Masukマーガレットは悩んでいた。非常に。とても。ものすごく。悩んでいた。原因は。ルピナスとフジである。「どう思いますの?」マーガレットが聞く。ダリアは即答した。「好きですわね」「ですわよね?」「ですわね」二人の意見は一致していた。昼休み。学院のカフェテリア。マーガレットとダリアは向かい合って座っている。珍しい組み合わせだった。「でも」マーガレットが首を傾げる。「本人達が全く気付いていませんわ」「そこが問題ですの」ダリアは真顔だった。深刻な問題だった。「ルピナス様は?」「論外ですわ」即答だった。マーガレットも頷く。昨日。ルピナス。「フジは優しいわ」「格好良いわ」「頼りになるわ」「一緒にいると安心するわ」と言った。その後。「親友って素敵ね!」と締めた。二人は頭を抱えた。親友じゃない。どう考えても違う。「フジ様は?」マーガレットが聞く。ダリアは少し考えた。そして。「もっと重症ですわ」と言った。マーガレットは納得した。確かにそうだった。フジは。ルピナスを見ている。ずっと。気付くと見ている。体調を気にする。食事を気にする。帰宅時間を気にする。危ない時は助ける。好きな菓子を覚えている。どう見ても。好きだった。本人以外には分かる。本人だけが分からない。「大変ですわね」「大変ですわ」二人は紅茶を飲んだ。その時。ルピナスがやって来た。「何してるの?」「恋愛相談ですわ」マーガレットが答えた。ルピナスは興味津々になる。「誰の?」「貴女ですわ」「私?」「貴女ですわ」「へえ」ルピナスは椅子に座った。全く理解していない。ダリアは確信した。重症患者である。「ルピナス」「なに?」「フジ様のことをどう思いますの?」「良い人」「それだけ?」「優しい」「それだけ?」「料理が上手」「それだけ?」「面白い」「それだけ?」「親友」ダリアは机に突っ伏した。マーガレットも突っ伏した。終わった。話にならない。その時。「何の話だ」フジが現れた。最悪のタイミングだった。「恋愛相談ですわ」マーガレットが言う。フジは頷いた。「そうか」理解していない。ルピナスも理解していない。二人揃って理解していない。ダリアは空を見上
ダリアは賢い。成績優秀。観察力も高い。人を見る目もある。だからこそ。気付いてしまった。「……まさか」昼休み。中庭。ルピナスが笑っている。フジもいる。いつもの光景。だが。今日は少し違った。ルピナスが焼き菓子を食べている。昨日フジが渡したものだ。「美味しい!」「そうか」「すごく美味しい!」「それは良かった」「また作って!」「分かった」フジは即答した。ダリアは固まった。待ちなさい。今。何かおかしくなかった?「フジ様」「なんだ」「それ」「なんだ」「ご自分で作ったのですの?」「ああ」「……」ダリアは黙った。近衛騎士団の有望株。剣が強い。仕事もできる。顔も良い。そして。菓子まで作る。何なのこの男。すると。ルピナスが言った。「フジは優しいわ」「ああ」「料理もできるし」「ああ」「頼りになるし」「ああ」「良いお嫁さんになれるわ」「ああ」フジが頷いた。三秒後。ダリアが吹き出した。「待ちなさい!!」ルピナスが驚く。「なによ」「なによじゃありませんわ!」「なによ」「気付きなさい!」「何に?」ルピナスは本気だった。本当に分かっていない。ダリアは頭を抱えた。その時。マーガレットがやって来る。「どうしましたの」「聞いてくださいまし」「嫌な予感がしますわ」「私もですわ」マーガレットも察したらしい。ダリアは二人を指差した。ルピナス。フジ。そして。言った。「どう見ても仲が良いですわよね?」マーガレットが固まる。フジを見る。ルピナスを見る。フジを見る。ルピナスを見る。「……仲が良いですわね」「ですわよね!?」「ですわね」二人は意見が一致した。当の本人達だけが分かっていない。「?」「?」ルピナスとフジは首を傾げた。その光景に。ダリアは確信した。これは重症である。しかも。ルピナスの方が。「フジ」「なんだ」「ケーキ食べたい」「分かった」「今?」「ああ」「買いに行くの?」「ああ」「優しい!」「ああ」ダリアは机に突っ伏した。マーガレットも突っ伏した。終わっている。この二人。終わっている。その頃。校舎二階。ローゼンが見ていた。見てしまった。「フジ」「なんだ」「ケーキ食べたい」「分か
ローゼンは落ち込んでいた。 非常に。 とても。 ものすごく。 落ち込んでいた。 原因は昨日である。 「料理は向いていない」 フジの一言だった。 思い出すだけで胸が痛い。 「なぜだ……」 本日一回目。 側近はそっと温かいお茶を置いた。 もう何も言わない。 言っても無駄だと学習した。 翌日。 学院。 ルピナスは中庭へ向かっていた。 すると。 「ルピナス」 聞き慣れた声。 フジだった。 「おはよう」 「おはよう」 「朝食は食べたか」 「食べたわ」 「そうか」 フジは満足そうに頷いた。 ルピナスは少し笑った。 最近分かってきた。 この人は挨拶代わりに食事確認をする。 たぶん病気である。 「フジ」 「なんだ」 「それ癖なの?」 「何がだ」 「朝食確認」 フジは真剣に考えた。 数秒後。 「そうかもしれない」 自覚はあったらしい。 その頃。 校舎二階。 ローゼンが見ていた。 見てはいけないものを。 見てしまった。 「おはよう」 「おはよう」 「朝食は食べたか」 「食べたわ」 「そうか」 ローゼンは固まった。 自然だった。 あまりにも自然だった。 婚約者候補だった自分ですら。 そんな会話をしたことがない。 「なぜだ……」 本日二回目。 中庭。 ダリアもやって来た。 「ごきげんよう」 「ダリア!」 「朝から元気ですわね」 「もちろんよ!」 ルピナスは元気だった。 そして。 マーガレットも来た。 「ごきげんよう」 「マーガレット!」 「おはようございます」 最近少しだけ空気が柔らかい。 前世では考えられなかった光景だった。 すると。 フジが四人を見回した。 そして。 当然のように言った。 「昼食は食べたか」 ダリア 「まだ朝ですわ」 マーガレット 「気が早すぎます」 ルピナス 「さすがに笑うわ」 フジは少し考えた。 「そうか」 初めて負けた顔をした。 三人は吹き出した。 校舎二階。 ローゼンはさらに衝撃を受けていた。 笑っている。 ルピ
ローゼンは焦っていた。非常に。とても。ものすごく。焦っていた。原因は一つ。フジだった。「朝食は食べたか」「昼食は食べたか」「無理するな」「これを食べろ」全部。全部ルピナスに効いていた。ローゼンは頭を抱えた。「なぜだ……」本日一回目。側近がため息をつく。「殿下」「なんだ」「何を悩んでおられるのですか」「フジだ」「フジ様ですか」「フジだ」ローゼンは真剣だった。「ルピナスがフジを見る目が柔らかい」「そうですか」「俺には冷たい」「そうですね」「否定しろ」「事実です」ローゼンは傷ついた。その夜。王宮の厨房。料理長が固まっていた。第一王子がいる。しかも。エプロンを着けている。「殿下」「なんだ」「何をなさっているのでしょう」ローゼンは真剣な顔で答えた。「サンドイッチを作る」料理長は頭を抱えた。まただ。最近みんな頭を抱えている。ローゼンは本気だった。フジが作れるなら。自分も作れる。そう思った。三十分後。何かが完成した。料理長は見た。パン。焦げていた。卵。崩壊していた。レタス。なぜか床に落ちていた。「完成だ」ローゼンは誇らしげだった。料理長は泣きそうだった。翌日。学院。ルピナスは中庭にいた。ダリア。マーガレット。フジ。いつものメンバーである。そこへ。ローゼンが現れた。何かを抱えている。嫌な予感がした。特にダリアが。「ルピナス」「なに?」「受け取ってくれ」ローゼンは包みを差し出した。ルピナスは受け取った。開けた。沈黙。ダリアも見た。沈黙。マーガレットも見た。沈黙。フジも見た。沈黙。誰も感想を言えなかった。ローゼンが聞く。「どうだ」ルピナスは困った。とても困った。人生でトップクラスに困った。そして。正直に答えた。「これは……」「これは?」「芸術作品?」ローゼンが固まった。ダリアが吹き出した。マーガレットも耐えられなかった。フジだけは真顔だった。「ローゼン」「なんだ」「料理は向いていない」即死だった。ローゼンは膝をついた。ルピナスは慌てる。「でも!」「でも?」「気持ちは嬉しいわ!」ローゼンが顔を上げる。「本当か」「本当よ」「そうか」少し元気になった。ちょろかった
「ルピナス様」翌日。珍しくダリアの方から声をかけた。ルピナスは驚いた。「どうしたの?」「少しお時間を頂けます?」「もちろん!」ダリアは少し言いづらそうだった。珍しい。いつも堂々としている彼女が言葉を選んでいる。人気のない中庭。二人だけになったところで。ダリアが口を開く。「本当に大丈夫ですの?」ルピナスは首を傾げた。「何が?」「全部ですわ」意味が分からなかった。全部とは何だろう。ダリアはため息をついた。「殿下のことです」ああ。そっちか。ルピナスは納得した。「大丈夫よ」「本当に?」「本当に」「強がりではなく?」「違うわ」ルピナスは笑った。前世なら。強がりだったかもしれない。でも今は違う。「ダリア」「なんですの」「私ね」ルピナスは空を見上げた。青空だった。「昔は誰かに好かれることばかり考えていたの」ダリアは黙って聞く。「嫌われたくなくて」「認められたくて」「必要とされたくて」「ずっと頑張ってた」ルピナスは少し笑う。「でも疲れちゃったの」その言葉に。ダリアの胸が少し痛んだ。ルピナスはいつも笑っている。明るい。元気。能天気。でも。時々だけ。年齢以上に大人びた顔をする。それが少し気になっていた。「だから今は」ルピナスが言う。「自分を大事にしたいの」ダリアは言葉を失った。それは。当たり前のことのはずだった。でも。貴族社会では難しい。特に王妃候補ともなれば。なおさら。「そうですわね」ダリアは小さく頷いた。「それで良いと思いますわ」ルピナスが笑顔になる。「ありがとう!」「近いですわ!」顔が近かった。ダリアは思わず押し返した。その時。後ろから声がした。「何をしている」フジだった。ルピナスは元気よく答える。「友情を深めてるの!」「そうか」フジは頷いた。ダリアは思った。この人達。本当に会話しているのかしら。するとフジが言った。「ルピナス」「なに?」「昼食は食べたか」またそれだった。「まだよ」「そうか」フジは鞄から包みを取り出した。サンドイッチだった。「え?」「厨房に作らせた」「私に?」「ああ」ルピナスは固まった。ダリアも固まった。なぜ作った。なぜ持ってきた。なぜタイミングが完璧なんだ。
ローゼンは窓から中庭を見ていた。ルピナス。ダリア。フジ。そしてマーガレット。四人がお茶を飲んでいる。楽しそうだった。「なぜだ……」本日十四回目である。隣の側近が言った。「殿下」「なんだ」「授業を受けてください」「今忙しい」「何がですか」「観察だ」側近は遠くを見た。もう何も言うまい。ローゼンは真剣だった。ルピナスが笑っている。ダリアも笑っている。フジも少しだけ表情が柔らかい。マーガレットですら会話に混ざっている。なのに。自分だけいない。「なぜだ……」十五回目。その頃。中庭。ルピナスはご機嫌だった。お茶。ケーキ。友達候補。最高である。「マーガレット様」「なんですの」「その髪飾り素敵ね」マーガレットは少し驚いた。褒められるとは思わなかった。「ありがとうございます」「似合ってるわ」「……」マーガレットは少し困った。調子が狂う。前世のルピナスなら。きっと自分を警戒していた。だが今のルピナスは違う。変だった。すごく変だった。「ルピナス様」「なに?」「貴女は変ですわ」「よく言われるわ」ダリアが頷いた。フジも頷いた。ルピナスだけが納得していなかった。その時だった。ドン。誰かが机に手をついた。全員が振り向く。そこには。ローゼンがいた。「混ぜてくれ」沈黙。ダリアが紅茶を吹きそうになった。マーガレットが固まる。ルピナスは真顔だった。フジは無表情だった。数秒後。ルピナスが言った。「嫌です」即答だった。ローゼンが固まる。「なぜだ」「女子会だからよ」「フジがいる」「フジは別」「なぜだ」「フジだからよ」ローゼンは納得できなかった。フジも少し考えた。確かに。なぜ自分はいるのだろう。誰にも分からなかった。「殿下」ダリアが口を開く。「なんだ」「嫌がられておりますわ」「そうか」「そうです」「そうか」「そうです」ローゼンは静かに落ち込んだ。ルピナスは少しだけ良心が痛んだ。少しだけ。本当に少しだけ。「……ケーキ食べる?」ローゼンが顔を上げる。「いいのか」「一個だけよ」「ありがとう」ローゼンは少し嬉しそうだった。マーガレットは思った。第一王子。意外とちょろい。そしてダリアも思った。この王子。思って







