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第1486話 番外編百三十四

Author: 花崎紬
「今すぐ向かうそうだ」

佑樹は言った。

佳世子はすぐさま立ち上がり、紀美子に向かって言った。

「紀美子、私たちも行きましょう!」

紀美子は困ったように彼女を見つめた。

「また尾行でもするつもり?」

「こんなチャンス、見逃せないでしょ?」

そう言いながら佳世子は晴の方を向いた。

「あなたはここで待ってて。私と紀美子で出かけるわ」

晴は携帯の画面から視線を上げ、少し不満げに言った。

「俺に対してもそんなに熱心になってくれればいいのに」

佳世子は彼を無視し、紀美子の腕を組んで外へ出た。

ゆみの葬儀屋の住所は紀美子が知っていた。

到着した時、ちょうど道路の向かい側にカイエンが停車した。

そして、全身から活力が溢れる爽やかなイケメンが車から降りてきた。

佳世子は隼人に気づくと、すぐに紀美子の手を掴んだ。

「紀美子、あの男の子が隼人じゃない?」

紀美子は隼人の方に視線を向け、じっくりと観察した。

「体つきはがっしりしてるし……間違いないでしょう」

「でも、車の中にいたら、会話までは聞こえてこないよね」

そう言いながら、佳世子はバッグからキャップとマスクを二組取り出した。

「紀美子、これつけて。こっそり近づいて何話してるか聞いてみよう」

「そんな面倒なことしなくてもいいわよ」

紀美子は苦笑した。

「臨にメッセージ送ればいいでしょ?彼も中にいるし」

「そっか!」

佳世子は急かすように言った。

「じゃあ、早く臨にこっそり電話してって頼んで!」

紀美子は頷いた。

「うん、わかった」

彼女が臨にメッセージを送ると、彼はすぐに電話をかけてきた。

ただし、一言も話さず、通話中の携帯をそっとポケットに戻した。

母さんたちの好奇心を、少しくらいは満たしてやらないとね。

そして彼は、ゆみと隼人に視線を移した。

ゆみは隼人が店に来たことに驚いていた。

「高橋隊長、今日は休まないの?帝都に帰ってきたばかりでしょう」

隼人は笑顔を浮かべながら言った。

「お店が開いてるのが見えたから、ちょっと話でもしようと思って。邪魔だった?」

「邪魔ってわけじゃないけど……」

「けど、なに?」

隼人は椅子を引き寄せて、ゆみの隣に腰を下ろした。

「……」

ゆみは言葉に詰まった。

実はこのあと、魂を抜け出して菜乃や玲奈と一緒に出かけるつも
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