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第2話

Author: オーツ
離婚届にサインしたばかりなのに、二人は待ちきれなかったかのように関係を深め、その様子までわざわざ私に聞かせてきた。

私はスマホを放り出し、胸の奥から込み上げる苦しさを必死に押し殺す。

そして棚を開け、この数年間、慶介から贈られたプレゼントや結婚指輪を取り出し、そのままゴミ箱へ捨てた。

翌朝、まだ夜も明けきらない頃。

慶介が帰ってきた。

首筋には無数のキスマークが残り、目の下には疲れの色が浮かんでいる。

眠っている私など気にも留めず、脱いだ服や靴下を床へ放り投げると、部屋の隅からスーツケースを引っ張り出し、私の頭をポンポンした。

「着替えを何日分かまとめてくれ。全部じゃなくていい。日奈子のところに数日泊まるだけだ。すぐ戻る。

離婚もただの形式だ。彼女を安心させたいだけなんだ。分かってるだろ?俺は日奈子を友達としてしか見ていない」

よくもそんなことが言えたものね。

私は鼻で笑い、寝返りを打って再び目を閉じた。

慶介は珍しく機嫌を損ねることもなく、ベッドに腰掛け、一人で荷造りを始める。

「最近ずっと忙しかったからな。帰ってきたら結婚記念日はちゃんと埋め合わせする。怒っているのは分かってる。でも約束する。これが最後だ。

これからはちゃんと償う。だから日奈子に嫌がらせだけはしないでくれ」

私は起き上がり、もう離婚は本気なのだと伝えようとした。

その瞬間、慶介のスマホが鳴る。

彼の表情は一瞬で柔らかくなった。

「慶介さん、どこに行ったの?目が覚めたらあなたがいなくて、本当に怖かったの。

早く戻ってきて……お願い。すごく不安なの」

日奈子の甘えた声を聞いた途端、慶介は素早く荷造りを終えた。

スーツケースを手に、そのまま足早に家を出て行く。

慌てていたせいで、スーツケースがベッドサイドの棚にぶつかり、飾ってあった写真立てが床へ落ちて砕け散った。

それは、私たちにとって唯一のツーショット写真だった。

結婚した当時、慶介は法律事務所に入ったばかりの新人で、生活には余裕などなかった。

当然、ウェディングフォトを撮るお金もない。

あの頃の彼は笑ってこう約束してくれた。

「稼げるようになったら、全国を回って、いろんな場所でウェディングフォトを撮ろう」

私はその言葉を信じていた。

でも、約束ほど当てにならないものはない。

結局私は、彼が最愛の人を苦労させたくないがために選んだ代わりの存在だったのだ。

午後、私は退職届を持って人事部へ向かった。

担当者は私と書類を見て、小さくため息をついてから口を開いた。

「柚月(ゆづき)さん……古賀先生がここまで来られたのは、ずっと陰で支えてきたあなたがいたからですよね。やっと生活も落ち着いてきたのに、本当に辞めるんですか?

古賀先生は、このことをご存じなんですか?」

「手続きを進めてください。本人には私から話しますから」

そう言って私はオフィスへ戻り、自分の荷物をまとめ始めた。

その時、ドアが開く。

「慶介さん、本当に私も事務所で働いていいの?柚月さんみたいに?私、ずっと憧れてたの」

ハイヒールを鳴らしながら、日奈子が入ってきた。

その後ろには慶介。

私が荷物をまとめている姿を見ると、彼は一瞬だけ複雑そうな表情を浮かべた。

「荷物を片付けたら席を移ってくれ。これからお前のデスクは外だ。事務所のみんなとも顔なじみだろう。日奈子は入ったばかりだから、環境に慣れる必要がある」

日奈子は申し訳なさそうに笑う。

「ごめんなさい、柚月さん。中にいるなんて気づかなくて。もし嫌なら私が外で仕事します。ただ、知らない人ばかりだと少し怖くて……」

そう言いながら、彼女は手に持っていたおにぎりを私の前に差し出した。

「柚月さん、これは慶介さんが今朝早起きして作ってくれた朝食です。私一人では食べきれませんので、よかったらどうぞ食べてください」

自慢したい気持ちが、その表情いっぱいに浮かんでいる。

私は一歩身を引く。

すると慶介が不満そうに私を睨んだ。

「日奈子に悪気はない。もう少し大人な対応はできないのか?離婚を言い出したのは俺だし、席を替えさせたのも俺だ。彼女には何の関係もない」

彼が庇えば、日奈子は申し訳なさそうに首を振る。

「柚月さん、慶介さんの言うことは気にしないでください。この人、本当に不器用なんです。

男に怒るより、おにぎりを食べた方が幸せになれますよ」

そう言って、彼女はリスのように頬いっぱいおにぎりを頬張った。

本当に、お似合いの二人だ。

私は退職届を手に部屋を出ようとする。

その瞬間、日奈子が書類へ目を向けたかと思うと、何の前触れもなく私に倒れ込んできた。

手に持っていたおにぎりが書類の上へ落ち、米が一瞬で紙に張り付いた。

私は慌てておにぎりを払い落とした。

そこには退職届だけではない。チーム全員が次の案件のために積み重ねてきた大切な資料も入っていた。

ところが日奈子は悲鳴を上げる。

「ごめんなさい、柚月さん!本当にわざとじゃないんです!でも……押さなくてもよかったじゃないですか……」

目尻に涙を浮かべる彼女を見た慶介は、私の手を勢いよく叩いた。

書類が床へ散らばる。

「柚月、お前には本当に失望した。ただの何枚かの紙くらいで人を押すなんて。今すぐ日奈子に謝れ。さもないと、本当に離婚することになるぞ」

彼はいつもそうだった。

離婚を盾にして、私を従わせる。

だが今回は違う。

私は最初から、本気で彼と離婚つもりだった。

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