芽に電話をかけるかどうかずっと迷っていた。彼は初芽からの電話も期待していた。あんなに長い時間外に出ているのに、まったく連絡がないなんて。それはさておき、今の彼は本当に心配だった。しばらく悩んだ末に、加津也は初芽にメッセージを送った。【初芽、今日は俺が悪かった。考えが足りなかった。もう二度と同じことはしないから、もう安心して】【今どこにいる？俺の別荘の暗証番号は知ってるよね。そこで泊まっていいから】【初芽、無視しないで。俺、本当に怖いんだ。何もなければいいけど、俺を心配させないでくれ......】......ちょうどシャワーを終えた初芽は、それらのメッセージを目にした。彼女は、どうせ電話しても出なければ諦めるだろうと思っていた。でもまさか、加津也がこんなにもしつこく、何度も何度もメッセージを送ってくるなんて思いもしなかった。その様子を見ていると、初芽の目元に自然と笑みが浮かんだ。やっぱり男ってのは、少し冷たくした方がいいのよね。加津也なんて、まさにその典型じゃない？初芽はスマホに表示された56件の未読メッセージを見て、気分が晴れやかになった。しばらく考えた後、画面を何度かタップして、そのままスマホをベッドに放り投げ、自分の用事を続けた。画面には、こうはっきりと表示されていた。【私、加津也のことを愛してるよ。でも一緒にはなれないの......だからもう連絡してこないで】その後、初芽は加津也をブロックした。初芽からの返事を見た瞬間、加津也は喜びと切なさが入り混じった感情に襲われた。やっぱり、初芽はまだ自分を見捨てきれなかったんだ。あんなに愛し合っていたのに、簡単に終わらせるはずがない。彼は舞い上がる気持ちのまま、急いで返信を打った。【俺も初芽を愛してる。外のことに惑わされないでくれ。君が無事ならそれだけでいい
