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101回目のプロポーズ
101回目のプロポーズ
Auteur: 世界ぶっ飛び

第1話

Auteur: 世界ぶっ飛び
花束が床に叩きつけられ、渡辺颯太(わたなべ そうた)は、私には一瞥すらくれずに踵を返して出て行った。

私は藤堂亜衣(とうどう あい)。彼と付き合って、もう五年。プロポーズされた回数は、これでついに百回目だ。

周りはみんな、さすがに今度こそはゴールインだろうと思っていた。

日にちだって、私の誕生日に合わせてわざわざ選んだ。

友だちがそろって二時間も待っていたのに、彼が遅れてきた理由は、彼の幼なじみである葉山鈴(はやま すず)が映画を観たいと駄々をこねたから。

バンと、扉がまた乱暴に開け放たれ、溶けかけていた生クリームのケーキがドサッと床に崩れ落ちた。彼はそれを一顧だにせず、私の大好物のローストビーフだけを、全部持ち帰り用に包ませた。

さすがにその場の、私を気の毒がるような空気が気になったのか、彼は言い訳めいたことを口にする。

「ほら、あいつ最近ずっと情緒不安定だろ。どうせプロポーズなんて、もう何回目か分かんないくらいやってるし、今回くらい別にいいだろ?

先に鈴の機嫌を取ってくる。お前はここでみんなの相手してて。夜、様子見て戻れそうなら戻るから。誕生日プレゼントは、そのとき改めて渡す。

そうだ、このスペアリブ、まだ誰も箸つけてないよな?これも持ち帰るから、お前らもう一皿頼んで」

友だちの誰かが、私の代わりに怒ろうとしてくれた。でも私は逆に張り切って、彼を手伝い、ついでにほかに欲しいものがないかまで聞いてしまう。

彼が指で軽くテーブルを示すと、その一帯の料理はきれいにごっそり、持ち帰り用の袋に消えた。

「悪いな。鈴、潔癖だからさ、他人が箸つけたものの持ち帰りは無理なんだ」

彼は、忙しく立ち働く私の様子を見て、どこか満足げにうなずく。

「今日は珍しく、全然キレないんだな。その調子で、これからも頼むよ」

前の私なら、必ず颯太を問い詰めていた──私と鈴、どっちが大事なのかって。

そのたびに喧嘩になって、傷つくだけ傷ついて、最後は彼が腹いせに鈴の家へ泊まりに行くのがお決まりだった。

けれど、今日はもう、本気でどうでもよくなっていた。

颯太が大きな紙袋を両手に提げて店を出ていくと、友だちが怒りに任せてテーブルを叩いた。

「てっきり、あいつはテイクアウトなんか絶対しないタイプだと思ってたのに!」

彼は付き合いの飲み会も多くて、外での集まりにはしょっちゅう顔を出す。一方の私は、仕事で深夜まで残業なんてざらだ。

それでも彼はいつも「持ち帰りなんて、ダサい」と言って、私のためにわざわざ一皿注文してくるようなことは一度もなかった。

たった一度だけ、友人が「犬に食べさせる」と言っていたテイクアウトの残り物を、私に押しつけたことはある。あのとき颯太は、私が箸をつけるのを渋っただけで、ひどく怒鳴った。

「昔なんて、ろくなものも食べられなかったんだぞ。ちょっと残り物食べるくらいで何を気取ってんだ?」

今になって思えば、彼はただ、私のことで自分の顔をつぶしたくなかっただけだ。

私は友だちと食事を終えるまで笑顔で場をつなぎ、店を出た。空は雲ひとつない快晴なのに、胸の中だけが妙に冷え切っている。

スマホを開くと、ちょうど鈴がSNSを更新したところだった。

【プロポーズを放り出してまで、こんなにたくさんおいしいものを打ち上げしてくれた颯太にありがとうね。残念ながらお腹が限界で、ほとんどゴミ箱行きだけど】

その直後、颯太からのメッセージもポン、と通知に浮かぶ。

【テイクアウト、だいぶ余ったからな。明日のお前の昼飯な】

しばらく考え込んだ末に、私は通話ボタンを押した。

「隊長、私やっぱり部隊に戻りたいです」

部屋の中を片づけていたら、気づけばもう深夜になっていた。

颯太はまだ帰ってこない。でも、もういちいち驚くようなことでもない。

なのに、スマホだけは容赦なく鳴り響く。

「今すぐ、家にある登山用の装備一式を、鈴の家まで持ってこい」

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