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第370話

Author: 桜夏
店長は蓮司の意図を察し、自ら商品を選び始めた。

二分も経たないうちに、彼女は夏の新商品である限定品で、なおかつ店で最も高価な白いパールバッグを手に、熱心に説明を始めた。

「新井様、あちらのお嬢様のために、グラネリのバッグをお見立ていたしました。

こちらはGSブランドが今年の夏に発表した限定モデルでして、現在、当店ではこちら一点のみの入荷となっております。

こちらのバッグのデザイナーはカールセンと申しまして、彼のデザイン理念は……」

店長の長々とした説明を聞き、蓮司は眉をひそめて遮った。

「もういい。バッグの背景やデザインには興味ない」

店長の声は途切れ、気まずそうな笑みを浮かべて言った。

「……では、こちらでよろしいでしょうか?」

蓮司は言った。「彼女が気に入ればいい。俺が望むのは、彼女が満足して受け取ることだ」

店長は合点がいき、保証するように言った。

「ご安心くださいませ。こちらのバッグは、気品の中に可愛らしさと優雅さも兼ね備えており、あのお嬢様の雰囲気に大変よくお似合いになるかと存じます」

蓮司はもう何も言わなかった。店長の審美眼だ、信用できるだろう。彼はそれを包ませ、透子たちがまだ遠くへ行ってしまわないうちに届けるよう指示した。

店長は付け加えた。

「メッセージカードをお付けしますか?お伝えしたい言葉と、お名前を記せば、どなたからの贈り物か、あの方にもお分かりになりますが」

「いらん」

蓮司は考える間もなく、そう返した。

その短く、即座の拒絶に、店長は呆気に取られた。

蓮司は言った。「俺が贈ったとは絶対に言うな。誰かが代金を支払ったということもだ」

危うくこの点を強調し忘れるところだった。これが自分の仕業だと透子に知られてはならない。

さもないと、彼女は絶対に受け取らないだろう。たとえ無理やり受け取らせたとしても、そのままゴミ箱に捨てるに違いない。

蓮司は言葉を区切った。

「店のイベント、抽選、会員デー、名目は何でも構わん。必ず!

これはお前たちの店からのプレゼントで、誰かからの贈り物ではないと、彼女に思わせろ。いいな?」

そのような要求を聞き、店長はさらに驚いた。贈り物をこれほどまでに隠したがる客は初めてだった。まるで、ほんの僅かな痕跡すら気づかれたくないとでも言うように。

店長は言った。「はい、かしこまり
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