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第331話

Author: 雲間探
彼らが観客席に座った頃、ちょうど練習レースが正式に始まった。

宗介と瑛二は今までカーレースに触れたことがなく、誰を応援すればいいのかもわからなかった。

しかししばらく見ているうちに、実況の解説から38番のドライバーCCと他の二人が優勝候補だということがわかった。

何より、CCは今回唯一の女性レーサーだった。

そのため、会場にいる多くの人の視線が自然とCCに集まっていた。

しかも、CCは二度もカーブで鮮やかな追い抜きを見せ、観客たちを驚かせた。

宗介は思わず感嘆した。「やっべ、度胸すごすぎ!かっけー!」

淳一は、宗介がCCの正体が優里だと知らないことを知っており、宗介の褒め言葉を聞いて、そっと口元を緩めた。

二回の練習レース、どちらもCCがトップだった。

宗介は興奮を抑えきれず叫んだ。「このCCって誰なんだよ?絶対会ってみたい!」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに、画面の中でCCが車から降りてヘルメットを外した。その姿が優里だとわかると、宗介の目が飛び出さんばかりになった。「CCって彼女だったのか?ま、マジで——」

驚いたあと、すぐに肩を落としてぼやいた。「俺、口説こうと思ってたのにさ、まさかCCが藤田智昭の彼女って?」

これじゃ、彼にチャンスなんて一ミリもないじゃん!

そう思うとすっかりテンションが下がってしまい、それでもつい羨ましげに言った。「藤田智昭って、そんなに勝ち組なのかよ?」

そのとき、優里も彼らの姿に気づいた。

瑛二の姿を見た瞬間、少し驚いた様子だった。

彼女は彼らに近づきながら言った。「徳岡さん、田淵さん、押尾さんも、レースに興味あるなんて意外ですね?」

淳一が先に口を開いた。「今までは縁がなかったですけど、あなたが話してたのを思い出してな。ちょうど私たちも時間あったし、見に来たってわけです」

そう言ってからさらに続けた。「すごくいい走りでした。二回ともトップでしたし、おめでとう」

優里は微笑んで、「ありがとう」と言った。

瑛二も「おめでとう」と一言添えた。

優里は「ありがとう」と返し、それから瑛二に微笑みかけた。「そういえば、田淵さんとお会いするの、ずいぶん久しぶりですね。さっき遠くから見えた時、見間違いかと思いました」

瑛二は答えた。「普段は仕事が忙しくて、なかなか休みも取れませんから」

優里は続
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Comments (3)
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優子
玲奈が実はレースに出るとか突拍子もない話にはならないと思うけど、レースにクズ男が来なかったとかにならないかな?そしたら絶対来るって言ったクズ女の自信が崩れ去る。
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鷲田茂夫
優里と淳一の話なんかなんの興味もない
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桜花舞
優里のレースって何の伏線なんだろう? 玲奈もレース出来たらいいなと思ったけど、前に悠真との話で玲奈は実際にはレースには興味がなく、って書いてあったから違うっぽいしと思ったけど、、レースに興味ないだけで、出来るのかな? 20話読み返して来たら、辰也から興味があるんですかと聞かれて、玲奈さんのような方がレースを好むとは思えなかったもので、と言うと私のような方?って答えてるから、本当は出来るのか⁈ それとも車の設計していたとかかなぁ?
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