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第553話

作者: 栄子
発表会の最後に、関係部署が調査の公文書を持って現れた。

要は落ち着いた様子で立ち上がり、晴れやかな笑みを浮かべた。「一緒に行きます」と言った。

それと同時に、碓氷家にいた笙も調査のために連れて行かれた。

碓氷グループの株は、要が既に笙の名義に移していた。今の要は名ばかりの社長だったし、北城郊外の土地開発プロジェクトに関与していないことを証明する十分な証拠もあったので、警察署では積極的に調査に協力し、すぐに疑いを晴らした。

調査が終わったあと、拓馬が彼を迎えに来た。

警察署を出ると、要は空に沈む夕日を見上げ、暗い表情で言った。「綾はどこにいる?」

「まだ西城市に出張中です」

要はため息をついた。「古雲町まで送ってくれ」

「かしこまりました」

......

笙は複数の経済犯罪に関与しており、その額も巨額だったため、残りの人生を刑務所で過ごすことになった。

碓氷グループは大きな打撃を受け、株価が暴落し、倒産の危機に瀕していた。

そして桜井グループもまた、長年にわたり海上輸送を利用した違法行為を行っていたことが発覚された。

さらに、柏自身も長期間にわたって違法薬物を使用していたことが明らかになった。それは覚せい剤に似た輸入薬だった。それに加えて、捜査官は柏の別荘の書斎から小型カメラと多数の盗撮ビデオを発見した。

ビデオの内容は衝撃的で、中には遥の姿もあった。

これらの手がかりは全て、音々が提供したものだった。

柏は拘留され、裁判を待つ身となった。

これで、ようやく音々の任務も完了したことになる。

しかし、表面上の脅威は排除できたものの、柏の背後にいる勢力は依然として存在していた。

一方で、誠也に残された時間もわずかとなった。

......

八日目、綾と輝は西城市での仕事を終え、北城へ戻ってきた。

飛行機は無事、北城空港に着陸した。

綾と輝は空港を出ると、音々の姿を見かけた。

音々は黒の作業ズボンに、カーキ色のノースリーブを着用し、サングラスをかけていた。ウェーブのかかった長い髪は鎖骨の長さまで切り、ダークブラウンに染めていた。

以前とはまるで別人のようだった。

綾と輝も一瞬、彼女だと分からないくらいだった。

音々がサングラスを外して二人に手を振ってくれたので、それでようやく気付けた。

「中島?」輝は眉をひそめ、まるで別
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