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第434話

Author: ちょうもも
心の中で思わずほくそ笑む。

今夜が終わったらきっと自分に感謝するはずだ。

「ところで名嘉真さん、そのご友人も今日ここに来てるんですか?万が一誰かが解けても、当人がいなければ少し厄介かと」

「大丈夫、彼もちゃんと会場にいますよ」

柊哉は口元をゆるめ、不敵に笑った。

その後、何組かが挑戦してみたが、数手進めたところでやはり解けずに終わった。

すでに三十分は経っている。

考えつく限りの人間はみな試したが、結果は同じ。

やがて誰も前に出なくなった。

柊哉は少し首をひねった。

さっきまで悠良はあんなに真剣に考えていたのに、この場になっても動きがない。

自分は彼女に期待しすぎたのか。

考えてみれば当然かもしれない。

この局面はネットの強者ですら解けなかったのだ。

彼女はプロでも何でもない。

ただの女性に過ぎない。

最初から、こんな難題を出すべきじゃなかったのかもしれない。

数分間待っても誰も名乗り出ない。

彼はしびれを切らして言った。

「もう他に挑戦する人はいないんですか?いないなら、今日はこの局は解けなかったということで」

下の人々は一斉に首を振った。

柊哉もどうしようもなく、肩をすくめて苦笑した。

悪いな、伶。

彼はサービス係に片付けるよう声をかけようとした。

その時、

「私がやってみます」

澄んだ女性の声が会場に響いた。

柊哉の目がぱっと明るくなり、安堵の息が漏れる。

ようやく、待っていた瞬間が来た。

人混みの中、伶は無表情のまま腕を組み、細めた眼で悠良を見つめていた。

最後の最後で彼女が手を挙げた瞬間、眠たげだった瞳からすべての気配が消えた。

この局は彼が出したものだ。

誰一人解けない難題。

彼自身も、悠良がどう動くのか、確かめたくて仕方がなかった。

悠良は盤の前に立った。

まるで舞台のトリを飾るかのように。

その上、彼女の素性もあって、視線は一気に彼女に集まる。

「えっ、あれ小林家のお嬢さんじゃない?」

「白川の元奥さんでしょ」

「この前明らかになったじゃん。小林社長の隠し子だって」

「マジか、隠し子?」

「見た目じゃ分からないよな、社長も若い頃は遊んでたんだな」

「いや、この世界じゃ普通でしょ。金持ちの男が外で子供作るなんて珍しくない」

「それもそうだけど。あの莉子よりよっぽど品が
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