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第732話

作者: 似水
どうしてだろう?なんで景司にあんな嫌味を言ったんだろう?

全く、訳が分からない。

「何考えてるの?」隣から景司の声が聞こえてきた。

里香は考えを切り替え、首を振った。「別に、行こう」

「うん」景司は軽く返事をした。

レストランを出たところで、急に景司のスマホが鳴り出した。見ると、ゆかりからの電話だった。

「もしもし、ゆかり?」

電話を取ると、景司の声が自然と柔らかくなった。

ゆかりは甘えるような声で、「兄さん、どこにいるの?退屈でさ、遊びに行ってもいい?」と言った。

「ご飯はもう食べたのか?」

「うん、食べたよ」

「ホテルに戻るつもりだ」

それを聞いて、ゆかりは急にしょんぼりして、「こんな早くホテルに戻るなんて、夜遊びしないの?もういい歳なんだから、お父さんとお母さんはずっと結婚急かしてるよ」って言った。

景司は困ったように、でも甘やかすように笑いながら、「あれは仕方ないけど、どうしてゆかりまでお父さんとお母さんの味方になるんだ?」と返した。

ゆかりはクスクスと笑いながら、「私を連れて行ってくれたら、文句言わないよ。でも、そうしないと兄さんの近況を全部お父さんとお母さんに話して、電話攻撃させるよ!」と言った。

景司はすぐに、「わかったわかった、連れて行けばいいだろう。頼むからそれだけはやめてくれ」と言った。

「やったー!」

ゆかりは嬉しそうに声を上げ、景司は待ち合わせ場所を伝えて、後で迎えに行くと告げた。

電話を切った後、景司は振り返り、里香と目が合った。里香が羨ましげにこっちを見ていることに気づき、景司の声がまた自然に柔らかくなった。

「一緒に行く?ゆかりは君と同い年くらいだから、一緒に遊べるんじゃない?」

里香は首を振った。「いいえ、私はしっかり休んで、明日の法廷に備えなきゃ」

それに、ゆかりと知り合ってはいるけど、そんなに親しいわけでもないから、会うと気まずくなるかもしれない。

景司は無理に誘わず、「そうか、じゃあ車の運転には気をつけてね」と言った。

里香は頷き、景司に別れを告げた。

車に乗り込み、景司の後ろ姿を見送る里香の心には、不思議な感覚が残っていた。

さっき、景司がゆかりと電話しているのを見て、里香の心の中にちょっとした憧れが生まれた。

もし自分にも景司のように妹を大切にしてくれる兄がいたら、どんなに
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