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第3章:真実の片鱗 4

作者: 社菘
last update 最終更新日: 2025-07-07 17:00:47

 結局久しぶりの実家ではゆっくり過ごすわけでもなく、自分の実家の秘密をゲームをプレイしている時よりも詳細に聞いたベルティアはただただ胸がざわついていた。

 また半日かけて王都に戻ったのだが、気分転換でもしようと街で馬車を降りたベルティアは人で賑わう街中をぼーっとしながら歩いていると誰かにぶつかり、持っていた荷物からバラバラと本が散らばった。

「すみません、大丈夫ですか? って……」

「えっ、ら、ライナス殿下?」

「ベルティア、奇遇だな。ぶつかって申し訳ない」

「いえ、俺のほうこそ……ぼーっとしていたので、すみませんでした」

 学園で会う時とは違い私服姿のライナスが目を丸くしながら本を拾ってくれたのだが、ベルティアはまさかこんなところで会うなんてと小さくため息が漏れた。たまたま会ったのがノアじゃなかったのを幸運だと思うべきか、ライナスの頭上に表示されている好感度の数値をちらりと見やる。

 《ライナス・ムーングレイ 好感度:40%》

 最後に会った時は確か47%だった。そこから会わないうちに7%下がっているのはいいことだが、先日ジェイドがライナスから小言を言われたと聞いたので今はあまり会いたくない人物だった。

 ライナスはそもそもベルティアにあまり興味がないけれど、ノアが荒れている原因なので何か嫌味を言われるかもしれない。今のベルティアはとてもじゃないがそんな嫌味を聞くような精神ではないのだ。

「あの、もし時間があればちょっと話したいことがあるんだけど……」

「……もちろんいいですよ」

 王族からの申し出を断ることはできないので了承すると、人通りの少ない路地裏に面しているカフェに連れ込まれた。これは見ようによっては密会しているように見えるのでは?と心配したけれど、ライナスの側近や騎士たちもいるので大事にはならないだろう。勘違いした暇な貴族令息や令嬢たちに見られていなければ、の話だが。

「ベルティア。その……最近大丈夫か?」

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