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第564話

作者: 夜月 アヤメ
結局のところ、若子が修を愛していなければ、修が何をしても若子は傷つかなかっただろう。問題は、愛という感情があるからこそ、修の行動が彼女を傷つけたのだ。修自身も、自分が若子を愛していないと思い込んでいたから、こんな結果を招いてしまったのだ。

若子の話を聞いて、花は腹の虫が収まらなかった。「やっぱりあなたは藤沢をかばってるのよ。彼に傷つけられたあと、結局またお兄ちゃんを頼るんでしょ?前みたいにね。お兄ちゃんをあなたの保険みたいにして」

若子は本気で怒った。「その言い方はひどすぎるわ!私は一度だってあなたのお兄さんを保険扱いしたことなんてない。それに、傷ついたときにお兄さんを頼ったこともないわ。確かに、私が傷ついているときに彼がそばにいてくれて、支えてくれた。私はそれを感謝してる。でも、それは私が頼りにしたからじゃない。あなたのお兄さんが優しい人だから助けてくれただけよ。その感謝の気持ちを込めて、私は彼を助けたいと思ったし、結婚という形で彼を助けた。そんな私を、保険扱いするなんて言うのは本当に心外だわ。この世界のどこに、そんなふうに自分の保険のために全力を尽くして助ける女がいるっていうの?」

花は拳をぎゅっと握りしめ、「それはあなたがそう思ってるだけよ。でも、お兄ちゃんはそう思ってないかもしれない。あなた、分かってるの?お兄ちゃんが......」

若子は眉をひそめた。「西也がどうしたっていうの?」

「......」

花は言いかけて黙り込んだ。西也自身がまだ若子に気持ちを伝えていない以上、自分が言うべきではないと思ったのだ。

だが、怒りに任せて口が滑りそうになった花は、さらに強い口調で言った。「お兄ちゃんがこんなふうになったのは全部あなたのせいよ!彼がこのことを知ったら、きっと崩れてしまう!すべてあなたの責任だから!」

そう言い放つと、花はくるりと背を向け、そのまま怒りに任せて去っていった。

若子は花を呼び止めようと、二歩ほど追いかけた。しかし、手術室にいる修のことを思い出し、立ち止まった。

若子は花を呼び止めようと、二歩ほど追いかけた。しかし、手術室にいる修のことを思い出し、立ち止まった。

3時間後、手術室から医師が出てきた。若子はすぐに医師に駆け寄り、尋ねた。「先生、彼の具合はどうですか?」

「手術は非常にうまくいきました。穿孔部分は修復しました
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コメント (1)
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千恵
西也が昏睡状態の時、目醒めてくれたなら一生側にいる とか泣きながら願っていなかったっけ?? あらー、この子ったら、願った事も忘れて。。。
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