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第1127話

Author: かんもく
「昨日黒介を探すって言ってた理由、なるほど、腎臓を提供させるためだったのか!」弥はとわこの企みを見抜き、鼻で笑った。「わざと僕と親父にドナーの話をしてビビらせてから、黒介を引き合いに出す。とわこ、正直言って、頭は悪くないな!」

「弥、あなたは自分の器で他人を測らないでほしいわ。普通なら、自分から進んで差し出すべき立場よ。でもあなたは命惜しさに絶対やらないと思ったの」

「話すだけならともかく、わざわざ悪口まで言うなよ!結菜は確かに実の叔母だが、彼女は今まで俺に何をしてくれた?言葉を交わしたことすらない!そんな人に腎臓をあげろって?正気の沙汰じゃない!」弥は声を荒げた。

悟が弥の腕を軽く叩き、落ち着かせた。

「とわこ、結菜は俺の実の妹だ。早く元気になってほしいと願っている。だが俺も歳で、ドナーにはなれん。黒介ならできるだろう」悟はすでに腹をくくったような表情だった。

「いいわよ。じゃあ黒介を私に引き渡して。すぐに病院で検査させるわ」意外と話が進んだことに、とわこは少し驚いた。

「俺が黒介に提供させるのは、結菜を助けたいからだけじゃない。あの兄妹が今後食うに困らないようにするためでもある」悟が薄く笑みを浮かべた。「結菜がこうなったのは、お前の子を助けたせいだ。条件を出しても、無茶じゃないだろ?」

とわこの指先が強く握られた。

やはり甘かった。この親子が善意だけで動くはずがない。

「父さんの言う通りだな。今後の生活を保証するために、しっかり条件をつけないと」弥も口角を上げた。

「いくら欲しいの?」とわこはカップを握りしめ、低く言った。「ちゃんと考えて金額を出しなさい。払える範囲なら用意する。でも法外なら無理よ」

「君はなくても、旦那は金持ちだろ?」弥がわざとらしく肩をすくめた。

「奏は確かにお金を持ってるわ。でもこの件を知ったら、あなたたちにお金を渡すより先に、黒介を直接連れ去るはずよ。私がわざわざ黙ってるのは、事を荒立てたくないから」

「荒立てても構わん!」悟は冷酷に言い放った。「俺はいまや何も持ってない。脅しなんて効かん。それに黒介はすでに隠してある。お前らはどこで探すつもりだ?結菜を死なせたくなければ、俺の要求は一銭もまけないぞ」

「要求って?」とわこは眉を寄せた。

「常盤グループの三分の一の株式だ」弥がはっきりと言った。「少なくともそれ
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多分バレてそう とわこの企み
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