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第102話

Author: 桜夏
「美月は彼女の友人だ。それ以外はよく知らない」

蓮司は言った。

「だが、美月からも何の手がかりも得られなかった」

蓮司はそう言って、ひどく落ち込んだ様子でため息をついた。

「承知いたしました。引き続き調査いたします」

大輔は言った。

彼は駿を見かけたことを蓮司に報告しようかと思ったが、奥様は二年間も専業主婦だったのだから、駿と面識があるはずがないと思い直し、はっきりしてから報告することにした。

大輔が出ていくと、オフィスは静まり返った。蓮司は食事の手を止め、スマホの透子とのチャット画面を見つめた。

しかし、残っているのはここ数日の履歴だけで、それ以前のものはすべて彼が消してしまっていた。今となっては、思い出を辿るすべもない。

悲しみと後悔が込み上げ、蓮司は再び目頭を熱くした。

四日。四日が過ぎても、透子からの連絡は一切なく、彼女がどこにいるのかも分からなかった。

雑踏の中、一人の人間すら見つけられない。「大海で一滴の水を探す」とはこのことか——彼は初めてその言葉の真の意味と、自分の無力さを痛感した。

悲しみと痛みに視界が滲んでいく。蓮司はスマホを強く握りしめた。

ふと、彼は顔を上げた。チャット履歴は復元できるかもしれない。アプリを開発した会社の責任者を見つければいい。そう思うと、一筋の希望の光が差し込んだ。

それに、もし透子がアカウントに紐づく電話番号を変更していたとしても、その会社に調べさせれば新しい番号が分かり、電話をかけられるはずだ!

蓮司は目尻の涙を拭い、興奮のあまり立ち上がると、アプリ開発会社の責任者の個人番号を探し出して電話をかけた。

大企業同士は協力関係にあることが多く、直接的な取引がなくても顔見知り程度にはなっている。そのため、相手は快くチャット履歴の復元に協力することを承諾した。

しかし、蓮司がアカウントに紐づく電話番号の照会を頼むと、相手はためらい、困ったように言った。

「新井社長、お力になりたいのは山々なのですが……チャット履歴の追跡や復元であれば、ご自身のアカウント内での作業ですので対応可能です。

しかし、電話番号の照会となると話は別です。これは相手様のプライバシーに直接関わる行為です。現状お二人が友だち関係になく、相手様の同意も得られていない状況でこのような調査を行うことは、違法行為にあたります」

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Comments (1)
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千恵
やーねー 人は人 自分は自分 って思わないだねー ほっとけよ!!って思う 妬むなら自分を磨け
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