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第2章:バッドエンドへの道 3

Author: 社菘
last update Last Updated: 2025-06-30 17:00:39

 ベルティアとノアが出会ったのは、二人が7歳の時。

 ノアは幼い頃は体が弱く、一時期は王都を離れ田舎の領地で療養していた時期がある。療養先はオリヴィア・ローズウッドの祖父が治めるローズウッド領で、そこに向かっている途中でノアの体調が悪くなり馬車を止めたのが運の尽き。

 ローズウッド領に行くまでの道のりにはレイク男爵家が管理している村があり、夏でも涼しい森の中の泉で一休みしていたノアとベルティアが出会ったのが始まりだ。

「ねぇ、どうしたの? 具合が悪いの?」

「あ、えっと……」

 ベルティアが日課であるお祈りをするために泉を訪れると、綺麗な顔をした男の子・ノアが項垂れていた。周りには誰もいなくて、食糧か何かを取りに行ったのか、ノアが一人になりたいと言ったのかは分からない。でもタイミングが良いのか悪いのか、ベルティアがそこに現れてしまったのだ。

 きっとここで出会わなければ、今頃二人とも全く違う道を歩んでいたかもしれない。いや、正確にはベルティアだけは、違う道を歩んでいただろう。

「待ってて、人を呼んできてあげる!」

「い、いいんだ! 少し休めばよくなるから……」

「そう? あ、お水持ってるよ! 飲める?」

「う、うん……ありがとう」

 王子たる者、見知らぬ人からもらう物には気をつけないといけない。ノアはそういうところはしっかりしているが、この時ばかりはベルティアの優しさに縋りたくもなるほど弱っていたのだろう。ベルティアがバッグから取り出した水をごくごく飲んだノアの顔色は徐々によくなっていって、額に滲んでいた汗もいつの間にか引いていた。

「ここ、涼しいね」

「そうでしょ! 女神様の魔法がかかってるんだよ」

「女神様の魔法?」

「うん。泉の神様! 具合がよくなるようにお祈りしてあげるね」

 いつでも青白く光っている水面に向かってベルティアは手を合わせながら目を瞑り、具合が悪そうな少年のために祈りを捧げた。そんなベルティアのほうが

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