午後の授業が終わり、男子学生達は着がえをする為にロッカールームへ行き、女子学生達は先に教室へ戻ることになった。女子学生達はそれぞれ固まってぞろぞろと教室へ向かって歩きだしたので、私も1人その後ろをついて歩いていると背後から不意に声をかけられた。「あ、あの……アルフォンス様……」「え?」ふり向くと、声をかけてきたのは私と同様に魔法を使えないノリーンだった。彼女も友達がいないのか、一人ぼっちで歩いている。彼女もぼっち……。同じ嫌われ者同士なら、ノリーンとは友達になれるかもしれない。うん、最低でも後2カ月は絶対にこの学園に通わなければならないのだから。それに友達はいるに越したことは無い。そこで私は思い切り愛想よく笑みを浮かべて返事をした。「ええ、何かしら?」ノリーンは私の笑顔に余程驚いたのか、肩をビクンと跳ねさせた後、ためらいがちに言った。「あ、あの……少しお話したいことがありましたので……教室まで……い、一緒に戻りませんか……?」「ええ、勿論! 一緒に教室まで行きましょう」良かった。私の笑顔作戦が功を成したのかもしれない。私達は連れ立って歩き始めた。「それで私に話って何かしら?」「はい……実は『魔法学』の授業の時の事についてなのですが……」「『魔法学』って……」ま、まさか私が魔力を使えないのに、炎の球を投げつけたことを言っているのだろうか?「どうして、ジョン・スミス様が代りに試験を受けたのですか?」「え?」その言葉に私の思考が一時的にフリーズしてしまう。「試験は絶対に代理で受けることは出来ないですよね? でも何故スミス様はユリア様の代わりに試験を受けたのですか? しかも何故か皆さん、ユリア様が試験を受けたと思い込んでいるようですし……」「え……? そ、それは……」ノリーンの質問に私は答えることが出来なかった……と言うか、逆に質問したいくらいだった。ジョンの変身魔法というのは実際に姿を変える訳では無く、周囲の人間にあたかも姿を変えたかのように思わせる暗示魔法であると聞かされている。現にあの時のジョンは確実に自身を私の姿に変えて、炎の球を作り出してキャロライン先生にぶつけていた。なのに、ノリーンの目にはジョンの姿として映っていた……。「あ、あの。そ、それは……」どうしよう、いっそジョンには内緒で本当のことをノリーンに話して
「……」黙って食べるジョン。「フン。ユリアの焼いた菓子などまずいに決まっている」まだ私の背後ではベルナルド王子がいちゃもん付けている。さっさと何処かに行ってくれればいいのに。「う……」突然ジョンが口を開く。「う?」私は次の言葉を待つ。「ほら見ろっ! まずくて呻いているのだ!」後ろのベルナルド王子がうるさくて堪らない。「うまい!」突如ジョンが笑みを浮かべ、あっという間に手にしていたマフィンを口に運び、完食してしまった。「凄く美味しかった。今まで食べたマフィンの中で一番上出来だったよ。人間得意な物の一つや二つあるものだな?」珍しく褒めてくれた! すると王子が横やりを入れてくる。「何だと? そんなはずあるものか。だったら俺が食べて確認してやろう。1つよこすんだ」王子がとんでもないことを言ってきた。するとすかさずジョンが反論する。「ベルナルド王子、申し訳ありませんがこのマフィンはユリアが俺の為に焼いてくれたマフィンです。しかも先程、絶対にユリアの焼いた菓子は食べないとおっしゃっていましたよね?」「そ、それは……!」「王子は先ほど学生食堂で一緒にいた女子生徒に焼いて貰えば良いのではありませんか?」「ぐぬぬ……!」ベルナルド王子は悔しそうにジョンを睨み付けると、次に3人の腰ぎんちゃくたちに声をかけた。「おい、行くぞ!」「「「はい!」」」そしてベルナルド王子はくるりと背を向けると、3人の腰ぎんちゃくたちを連れて、私達の元から去って行った。「何だ? あの王子は……」ジョンは立ち去って行くベルナルド王子たちを見ながら首を捻る。「ええ、そうね……」だけど、正直に言うと少しだけ気分が良かった。何故なら私を馬鹿にしていたベルナルド王子が剣術だけでは無く、言葉でも負けて立ち去って行ってくれたのだから。「ジョン、ひょっとして私の為にあんなことを言ってくれたの?」「ああ、当然だろう? 少したきつけてやる為に挑発したのさ。ひょっとすると尻尾を出すかもしれないだろう?」「尻尾? 何の尻尾よ?」「もう自分の立場を忘れたのか? 俺はユリアの何なんだ?」ジョンがあきれ顔で私に言う。「えっと……護衛騎士よね?」「良かった。覚えていたのか? ユリアは記憶力に乏しいから忘れているのかと思って心配だったのだが、何よりだ」「そんな話はどうでもい
ようやくジョンを称える称賛の嵐が収まると、女子学生達はそれぞれ意中の男子学生たちに自分たちの焼いたマフィンを持って駆け寄って行く。よし、私もジョンにこのマフィンを食べさせ、見返してみせよう。人混みをかき分け、ジョンを探しまわっているとタイミングの悪いことにベルナルド王子と視線が合ってしまった。ベルナルド王子は露骨に意地悪そうな顔で私に近寄って来る。え? な、何故近付いて来るのだろう?そして当然背後からは3人の腰ぎんちゃくさん達が迷惑そうな顔でついて来る。気の毒に……。私は心の中で密かに王子に付き合わされている3人に同情した。ベルナルド王子は私の傍まで近寄り、足を止めた。「……今の剣術の練習試合、見ていたのか?」「はい」「俺が奴に負ける姿を見ていたのだな?」敵意むき出しの目で私を睨み付けてくる。「え、ええ……まぁ見ましたけれど……」「そうか。それで俺を馬鹿にしに来たのか?」「はぁ?」あまりにも突拍子もない台詞に妙な声を出してしまった。「まさか、それ程暇ではありませんよ」「何!?」ベルナルド王子の眉間が吊り上がる。しまった! つい、口が滑って余計なことを言ってしまった。「お前……今、何と言った?」殺気を漲らせるベルナルド王子に3人の腰ぎんちゃくたちが次々と声をかける。「王子、やめて下さい。むきになる相手ではありませんよ」「ええ、相手にするだけ時間の無駄ですよ」「どうせ取るに足らない相手なのですから放っておきましょう」何とも失礼なことを言ってくる腰ぎんちゃくたち。しかし、彼等に諭されてベルナルド王子は気が収まったのだろう。「フン。今回は特別に俺が手を抜いて負けてやったのだ。だが次回は無いぞ。と……奴に伝えておけ」明らかにジョンの方が一枚も二枚も上手なのに、強気な態度のベルナルド王子。しかし、そのことを何故私に言うのだろう?「あの、ベルナルド王子……」未だに私の前から立ち去らないベルナルド王子に声をかけた。「何だ?」「言うべき相手を間違えていますよ? 私ではなく本人に伝えれば良いのではないでしょうか?」「な、何だと!?」途端に王子の顔が怒りの為か? 顔を赤らめた。「王子!」「やめて下さい!」「落ち着いて! 深呼吸して!」3人の腰ぎんちゃくたちが王子を宥める。もしかするとジョンに負けたことが相当悔しいのか
家庭科の先生の称賛通り、私のマフィンが一番の良い出来となった。ふっくらと膨らんだ生地、きつね色に焼けた甘い香りの漂うマフィン……。クラスメイト達が皆試食したがって、少しずつ分けてあげたら絶賛の嵐だった。「素晴らしいですわ!」「何処で習ったのですか?」「その辺のお店で売ってるよりずっと美味しいです!」先生含め、クラスメイト達が矢継ぎ早に質問してくるが、私には何も分からなかった。ただ、身体が勝手に動いてケーキを作っていた。そう、まるで長年体に染み付いて、覚えていたかのように……。しかし、そんなことを言えば頭のおかしな人間と思われるかもしれない。そこで口からでまかせを言った。「はい、家で特訓しました。このままではいけない、何か一つ取り柄を持たなければと思って頑張りました。でも皆さんに喜んでもらえて嬉しいです」そして笑みを浮かべると、クラスメイト達が互いの顔を見あわせた。「何だか、ユリア様雰囲気が変わりましたよね?」「ええ、物腰が柔らかくなりました」「以前のユリア様より今のユリア様のほうがずっと良いですわ」「え……?」その言葉にクラスメイト達の顔を見渡すと、今までのような冷たい視線ではなく、どこか温かみのある視線で私を見ている。ひょっとすると……皆の中で私に対する評価が変わってきた……?すると家庭科の先生が言った。「さぁ、それでは男子学生達にも早速食べていただきましょう。では訓練所へ行きましょう」『はい!!』女子生徒たちが嬉しそうに返事をする。え? 今届けに行くの?でも……。私は心の中でニヤリと笑った。焼き立てのマフィンを皆の前でジョンに渡して食べさせてあげよう。そしてジョンを驚かせて見返してやるのだ。きっとできるはずだ!フフフ……。待っていなさいよ、ジョン!私はウキウキしながら他のクラスメイトたちと一緒に焼き上げたマフィンをバスケットに入れ始めた―—***** 剣術の訓練は外で行われていた。 訓練所に行ってみると、周りは男子学生たちの大歓声に包まれていた。今は木刀を使った実技訓練中で、何という偶然なのかジョンと他のクラスにいるはずのベルナルド王子との練習試合の真っ最中だった。どうやら合同訓練だったらしい。2人は激しく打ち合って……と言うか、王子が一方的に木刀を振り回し、ジョンはそれを軽々と交わしていく。まるで大人と子供
教室へ入った途端。パチパチパチパチ……ッ!クラスメイト達が一斉に拍手をした。皆何故拍手をしているのだろう? そして傍らに立つジョンを見て納得した。「ジョン。貴方すっかり人気物ね? 男女問わず皆から拍手を受けるなんて」するとジョンは溜息交じりに言った。「本当にユリアは鈍い人間だな……」「え? 何が?」するとクラスメイト達が一斉に駆け寄ってくると、あっという間に私は取り囲まれていた。え? 一体どういうこと?「ありがとうございます! ユリア様!」「あの教師に炎の球を投げつけるなんて!」「あんな凄い魔法が使えたなんて尊敬します」「才能を隠していたのですね?」「何はともあれ、スカッとしましたよ」等々……賛美の嵐だった。「あ、あの……私(正確に言えば私に姿を変えたジョン)が、キャロライン先生にあんな真似をして、軽蔑したりしないのかしら……?」クラスメイト達を見渡しながら尋ねると、全員が首を振る。「軽蔑!? まさか!」「ええ、そうですよ! 大した魔力も無いくせに『魔法学』の教師なんて!」「見の程知らずも甚だしいですわ」「いい気味でしたよ!」そして再び盛り上がるクラスメイト達。どうやら彼等は満場一致でキャロライン教師が以前から気にくわなかったらしく、私(ジョンだけど)が炎の球をぶつけて、髪を焼いてくれたことで鬱憤を晴らしてくれたと感謝してきたのだ。皆に取り囲まれ、お礼の言葉を受けながら私は1人生徒たちの輪から外れ場所に立つジョンを見た。まさかジョンは始めからこれを狙っていたのだろうか……? 私に対するクラスメイト達の態度を改めさせる為……?まさかね。そう思いつつ、戸惑いながらジョンを見ると、私の視線に気付いたのかこちらを振り向くジョン。彼は私を見ると口を動かした。「か・ん・しゃ・し・ろ・よ」ジョンの口は、そう語っていた。え? まさかジョンは本当に全て計算づくであのような真似をしたのだろうか?私は少しだけ考え……あのジョンに限って絶対そんなはずは無いだろう! という結論に至った——**** 午後の授業は女子生徒は調理実習でマフィン作り、男子生徒たちは剣術の訓練だった。「フフフ……」調理をしながら、私は笑いが止まらなかった。その理由は決まっている。私を振り回すジョンからようやく解放されたからだ。嬉しさのあまり、ウキウ
「はぁ〜」教室へ向かいながら大きなため息が漏れてしまう。「何だ? そんな大きなため息をついて。運気が逃げるぞ?」隣を歩くジョンが言う。「運気ならとっくに逃げていってるわよ。誰かさんのお陰でね」ちらりとジョンを見た。「誰かって……誰のことだ?」首を傾げるジョン。本当に気付いていないのか、それとも無自覚なのだろうか? 一体誰のせいで私が今困ったことになっているのかを……。「あ〜あ……教室に戻るのが憂鬱だわ……ボイコットしようかしら? きっと私が教室を抜け出しても誰も気付かないだろうし……」「いや? そんなことは無いと思うぞ? ユリアは我儘悪女として、学園ではかなりの有名人だからな。いなくなればクラス中が気付くはずだ」中々無神経なことを言ってくれるが、今の私には反論する気にもなれない。そしてジョンの語りは続く。「それに何故教室に戻るのが嫌なんだ? 大体ボイコットなんて認めないぞ。そんなことをすれば俺までボイコットしなければならなくなるだろう?」「へぇ〜随分真面目なのねぇ。私の護衛の為だけでこの学園に入ってきたのに。勉強するのが余程好きなのね?」するとジョンは眉をしかめると早口でまくしたてた。「おかしなことを言わないでくれ。この学園は授業単位が足りなくても退学になってしまうんだぞ? しかも俺は途中から編入してきている為に1日も授業を休むわけにはいかないんだ。ボイコットのせいで、もし俺が退学になったら責任を取ってくれるのか? 俺の代わりに授業料の返済をしてくれるのか?」「あー! もう、分かったわよ! しません、ボイコットしなければいいんでしょう!」「ああ、分かればいいんだ。分かれば。それで、もう一度聞くが何故教室に入りたくないんだ?」「は?」私はジョンの言葉に耳を疑った。「ね、ねぇ……冗談よね? 本気で今の台詞言ってるんじゃないわよね?」「いや? 俺はいつだって真面目に話しているが?」「何よ、それ。自分があの教室で何をしたのか覚えていないわけ?」「俺の記憶力は抜群だ。見くびられては困る。……ひょっとするとユリアの姿で魔法の玉をあの教師にぶつけたことを気にしているのか?」「当然じゃない! ただでさえ私はこの学園で悪女と言われて嫌われているのよ? あんな大胆なことをすれば、ますます周囲の自分に対する評価が下がってしまうじゃないの。皆
理事長室を出て、教室へ向かっているとジョンが話しかけてくる。「良かったな、ユリア。感謝しろよ? 俺のお陰で退学を免れたのだから」「だから、私はずっと退学したいと言ってるじゃないの。むしろ退学をしたくないのはジョン。貴方でしょう?」「ユリア、退学なんて甘えた考えは捨てるんだ。嫌だからと言って逃げてどうする?」尤もらしいことを言うが、ジョンの本心は分かっている。途中退学して報酬額から天引きされるのが嫌なだけなのだ。「私はこの学園を退学して別の学園に移りたいだけよ。だってこんなに学園中から嫌われているのよ? むしろ記憶喪失になったのをきっかけに、私のことを誰も知らない場所へ行って、新しく人生をやり直したいわ」「だったら、2ヶ月我慢しろ。それ以降は好きにしていいから」「出た! ほら、やっぱりそれが本音じゃないの! 単に自分の報酬額が天引きされるのが嫌なだけでしょう? でも、仕方ないから2ヶ月は我慢してもいいけど……その代わり、反省文とレポートはジョンがやってくれるのでしょう?」するとジョンが呆気にとられたような顔で私を見る。「何故俺がやらなければならない? それはユリアが1人でやるべきことだろう?」その言葉に耳を疑った。「な、何ですって……? 元はと言えば、こんなことになったのはジョン! 貴方が私の姿に変身してキャロライン先生に炎の玉を投げつけて、髪を焦がしたのが原因でしょう? 反省文とレポートだって貴方が提案したのだからジョンが書くのが筋でしょう?」「だが、はい分かりましたと返事をしたのは俺じゃない。ユリアだろう? 自分で返事をしたのだから、責任を持って自分でやること。分かったな?」「何ですって〜!」気づけば私とジョンは廊下を歩きながら言い争いをしていた。そんな私達を興味深げに見ている学生たち。その時――「おい、ユリア!」背後でいきなり名前を呼ばれた。勿論声の主は……。「あ……ベルナルド王子……」またしても面倒な人が現れた。しかも今回は3人の腰巾着に銀の髪の……確かテレシアと言う名前だっただろうか? 彼女も一緒だ。「何ですか? 我々に何の用です? 今取り込み中なので、何か用件があるなら後にしていただけませんか?」ジョンが仮にも王子に向かってとんでもない言い方をする。案の定……。「おい! 貴様!」「口を慎め!」「仮にもベル
「ええ、その点については……ユリアが悪いです」はぁあああっ!? い、今何と言った!? 私を助けてくれるのでは無かったの!?思わず恨みを込めてジョンを見るも、平気で私の視線を無視するジョン。「ほら見なさい! やっぱりあの生徒は私に悪意を持ってこんな目に合わせたのよ! 一体どんな手を使ってこんなことをしたのか白状しなさい!」「ユリアはずっと悩んでいました……」突如、遠い目をして語り始めるジョン。思わずその場にいる全員が驚いた様子でジョンを見る。「ユリアは自分に魔力が殆ど無い為に『魔法学』の授業を受けるのが苦痛でたまりませんでした。そこで、とうとうマジックアイテムに手を出してしまったのです。時々行われる実技試験の小テストを乗り切るために、炎や水の魔法を使うことの出来るマジックアイテムを本日持参してきたのです」マジックアイテム!? この世界にはそんなものまで存在していたなんて……!「成程……それで今回のテストで、そのマジックアイテムを使ってしまったと言うわけだな?」ジロリと理事長は私を睨む。「ええ、でもユリアは当初使うつもりは全くありませんでした……しかし、クラスメイトからも、そこにいるキャロライン教師からもバカにされて笑われて、ついにユリアはマジックアイテムに手を出してしまったのです。そこで炎の玉を作り出したのですが……扱いになれていなかった為、火傷しそうになってしまったのです。慌てて炎の玉を放り投げた時……たまたま、その先にキャロライン教師がいた。というわけです。そしてキャロライン教師の髪が燃え、ユリアはショックで一時的に記憶を失ってしまったのです」おお! よくもそこまで作り話が出来るなんて……。私はジョンの巧みな言葉使いに関心してしまった。だけど、それでは結局私が罪を犯したことになってしまう。実際に攻撃したのはジョンなのに。理不尽だ。これはあまりにも理不尽過ぎる。「成程……そういう事情があったのか。ミス・キャロライン。今の話は本当かね? 君は魔法が使えない生徒にすら、同じテストを受けさせていたのかね? しかも他の生徒達と一緒にあざ笑っていただと?」「!そ、それは……」そこまで言うとキャロライン教師はコクリと小さく頷いた。「うむ……状況は分かった。しかし、マジックアイテムを使ったことは看過できないな。本来ならこの様な事件を引き起こした罪
途中トラブル? があったものの、私とジョンは理事長室の前に到着した。するとジョンが私の耳元で囁く。「いいか? ユリア。打ち合わせ通り、お前は理事長室の中に入った後は挨拶だけすればいい。後は全て俺に任せろ。な〜に、案ずることはない。大船に乗ったつもりでいればいいさ」打ち合わせらしい打ち合わせもしていないのに、何故ジョンはそこまで自信満々にいい切れるのだろう?正直に言えば私は不安でたまらない。大船どころか泥舟に乗らされているような気がする。けれど、炎の玉を出せたことに関する言い訳が何も思い浮かばない私はジョンに任せるしかなった。だ、大丈夫……彼はこれでもお金で雇われた私の護衛騎士なのだから、悪いようにはしないはずだ。……多分。「わ、分かったわ……。貴方に任せるわ。信用しているからね?」「ああ、任せておけ。よし、では行くか」「え、ええ」そして私とジョンは部屋の扉をノックした。——コンコンややあって、扉の奥から声が聞こえてきた。「……誰かね?」「私です。ユリア・アルフォンスです」「入りたまえ」「失礼致します……」ガチャリと扉を開けて理事長室の中へと入っていく私。真正面には大きなライティングデスクを前にこちらを向いて座るのは口ひげを生やした男性である。あの偉そうな人がこの学園の理事長……。そして理事長室のソファにはジョンに髪の毛を焦がされた女教師がいる。確かにベルナルド王子の話していた通り、前髪の一部が焼け焦げて無くなっている。女教師は憎しみを込めた目で私を睨みつけていた。うう……犯人は私ではないのに、何故恨まれなければならないのだろう?「ユリア・アルフォンス。随分来るのが遅かったではないか? 校内放送から15分もかかって到着するとはどういうことだね? おまけに……君は誰だね?」理事長はジョンを見ると顔をしかめた。「はい、私はジョン・スミスと申しましてクラスメイトです。今回の事件でユリアの証人として付き添いました。実は彼女は事件を起こしたショックで一時的に記憶障害を起こしてしまったので、側にいた私が証人となるべくついて来ることにしたのです。なので私が彼女の代わりにお話を伺います」だ、誰が記憶障害ですって!? まぁ確かに記憶喪失ではあるけれども……。「何がショックで一時的な記憶障害ですか! むしろショックを受けているのはこ