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3-3 喜びと落胆 1

last update 最終更新日: 2025-06-20 20:46:23

 二階堂夫妻と一緒にホテルのカフェを出る琢磨の顔には笑みが浮かんでいた。

3人でホテルの出口を目指して歩きながら二階堂は琢磨に声をかけた。

「九条、随分と嬉しそうじゃないか」

「当り前じゃないですか! だって俺は一夜の過ちを犯してなかったわけですからね。あの女性の娘の父親じゃなかったんですから……こんなに嬉しいことはないですよ」

琢磨はすっかり舞い上がっていた。

「しかし……あの斉藤美和とかいう女は、随分大胆な女だったなぁ。何せ酔い潰れて眠ってしまった男の服を全部脱がすなんて……普通に考えたらありえないだろう? 良かったな~九条。襲われなくて」

二階堂は琢磨の背中をバンバン叩き、笑いを堪えている。

「はぁ!? 何言ってるんですか! 眠って意識がない間に服を全部脱がされたんですよ!? いいですか? 俺は……あの女に裸にされてしまったんですよ!? 普通に考えればとんでもない話じゃないですか! こんなの犯罪ですよ、犯罪! 警察に訴えたっておかしくないレベルですからね!?」

琢磨は顔を真っ赤に染めて興奮気味にまくしたてる。

「本当にごめんなさい、九条さん。もう、これきり美和とは縁を切りますからどうか許していただけませんか?」

今まで二人の会話を黙って聞いていた静香は頭を下げてきた。

「い、いえ……別に静香さんは何も悪くないので、別に謝ることではありませんよ。でも……彼女とは縁を切った方が良いかもしれませんね」

琢磨の言葉に静香と二階堂は頷いた――

****

「それじゃ、九条。俺たちはこれから子供の迎えに行くから。今日はここでお別れだな」

ホテルの入り口に来たところで、二階堂は言った。

「ええ、そうですね。では月曜からまたよろしくお願いします」

「ああ、こき使ってやるから覚悟しておけ。それで九条。お前、今日はこれからどうするんだ?」

「九条さんは朱莉さんに連絡を入れるんですよね?」

静香が尋ねる。

「ええ、もちろんそうです。当然じゃないですか」

琢磨は隠すこともなく堂々と返事をした。

「お前……随分はっきり言いきったな?」

苦笑する二階堂。

「いいじゃないですか! 4年ぶりの再会なんですから!」

琢磨の言葉に静香が止めた。

「ほら、九条さんをからかったら、駄目じゃない。明。それでは九条さん、私たちはこれで失礼しますね」

「またな。九条」

「はい、失礼します」

琢磨も返事をす
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