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第470話

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「今日は穏便に済ませるつもりで来たのですが、こっちの言い分も聞かずに一方的に罵倒するとはどういうつもりですか?最初から私に悪意を持っていたのか、それともただ説教したかったのか、それはあなた自身しかわからないでしょうね。もし本当に私に非があるなら、素直に改めます。でも、貶すのはやめてもらっていいですか!

今日は親戚や友人が大勢来ているのに、入江家の人間が陰でこんな風に意地悪しているのを知ったら、どう思いますか?入江家の家風を貶めているのはあなたたちですよ!」月子は晶を見て言った。

「だから、私がこんなことを言うのに、誰かに教えられる必要なんてありません。なぜなら、普通の神経の持ち主なら、あなたに我慢できるわけがないんですから。ただ、私がもうあなたたちに下手に出るのをやめて、おだてるのもやめた、それだけのことです。分かりましたか?」

月子の言葉は一語一句力強く、少しもやましい様子も臆する様子もなかった。

晶は怒りで顔が真っ青になり、体が揺らいだが、そばにいた親戚が彼女を支えた。

月子の言葉は、晶を嘲笑うだけでなく、彼女のこれまでの全てを否定するものだった。静真は彼女が育てた息子だ。彼の性格はさておき、実の息子が彼女に冷淡になったのは、自分の行いに対しての報いなのだろうか?

天音は驚きで呆然としていた。自分に問いかけてみた。月子のように、大勢の親族の前で威圧的に振る舞うことなんて、自分にはできない。陰で仕返しをするのが精一杯で、自分より強い相手には、立ち向かう勇気もなく、すぐに萎縮してしまう。

静真もそれを聞いて頭の中は真っ白になった。

一日中心配で落ち着かなかったが、結局月子は来た。だから彼はまだ月子に期待していた。きっと大人しく自分の元に戻ってきて、復縁して、また一緒に暮らすだろう、と思っていた。

しかし、彼は間違っていた。

とんでもなく間違っていたのだ。

月子は入江家の人間が揃っているこの場で、彼と完全に縁を切り、別れを告げに来たのだ。

もし月子の目的を最初から知っていたら、彼女を急かすことなどしなかった。

静真の顔色は最悪で、目には怒りが浮かんでいた。月子に出し抜かれたのだ。彼女の従順な態度は、全てこの機会を利用して、自分がいる前で、しかも大勢の前で、完全に関係を断ち切るつもりだったのだ。

静真が家族に離婚のことを話していなかったのは、
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