Share

第829話

Author: リンフェイ
「義姉さん、俺は唯花さんを失いたくないんです。離婚なんて絶対にしません!」

理仁が先に口を開いた。

「義姉さん、俺もずっと自分の正体を隠し続けて唯花さんのことを騙していたってわかっています。唯花さんは他の女性とは違う、彼女は俺が金持ちだからって喜ぶような人じゃない。俺が唯花さんに間違ったことをしたんだ、彼女が怒っていくら罵ってこようが構わない。だけど、俺から離れるのだけは許さない、離婚なんてなおのことだ!」

理仁がそう言い終わってから唯月は彼に言った。「唯花がこの家から出て行けば、永遠にあの子に会えないと思ってます?」

理仁は返事しなかった。

怖いのだ。

唯花がここから出て行けば、今後本当に彼女には会えないかもしれないと怯えていた。

「結城さん、唯花は私の妹です。私たちは長い間お互いに支え合って生きてきました。だからこそ私には彼女のことがよくわかるんです。あの子はね、物事に対して及び腰になったり、逃げたりするような人じゃないんです。彼女がいくら腹を立てて怒ってあなたに離婚を突き付けても、絶対に逃げることなんかしません。

逃げることは本当の解決には繋がらない。

もっとひどい状況になったって、現実と向き合わなくちゃ。

妹と一緒に帰らせてちょうだい。私の家で数日間過ごして、冷静になったほうがいいんです。あの子をここから出さないなら、ただ強制的に彼女をここに留めておくだけで、あの子の気持ちを思い通りにすることなんてできませんよ。あの子が本気でどうするか決めたら、ここにいようが他のところにいようが、結局は同じことです」

理仁は黙っていた。

「結城さん、以前は私、あなたのことを偉そうな人だとか、頑固な人だとか思ったことはありませんでした。今回の件で、あなたの本性を見ることができた。考えてみてください、そのように上から人を抑え込もうとする態度を唯花は受け入れられるでしょうか?強い力で握れば握るほど、持っているものは壊れやすいでしょう。

それと同じで、あなたがそんなふうな態度を取るたびに唯花は苦しくて、どんどんあなたから離れたくなります。二人はやっとお互いに愛するようになったのに、あなたのその悪足掻きがその愛を削っていきます。今唯花に残っているあなたへの愛が本当に削り取られてなくなってしまえば、二人は永遠に元には戻れなくなりますよ。

あなたは自分の意思が
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第840話

    「唯花」ドアを開けるとまず目に映ったのは、理仁があのイケメン顔をササッとご機嫌取りをする微笑みに変える光景だった。しかし、彼はいつも顔をこわばらせ、難しい表情をしていて、あまり笑うことがないので、この時に作りだした笑顔を唯花は嘘っぽく感じた。「唯花、着替えを持ってきたよ」理仁は両手で彼女の着替えを二着大事そうに持っていた。一着はパジャマで、もう一着は唯花が明日着る用の服だった。「部屋の中に置きに行ってもいいかな?」唯花は彼を部屋の中まで通さず、自分でその服を掴み取り、すぐに二歩下がってバタンッと大きな音を立て、ドアを閉めてしまった。そしてもう一度内鍵をかけなおした。理仁「……」彼はその場から離れず、守り神のように唯花がいる部屋の前にへばりついていた。それと同時に心の中で時間を数えていた。唯花はきっとまた彼に用があって、ドアを開けるはずだからだ。予想的中、二分も経たずに彼は中から鍵が開く音を聞いた。そしてすぐに姿勢をまっすぐに正して、あの端正な顔に笑顔をプラスした。唯花がドアを開ける瞬間、彼は微笑みながら優しい声で言った。「唯花、何か用がある?なんでも言ってくれ、今夜は君のためになんだってするから」「服があと二着足りないの。それから生活用品も欲しいから、今すぐ持って来て」理仁は急いでそれに応じた。「わかったよ、ちょっと待ってて、今すぐ持って来るからね」そして、彼は体の向きを変えてへこへこと小走りで離れていった。少ししてから、彼は再び唯花のところまで戻って来て、生活用品を詰めた袋を唯花に渡した。「唯花、他に何か必要なものがあったらいつでも声をかけて、すぐに持って来るから」唯花は中身をざっと確認し、必要なものは全て揃っていると思い、また後ろへ下がってドアを閉めようとした。「唯花」理仁は片足をドアの隙間に差し込み、体をねじ込んで唯花がドアを閉めるのを阻止し、両手をさすりながら図々しくもこう言った。「唯花、年は明けて春に近づいてはきたけど、ここ数日寒冷前線が南下し、気温が下がってすごく寒くなっただろう。この客間には暖房がないから、一人で寝るのはちょっと寒いんじゃないかなと思って。俺には、とある特典がついてるんだよ。湯たんぽになれるんだ。もちろん絶対に君に手を出したりしないよ、ただ温めてあげようかなって」

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第839話

    「うさぎとか爬虫類は鳴きもしなくてうるさくないし、とりあえずいらないわ。声が大きい鳥たくさん買ってきてくれない?オカメインコのオスとかメスがいたら大きな声で歌うじゃない?絶対あいつ煩くて発狂するわよ」明凛はそれに応えた。「わかったわ、それは私に任せてちょうだい。かならず任務を遂行してみせるんだから」ただ、唯花が邸宅を動物園に仕立て上げたとしても理仁が折れるかどうかはわからない。「だけどさ、唯花、結城さんさ、違う、あの嘘つきのバカ野郎がこんなことくらいで折れるかしら?彼は他にもたくさん家を持ってるでしょう、あなたを他の家に連れていったりしないかしら?」唯花は少し黙って、また口を開いた。「私だって、あいつがどんな反応するかはわかんないわ。どうであれ、あいつが私にこんなことするんだから、私だって平穏な暮らしをあいつに送らせるわけにはいかないわね」「なんだか、今のあなた達って仇同士になった感じね」唯花は苦渋に満ちた表情になり、返事をしなかった。「九条さんに、結城さんを説得してって言ったのよ。そしたら彼が私にあなたから結城さんを説得してみてって。結城さんがあなたを騙すことになったのにはやむを得ない理由があるからって。あの人って星城一の富豪結城家のお坊ちゃんでしょ、周りからお金目的で近づかれることがあるから、あなたに身分を隠してどんな女性なのか知りたかったらしいわ」明凛は続けて言った。「私は九条さんの提案を断ったわ。彼って結城さんのお仲間なんだから、当然結城さんのほうについて、彼を擁護するでしょう。そして私はあなたの親友だから、もちろんあなた側につくわ。唯花、あなたがどんな決断をしても私は応援しているわよ、ずっとあなたの味方なんだからね」唯花は少し黙ってから言った。「彼が最初に正体を隠していたことは、私も理解できる。だけど、それから暫く経ってお互いを好きになって、本当の夫婦になったでしょ、それなのにそれでもずっと私を騙し続けていたから、私は腹が立ってるの。今は彼の私に対する気持ちすら信じられないわ。今でも私を騙しているとも限らないでしょ?あいつが言う話には全く誠実さが感じられないわ。口をついて出てくる言葉は全部無責任でデタラメなことばかり。それに、あいつと姫華のことも、姫華が私とあいつが夫婦だって知ったら、一体私のことをどう思う?」「

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第838話

    彼女はただ理仁にだけ怒りを向けているわけではない。一緒に彼女を騙し続けてきた結城家一家全員に対しても腹を立てているのだ。唯花はまず姉にメッセージを送ってから、明凛に電話をかけた。「唯花」明凛はすぐに彼女の電話に出た。「唯花、今どうなってる?昼間ずっとあなたの携帯は繋がらないし、何百回かけたってずーっと電源が入ってなかったわ。夜になってやっと繋がったと思ったのに、全然出てくれないし」唯花は親友の前では無理やり平気なふりをして言った。「携帯の充電が切れて勝手に電源切れちゃってたのよ。だからずっと繋がらなかったの。後からあの嘘つき野郎に充電器借りてやっと電源が入ったんだから」嘘つき野郎……明凛は唯花の物言いがトゲトゲしていて、まだ怒りは収まっていないのが聞き取れた。そりゃあ、なかなか怒りは鎮められないだろう。一番近くにいた夫に騙されていたのだから。「電源が切れてたのね。だけど、本当にどうしたのかって焦っちゃったわよ。あなた、大丈夫?」唯花は暫く黙っていて、苦笑しながら言った。「大丈夫って言ったら、それは嘘になるわね。大丈夫じゃない、最悪よ。明凛、私は今自由を奪われてるの。あのバカ野郎私をこの家から一歩も出させないわ。お姉ちゃんが私を迎えに来ても、あいつは首を縦に振らないの」明凛「……か、彼のやり方はちょっと行き過ぎてるものね。九条さんに電話をかけてきて言ってたけど、あなたを気絶させたらしいわね」その話を聞いて、唯花はまた怒りが込み上げ、辛そうに言った。「私が怒って当然のことをあいつはやったのよ。怒っちゃダメ?私はただ冷静に考えたかっただけなのに、首の後ろに手刀入れてきたのよあいつ、首が折れそうだったわ。私ったらどうしてこんな男なんかと結婚しちゃったのかしら。これも全部おばあちゃんのせいだわ。彼女がはじめから私を騙していたのよ。最初に結城家のおばあさんだってことを教えてくれていれば、お金使って誰か私と結婚したと演技してくれる人を雇ってお姉ちゃんの所から出て行ったわ。あんなクソ男なんかとスピード結婚しなかったわよ。一族全員詐欺師よ、ここまで私のことを騙し続けるだなんて。私は絶対にあいつを許さないわ。すぐに許してもらえると思わないことね!彼との結婚は……差が大きすぎる。だから、離婚したいの、離婚協議書だってもう書いたわ、彼

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第837話

    莉奈の言葉を聞いて俊介は彼女を抱きしめ、彼女の頬にキスをした。「莉奈、ありがとうな」「私たちもう夫婦なのよ。あなたが唯月と一緒にいた頃よりも素敵な生活を送りたいの」唯月の名前を聞いた瞬間、俊介は明らかに体をこわばらせたが、彼は何も言わずに莉奈をベッドの上に抱き上げた。そしてこの日、二人は甘くとろけるような夜を過ごした。一方、唯花はというと。瑞雲山邸にいる唯花は屋敷の周りを何週も歩き、疲れるとまた家の中へと戻っていった。理仁は彼女の後ろを黙ってついていた。彼が彼女に話しかけようとすると、彼女はきまって「嘘つきの結城さん、私からもっと離れてくれない?今あなたと何も話したくないの」と言った。理仁には話しかける理由もなく意気消沈して、ただ黙って彼女について行くしかなかった。部屋に戻ってくると、唯花の携帯は充電が終わっていた。彼女は充電器を外し、携帯を手に取り見てみると、たくさん未着信通知とLINEメッセージが届いていた。それにショートメッセージも多く来ていた。「そこの大嘘つきさん、充電器はここに置いとくから自分で持ってって」唯花はそう冷たいひとことと充電器をテーブルの上に残して、携帯を手に持ち上へあがっていった。「ゆいかさぁん……」理仁は低く小さい声で彼女の名前を呼んだ。発音する時には切なそうに伸ばした声を出していた。唯花は聞こえないふりをしてまっすぐ上へとあがっていった。理仁はそれに続いた。唯花はもちろん彼ら夫婦用の部屋には戻らず、客間のほうへ入るとすぐに内鍵をかけて、理仁が予備の鍵を持っていても開けられないようにしてしまった。理仁は部屋の外に締め出され、ドアをノックしながら優しい口調で言った。「唯花さん、まだ怒ってる?どうしたら怒りを鎮めて俺と話す気になってくれるんだ?」彼は彼女から冷たく疎遠にされ、口を開けば嘘つきだの詐欺師だの言われるのに耐えられなかった。彼女に激しく反抗されるのも、我慢できなかった。この時の理仁は本気で自分はどうしたらいいのか完全にわからなかったのだ。悟に助けを求めても、まずは冷静にさせてくれ、何か思いついたら彼に伝えると言われてしまった。悟がなぜ冷静になる必要があるのだ?唯花は全く彼の相手をしなかった。彼女は部屋にあるソファに腰かけると、携帯を

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第836話

    「母さんもさ、もうこれ以上唯月のところに現状を訴えに行くのはやめてくれよ。家庭内の醜態を他人に晒してどうすんだ、こんなに長く生きてきたのに、そんなこともわかんねぇの?そうやってあいつのとこに情を訴えに行ってれば、あいつが母さんに同情してくれるとでも思ってんのか?あいつはただそれを聞いてほくそ笑んでるだけだぜ」俊介は心の中に溜まっていた鬱憤を、ここで一気に吐き出した。それを聞いていた佐々木母の顔は怒りで真っ赤になっていたが、ひとことも発することができなかった。「母さん、よく考えてみろよな」俊介は全て言い終わると母親にくるりと背を向けてドアのほうへと向かった。「どこに行く気だい?」佐々木母は息子がまた出かけようとするので急いで尋ねた。「母さんが莉奈に買ってきた花束だめにしちゃっただろう、もう一回買いに行ってくるんだよ」佐々木母「……」俊介は母親に顔を向けることなくそう言うと、また莉奈のために花束を買いに出かけていった。そして再び家に帰ってきた時、母親はソファでむせび泣いていた。それを見た俊介はイライラして、これ以上母親に構う気もなく、新しく買ってきた花束を抱えて自分の部屋に戻った。莉奈はこの時ベッドに横になって携帯で動画を見て、ケラケラと笑い声をあげていた。そして彼が花束を持って入ってきたのを見ると、莉奈は携帯を置き、ベッドからぴょんと飛び降り、裸足のまま俊介のほうへ駆け寄った。「あなた、お帰りなさい」さっき俊介がリビングで義母を責め続けているのを、実は莉奈も部屋の中からこっそり聞いていたのだった。夫が自分のほうに味方をしてくれたことに、莉奈は心から喜んでいた。「莉奈、これ君にあげるよ。今日は俺たち新婚の一日目だからね」そして彼は綺麗なボックスを取り出して、それを開け中から指輪を取り出した。「それから、これも」莉奈は花束を受け取り、また手を彼のほうへさし出して、俊介にその指輪をはめてもらい、甘えた声で言った。「家の内装もしないといけないから、お金は節約しなくちゃね。私の親には……披露宴のお金は出して、結納金は、まあ、気持ち程度でいいわ」俊介が言っていたように、彼女の両親に一千万以上の結納金をあげたとしても、彼女の手元には来ないのだ。それは彼女の二人の兄のために使われるというのだから、なぜそんな大

  • 交際0日婚のツンデレ御曹司に溺愛されています   第835話

    「俊介、あんた新しい奥さんができたとたんにお母さんのこと忘れてしまったのかい。昔のあんたはこうじゃなかった、あの女狐に惑わされて母親すらも捨てる気か。ああ、私はなんて不幸なんだろうね、こんな息子を産んじまってさ、どうしてあんな女狐が嫁になんか来たんだろう。唯月さんや、お義母さんは後悔してるよ。私が間違ってた、やっぱりあなたのほうが良かった。食事の用意も家事もちゃんとするし、私にだって良くしてくれていたよ。夫を支えてくれて、あなたがいた頃は俊介の仕事もうまくいってたし、金運だって良かった。私たち一家はとても幸せに過ごしていたというのに。そんなあなたがいなくなってから、俊介の仕事はうまくいかなくなって、収入も激減しちまった。英子たち夫婦だって仕事をなくしちゃってさ、年寄りの私も毎日いじめられて……後悔しかない、もう未練しか残ってないよぉ!」佐々木母は大声で泣くように叫びながら、息子は親不孝者だと責めていた。唯月がいた頃、彼ら一家は平穏な暮らしを送っていたというのに。しかし、彼女は涙を流してはいなかった。ただ辛そうに叫ぶだけだ。無念だ。この時の佐々木母は本気で唯月がいなくなったことを後悔していたのだ。これは佐々木母に限った話ではなく、あの最低な英子でさえも後悔していた。成瀬莉奈と比べなければ、彼らは一生唯月がどこほど良い嫁だったか知る由もなかっただろう。以前、唯月は全く使いものにならないと思い、俊介と唯月が別れることを期待していた。それが、今度は俊介が莉奈と一緒になると、莉奈は彼女たちの手に負えるような女ではない。英子がいくら口喧嘩しようとも、莉奈には全く敵わず返り討ちに合うだけだったのだ。佐々木母が英子のほうに味方につこうとすると、莉奈はその勢いをさらに増し、佐々木母は将来娘と一緒に暮らして娘に老後の世話をしてもらえと大声をあげた。彼女が完全に娘のほうについて、息子の嫁を苦しめようとするからだ。自分がまだ動ける間は娘の手伝いをして、息子とその妻には全く構おうとしないうえに、息子の家庭からは金をせしめてそれを娘に与えようとする。そして、自分が動けなくなったら、息子夫婦に老後の面倒を見てもらおうというのだから、夢でも見ていればいい!莉奈も、もし義父母がこのように娘のほうに偏ったやり方でサポートしていくつもりなら、老後の世話も亡くな

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status