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第1354話 番外編三

Author: 花崎紬
佑樹と念江はゆみを見た。

「何を笑ってるんだ?」

佑樹は冷淡な声で問いかけた。

「別に……」

ゆみは首を振った。

「そうだ、兄さんたち、今回帰ってきたらもう出ていかないんだよね?」

「出張以外は、ずっと帝都にいる予定だけど、ゆみはどうするんだ?」

念江は尋ねた。

「用事以外、私も出ていかない。小林おじいちゃんが亡くなったから、年に三回お墓参りに行くだけだよ」

ゆみは目を伏せ、皿の上のパスタを弄りながら答えた。

佑樹と念江は思わず硬直した。

「小林おじいちゃん、去年亡くなったんだ」

臨がゆみを見ながら補足した。

「寿命だよ。安らかに。でも突然だったの」

小林の話になると、ゆみの目元が赤くなった。

「もう、小林おじいちゃんだって九十過ぎてたんだし、仕方ないでしょ……」

彼女は泣き笑いのような表情を無理やり作って言った。

ゆみが必死に涙を堪えている姿を見て、佑樹と念江の胸は締め付けられた。

こんな大きな出来事を、この子は今まで一言も漏らさずに隠していたのか。

本当に、大人になったな。

良いことだけを共有し、苦しいことは一人で抱え込む。

「母さんから聞いたが、大学に行かないつもりだそうだな」

佑樹が切り出した。

「うん」

ゆみは淡々と答えた。

下を向いたままだったため、佑樹の険しい表情に気づかなかった。

「理由は?」

念江も続けて尋ねた。

「用事が多すぎるの。あちこちでトラブルがあって、頻繁に休むのは面倒だから」

「姉さん、たまに半月何もない時だってあるじゃん!それは言い訳だよ!」

姉の答を聞くと、臨がすぐにツッコミを入れた。

ゆみの体はこわばり、慌てて佑樹と念江の顔色をうかがった。

「余計なこと言わないで」

二人が真剣な表情で見つめているのを確認すると、臨を睨みつけた。

「臨に本当のことを言わせないのか?」

佑樹の声は不機嫌さが滲んでいた。

「理由が何であれ、学校に戻れ。本当に解決が必要な用事ができたらその時休め。これは譲れない」

「行かないわ!」

ゆみはフォークを握りしめた。

「行くんだ!」

佑樹は容赦なかった。

「何回言わせるの!絶対に行かないって言ってるでしょ!!」

ゆみは父親に似てとても頑固だった。

佑樹は今にも雷を落としそうなほど険しい表情になった。

「ゆみが行きたくない理由
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