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第335話

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それを思うと、静真は、険しい目つきになり、心の中では憎悪の感情が激しく渦巻いていた。

今となっては、彼も月子が、自分の感情を揺さぶっているということを認めざるを得なくなった。

自分の感情が月子にコントロールされるなんて思いもしなかったが、現実にそれは起こったのだ。

認めたくはなかったが、彼の心は言うことを聞かない。

コントロールできない感覚は、久しぶりだった。そして、それは非常に不快だった。

颯太と一樹の言葉を思い出し、静真はグラスを強く握りしめた。指の関節は白くなり、今にもグラスを握りつぶしそうだった。

……

翌日、平日。

月子は、出勤途中に隼人とばったり出会った。

二人は目線を交わし、月子はいつものように「鷹司社長」と挨拶した。

隼人は頷くだけで、何も言わなかった。

このようなやり取りは普通のことだった。しかし、気のせいか、妙な空気が流れていた。

駐車場に着き、エレベーターを降りても、二人は言葉を交わさなかった。月子は自分のランドローバーに乗り込み、会社へと向かった。

会社に着くと、月子はスケジュールを確認した。今日は隼人が出張の日だ。彼女は理由をつけて南に出張に同行できないと伝え、同行秘書は別の人に変更になった。

南からの報告を聞いた隼人は、目を伏せて何も言わなかった。

隼人一行が会社を出発する時、月子は自分の席に座っていた。

彼女は思わず顔を上げて彼らの方を見た。

隼人も彼女の方を見たような気がしたが、視線は合わなかった。気のせいだろうと思った。

彼らが出て行った後、同僚の彩花が話しかけてきた。「鷹司社長の出張に同行しないの?あんなイケメンと一緒の出張なんて、仕事じゃなくて旅行みたいなものじゃん!」

月子は「あなたの旦那さんは、あなたが鷹司社長に夢中なのを知ってるの?」と返した。

彩花は身を乗り出してきて、怖い顔で言った。「ちょっと、月子!悪い子ね、私を脅迫するなんて!」

月子は思わず笑った。一件落着といったところだ。

今日は一日、特に変わったこともなく、順調に過ぎた。

月子は仕事が終わって帰宅し、11時頃、彩乃から電話を受けた。しかし、電話口から聞こえてきたのは静真の声だった。「来い」

月子は驚愕した。静真が彩乃のスマホを持っていることを考えると、胸騒ぎがした。そして、怒りがこみ上げてきた。「静真、一体何をし
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