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第606話

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天音は歯を食いしばって、こう言った。「どうしてあなたを信じられるっていうのよ?」

月子は静かに言った。「嘘なんてつかないさ」

「いや!会うだけじゃなくて、サンの運転する車に乗せてもらわないと!」天音は駄々をこねた。「約束してくれないなら、私もあなたの言うこと聞けないから!」

月子は彼女を見て言った。「いいわよ」

天音はまだその大きなサプライズに浸っていた。

その様子を見て月子は首をかしげた。「これで話がまとまったってことでいいの?」

天音は冷たく言い放った。「でもサンに会うまでは信じないから。だって、あなたが嘘をついているかもしれないじゃない!」

月子は落ち着いた声で言った。「約束はちゃんと守るから安心して」

それから、月子は少し首を傾けて言った。「静真に話して、この件はこれで終わりにしよう。それでもあなたもしくは静真が納得しないなら、おじいさんに言って。そもそも、洵を挑発したあなたが悪いんだから、これであなたが怪我をしていなかったら、私もこんな約束はしなかったけどね」

4センチもの切り傷で、しかも縫合が必要なほどの傷は相当な大怪我だから。

月子は、誰かが怪我をするのを見るのは耐えられなかった。

これで天音も、それなりに痛い目に遭ったってことだ。

しかし、天音がトラブルを起こしたのは事実なのに、怪我をしたせいで逆ギレされる筋合いはない。

だから月子は、甘やかされて育った令嬢のワガママに付き合わなかった。それよりも、彼女をひきつける方法を選んだのだ。

天音は、サンに会えるなら、月子の嫌味にも耐えられた。「サンと知り合いじゃなかったら、あなたのいうことなんて聞いてなかったんだからね!」

月子は厳しい口調で言った。「それから、洵に謝罪して」

そう言われて、天音はすぐに顔色を変えて叫んだ。「それは絶対に嫌よ!怪我したのは私のほうよ!」

月子は冷静に言った。「あなたが怪我をしたのは事実だけど、先に仕組んだのも紛れもない事実でしょ。もし洵があなたと同じようなことをしたら、たとえそれで逆に怪我を負ったとしても、入江家が穏便に済ませるわけがないんだから、あんたがこの件で先に洵に謝罪するのが筋じゃない」

それを聞いて天音の顔は怒りでいっぱいだった。

月子は続けた。「サンに会いたいんでしょ。これから私たちが関わる機会はたくさんあるんだから、私の言う
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