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第4話

Author: ミントソーダ
私は動きを止め、無意識に息を殺した。

中から、ライターの音がカチッと響く。

瑞樹は起業の初期にタバコを覚えた。

だが、本当に思い悩んでいる時にしか火をつけない。

しばらくして、聞き慣れた声が聞こえてきた。

「俺にも……分からないんだ」

いつも冷静なその声は、どこか迷いを帯びていた。

「最初は結婚するつもりだった。起業した理由だって、成功して胸を張って瑠夏を妻に迎えたかったからだ。

でも……どういうわけか、今結婚と聞くと、俺の頭の中に……野村の姿が浮かぶんだ」

「はあ?」友人は信じられないといった声で叫んだ。

「大学の時、お前あいつのこと一番嫌ってたじゃないか。靴の裏のガムみたいにまとわりついてくるって言ってただろ。

会社を立ち上げた時、あいつを秘書にしたのには驚いたけど、まさか好きになってたなんてな。じゃあ、瑠夏ちゃんはどうするんだよ?」

瑞樹は長い沈黙の後、重い口を開いた。

「好きというのとは違う。俺が愛しているのは瑠夏だ。ただ……野村は長年ずっと俺の後を追ってきただろ。もし俺が瑠夏と結婚したら、あいつはひどく傷つく。それがなんだか……可哀想に思えてしまうだけなんだ」

……

自分がどうやって会社を後にしたのか、全く覚えていない。

気がつくと、魂が抜けたように大通りを歩いていた。

顔は涙で濡れていた。

瑞樹が結婚を渋る理由が、まさか澪だったなんて、思いもしなかった。

私と瑞樹は同じ大学の同じ学部だったが、選択した専攻コースが違っていた。

授業が始まった初日、彼から【同じ授業の女子に連絡先を聞かれたけど、断っても諦めずについてくる】とメッセージが来た。

その女子学生こそが、澪だった。

その後、瑞樹はあまりの煩わしさに、私を連れて一緒に授業に出るようになった。

それでも澪は諦めず、相変わらず瑞樹の後を追いかけ回していた。

しかし、私と瑞樹の幼馴染としての深い絆を澪が揺るがすことなど到底できず、毎回冷たく突き放されていた。

だからこそ、私は瑞樹の愛を一度も疑ったことがなかった。

瑞樹が起業した際、澪を秘書として雇った時でさえ、「専攻が同じだから、ちょうど適任だったのだろう」としか思わなかった。

なのに、私の知らない間に、澪は確実に彼の心の中に居場所を作り上げていたのだ。

彼は今、報われぬ恋を続ける澪を哀れみ、私との結婚をためらっている。

では、この先はどうなるのだろう?

澪の一途な想いに対する罪悪感から、いつか彼女にチャンスを与え、その想いに応えようとする日が来るのではないだろうか。

ならば、私たちの幼馴染としての想いは一体何だったのだろう。

スマホの通知音が、私を現実に引き戻した。

母からの音声メッセージだった。

「瑠夏、瑞樹くんと付き合って8年にもなるんだから、そろそろ結婚を考えてもいい頃よ。この前、岡本さんが聞いてきたのよ。『瑠夏ちゃんと瑞樹くん、別れたの?こんなに長く結婚しないなんて。もし別れたなら、うちの甥っ子を紹介したいんだけど』って。私……」

母の世話を焼くような言葉を聞きながら、私は涙を拭い、はっきりとした声で答えた。

「お母さん。私、瑞樹とはもう別れたわ。岡本さんに伝えて。その甥御さんに、お会いしてみたいって」

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