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第1021話

作者: 金招き
憲一は感慨深げだった。

まさか、圭介と香織に続いて幸せになるのが越人だとは。

普段はあんなに忙しく働いているのに、恋愛面では自分を出し抜いているなんて。

彼はまた深いため息をついた。

「はあ……結婚するんだから、記念になるような結婚祝いを贈らないとな」

「それぐらいの良心はあるのね」

香織が言った。

「……」

憲一は言葉を失った。

自分はそんなにダメな人間に見えるのか?

「俺、そんなに悪いか?」

香織はいたずらっぽく笑って言った。

「悪くはないよ。ただ……あんまり良くもないかも?」

「香織!圭介と一緒になって図に乗ってるんじゃないだろうな?」

香織は慌てて手を振った。

「今の言葉、聞かなかったことにして」

憲一はふんと鼻を鳴らした。

「もう遅いぞ。母の借りは子が返すってな。君の息子に武術を習わせて、俺の娘のボディーガードにさせてやる」

「……」

香織は言葉を失った。

我が子もだって大切な子だというのに

どうしてボディーガードなんて……

「いい夢見てるわね」

彼女はぷいと顔を背けた。

そんな将来、絶対にさせない。

鷹はそばで黙って聞いていたが、そのやり取りに思わず目を瞬かせた。

ボディーガードってそんなに悪い職業か?

まあ確かに、人に仕える立場って言われたら……ちょっと微妙かもしれない。

香織が部屋に入ると、圭介が窓際で電話をしているところだった。

誰と話しているのか、彼女が近づくとすぐに切ってしまった。

「誰だったの?私が来たら切るなんて」

彼女は何気なく聞いた。

圭介が彼女を見上げた。

香織は近寄って彼の腕を掴み、笑いながら言った。

「どうしたの?何か言いにくいことでもあるの?」

圭介は彼女の頬をつねった。

「いつからそんなにやきもち焼きになったんだ?」

香織は首を傾げ、考え込むふりをした。

「あなたを愛し始めた時からじゃないかしら」

彼女は真面目な顔で答えた。

圭介は思わず笑みをこぼした。

告白されて嫌な気分になる人なんて、そうそういない。

彼だって例外ではなかった。

彼はソファに腰を下ろしながら言った。

「さっきの電話は越人だった。結婚式で何か手伝えることがないか、聞いてみた」

式の準備には何かと物入りだろう。

「で、どうだったの?」

香織が尋ねた。

「晋也が全部手
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