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第728話

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「私が騙されるとでも思ってるの?」月子は驚いて眉を上げた。

かつて義理の姉だった頃、天音は自分を散々困らせてきた。なのに今自分のことを心配してか恋愛事情にまで口出してくるなんて、ずいぶんとお節介じゃない。

「だってあなたが恋愛のことしか頭にないタイプじゃない?」天音は言い過ぎたと思って、慌ててご機嫌をとった。「別にバカにしてるわけじゃないの!ただ、あなたが変な男に捕まらないか心配で。相手があなたに相応しいか見てあげようと思って。兄も大概なクズだけど、クズ男っていろんなタイプがいるでしょ。口ばっかり達者な男も厄介だからね」

そんな天音を見て月子はその様子を、なんだか可愛いと思ってしまった。本当は今にも切れてしまいそうなのに、自分の前では必死に抑えている。そのギャップはなんとも面白かった。

「私のことはいいから」月子はくすくす笑いながら言った。「まあ、とにかく中に入って。ちょうど、彼も家にいるから」

「あなたの家に住んでるっていうの?」天音の声が裏返った。

それと同時に嫉妬の感情が、天音の全身にじわじわと広がっていた。カリスマ的な存在の月子と一緒に住むなんて、自分ですら夢のようで手が届かないことなのに、どこの馬の骨とも分からない男がそうやすやすとその願望を叶えているなんて、そんなことが許されるっていうの?

なんなのよ、もう。せっかくいい気分で月子の家に来たのに、目障りな邪魔者がいるなんて。もし今目の前に月子がいなかったら、すぐにでも乗り込んで大暴れしてやるところだと天音は思った。

「ええ、同棲してるの」月子は答えた。

それを聞いて天音はすっかり言葉を失った。

だけど、月子は天音の気持ちなんてお構いなしにその真実を突きつけた。そして天音はその一言一言にまるで鋭い刃物に切り裂かれたようだった。

天音は昔から自己中心的で、独占欲が強かった。それは相手が憧れのアイドルであっても変わらない、厄介な性格なのだ。

月子は自分には手の届かない女性だと分かっている。それでも、自分の「お気に入り」なのだ。他の誰かが彼女を好きになるのはいい。でも、同棲までして、こんないい思いをさせるなんて許せない。

月子と付き合うなんて、そうさせてたまるものか。

だが、彼女がそう思いを巡らせていると、月子はすでに家の中へ入ってしまっていた。

どうすることもできず、天音は不機嫌極
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