Share

第7話 王子、尾行する

Author: 天咲琴乃
last update publish date: 2026-06-02 17:00:45

ローゼン王子は決意した。

調査が必要だ。

なぜルピナスが自分を振ったのか。

なぜ避けるのか。

なぜ「結構です!!」なのか。

その謎を解かなければならない。

王族として。

未来の国王として。

そして何より。

一人の男として。

「殿下」

側近が声をかける。

「なんだ」

「現在何をなさっているのでしょう」

ローゼンは真剣な顔で答えた。

「尾行だ」

側近は頭を抱えた。

学院の放課後。

ルピナスは上機嫌だった。

隣にはダリア。

今日も美人である。

「ダリアー!」

「なんですの」

「ケーキ!」

「知っていますわ」

「楽しみね!」

「貴女は犬ですの?」

ルピナスは笑った。

前世ではほとんど話せなかった。

だが今世は違う。

ダリアは面白い。

反応が良い。

からかい甲斐がある。

最高だった。

「友達になりましょう」

「まだ諦めていませんの!?」

「諦めないわ」

「怖いですわ!」

ダリアが本気で後ずさる。

ルピナスは満面の笑みだった。

その二十メートル後方。

物陰。に、彼はいた。

息を潜めて。それはいた。

ローゼンがいた。

「楽しそうだな」

「帰りましょう殿下」

「嫌だ」

「帰りましょう」

「嫌だ」

「帰りましょう」

「嫌だ」

側近は泣きたくなった。

その時。

ルピナスが突然振り返った。

「ん?」

ローゼンは慌てて柱の後ろへ隠れる。

ダリアが首を傾げた。

「どうしましたの」

「誰かに見られている気がする」

「気のせいですわ」

ダリアは即答した。

王子が尾行しているなど想像もしていない。

当然である。

普通はない。

二人は王都で人気のカフェへ入った。

ローゼンも入ろうとする。

しかし。

「殿下」

「なんだ」

「変装してください」

「なぜだ」

「王子だからです」

「そうだったな」

今気付いたのか。

側近は遠い目をした。

数分後。

ローゼンは帽子と眼鏡を装備した。

全然隠れていなかった。

むしろ目立っていた。

「完璧だ」

「完璧ではありません」

「そうか」

「そうです」

「そうか」

「そうです」

側近は疲れていた。

店内。

ルピナスはケーキを見て目を輝かせていた。

「素晴らしいわ」

「まだ食べていませんわよ」

「見れば分かるわ」

「分かりませんわ」

ダリアは紅茶を飲む。

ルピナスはケーキを頬張る。

幸せだった。

人生最高。

処刑もされていない。

ローゼンも近くにいない。

平和だ。

「そういえば」

ダリアが口を開く。

「本当に殿下が嫌いですの?」

ルピナスは考えた。

嫌い。

というより。

危険。

である。

「好きではないわね」

「即答ですの!?」

「即答よ」

ダリアは吹き出した。

その時。

隣の席から。

ガタン!!

大きな音がした。

二人が振り向く。

帽子の男が椅子から落ちていた。

ローゼン

「……」

ダリア

「……」

ルピナス

「……」

沈黙を破るのはローゼンだった。

ダリアが呆れた声を出す。

「殿下」

ローゼンは立ち上がった。

「偶然だ」

「偶然ですの?」

「偶然だ」

「本当に?」

「本当だ」

嘘だった。

誰がどう見ても嘘だった。

その時だった。

店の入口が開く。

黒髪の男が現れる。

フジだった。

彼は店内を見渡し。

ルピナス。

ダリア。

ローゼン。

を見つける。

そして。

一言。

「何をしている」

誰も答えられなかった。

ただ一人。

ルピナスだけが元気よく手を挙げる。

「お茶会!」

フジは静かに頷いた。

「そうか」

違う。

絶対に違う。

(第8話 ダリア、お茶会に連行される)

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第10話 王子話に混ざりたい

    ローゼンは窓から中庭を見ていた。ルピナス。ダリア。フジ。そしてマーガレット。四人がお茶を飲んでいる。楽しそうだった。「なぜだ……」本日十四回目である。隣の側近が言った。「殿下」「なんだ」「授業を受けてください」「今忙しい」「何がですか」「観察だ」側近は遠くを見た。もう何も言うまい。ローゼンは真剣だった。ルピナスが笑っている。ダリアも笑っている。フジも少しだけ表情が柔らかい。マーガレットですら会話に混ざっている。なのに。自分だけいない。「なぜだ……」十五回目。その頃。中庭。ルピナスはご機嫌だった。お茶。ケーキ。友達候補。最高である。「マーガレット様」「なんですの」「その髪飾り素敵ね」マーガレットは少し驚いた。褒められるとは思わなかった。「ありがとうございます」「似合ってるわ」「……」マーガレットは少し困った。調子が狂う。前世のルピナスなら。きっと自分を警戒していた。だが今のルピナスは違う。変だった。すごく変だった。「ルピナス様」「なに?」「貴女は変ですわ」「よく言われるわ」ダリアが頷いた。フジも頷いた。ルピナスだけが納得していなかった。その時だった。ドン。誰かが机に手をついた。全員が振り向く。そこには。ローゼンがいた。「混ぜてくれ」沈黙。ダリアが紅茶を吹きそうになった。マーガレットが固まる。ルピナスは真顔だった。フジは無表情だった。数秒後。ルピナスが言った。「嫌です」即答だった。ローゼンが固まる。「なぜだ」「女子会だからよ」「フジがいる」「フジは別」「なぜだ」「フジだからよ」ローゼンは納得できなかった。フジも少し考えた。確かに。なぜ自分はいるのだろう。誰にも分からなかった。「殿下」ダリアが口を開く。「なんだ」「嫌がられておりますわ」「そうか」「そうです」「そうか」「そうです」ローゼンは静かに落ち込んだ。ルピナスは少しだけ良心が痛んだ。少しだけ。本当に少しだけ。「……ケーキ食べる?」ローゼンが顔を上げる。「いいのか」「一個だけよ」「ありがとう」ローゼンは少し嬉しそうだった。マーガレットは思った。第一王子。意外とちょろい。そしてダリアも思った。この王子。思って

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第9話 マーガレット、苛立つ

    マーガレットは不機嫌だった。非常に。とても。ものすごく。不機嫌だった。「ありえませんわ」紅茶を置く音が少し大きくなる。侍女が肩を震わせた。今日は近付かない方が良い。長年仕えてきた経験がそう告げていた。マーガレットは思い出していた。学院の廊下。中庭。食堂。どこへ行っても。ルピナスとダリアがいる。楽しそうに話している。笑っている。そして。その近くには。フジがいる。「なぜですの……」マーガレットは納得できなかった。前世の記憶など知らない。だから彼女から見れば。ルピナスは婚約者候補を振った変な女だ。普通なら孤立する。噂になる。居場所を失う。そうなるはずだった。なのに。なぜか楽しそうにしている。「意味が分かりませんわ」マーガレットは机を叩いた。侍女がびくりとする。本当に意味が分からない。翌日。学院。マーガレットは偶然を装って中庭へ向かった。もちろん偶然ではない。調査である。すると。いた。ルピナス。ダリア。そしてフジ。三人ともいた。ルピナスが楽しそうに喋っている。「それでね!」「それでね!」「それでね!」ダリアがため息をつく。「話が長いですわ」「大事なことよ」「五分前からそう言っています」「まだ序章よ」「本編に入ってくださいまし」フジは黙って聞いていた。たまに頷いている。マーガレットは信じられなかった。フジ。近衛騎士団の有望株。女性に興味がないと有名な男。そのフジが。ルピナスの話を真面目に聞いている。「面白くありませんわ」ぽつりと漏れた。その時。マーガレットの足元で。パキッ。小枝が折れた。静寂。ルピナスが振り向く。「ん?」ダリアが振り向く。「誰ですの?」フジが振り向く。そして。マーガレットを見つけた。数秒後。マーガレットは三人の前に立っていた。逃げられなかった。特にフジの視線が鋭かった。「マーガレット様」ルピナスが微笑む。マーガレットも笑顔を作る。社交界用の笑顔だ。完璧だった。「ごきげんよう」「ごきげんよう」「何をしていらっしゃるの?」「お話よ」「そうですの」「そうよ」会話が終わった。マーガレットは困った。もっと気まずくなると思ったのに。ルピナスが普通すぎる。すると。ルピナスが言っ

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第8話 ダリア、お茶会連行

    フジの登場によって。カフェの空気は妙なものになっていた。ルピナス。ダリア。ローゼン。フジ。誰も状況を説明できない。いや。説明したくない。特にローゼンは。「何をしている」再びフジが聞く。ローゼンは咳払いした。「偶然だ」「そうか」フジは頷いた。信じた。ダリアは驚いた。信じるの!?ルピナスも驚いた。信じるの!?だがフジは真顔だった。本気で信じたらしい。「それより」ルピナスが立ち上がる。「フジも座りなさい」「いや」「座りなさい」「いや」「座りなさい」「……分かった」フジが折れた。ダリアは思った。この人、意外と押しに弱い。数分後。テーブルの上にはケーキが並んでいた。ルピナスは幸せそうだった。「素晴らしいわ」「さっきも聞きましたわ」ダリアが呆れる。だが自分もモンブランを食べている。説得力はない。「ダリア」「なんですの」「友達になりましょう」「まだ言いますの!?」ルピナスは頷く。本気だった。前世で話せなかったのが惜しいと思うくらいには。本気だった。ダリアはため息をつく。「なぜ私なんですの」ルピナスは即答した。「面白いから」「最低ですわ!」「褒めてるのよ」「褒められていませんわ!」ローゼンが少し笑った。ダリアが睨む。「殿下」「なんだ」「笑いましたわね」「少し」「少しじゃありませんわ」今日は全員がおかしかった。その時。店員が新しいケーキを運んできた。期間限定。苺たっぷりの特製ショートケーキ。ルピナスの目が輝く。ダリアの目も輝く。二人は同時にケーキを見る。そして。同時に手を伸ばした。「あ」「あ」沈黙。ルピナスはケーキを見た。ダリアを見た。ケーキを見た。ダリアを見た。悩んだ。すごく悩んだ。そして。「半分こにしましょう」ダリアは固まった。「……は?」「半分こ」「子供ですの?」「ケーキは分け合うと美味しいわ」意味が分からなかった。だが。少しだけ。ほんの少しだけ。嬉しかった。「ダリア」ルピナスが笑う。「今度はもっと美味しい店へ行きましょう」「……」「友達として」「……」「ダリア?」ダリアは顔を背けた。耳だけ赤かった。「勝手になさい」ルピナスは満面の笑みになる。「ありがとう!」「承諾

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第7話 王子、尾行する

    ローゼン王子は決意した。調査が必要だ。なぜルピナスが自分を振ったのか。なぜ避けるのか。なぜ「結構です!!」なのか。その謎を解かなければならない。王族として。未来の国王として。そして何より。一人の男として。「殿下」側近が声をかける。「なんだ」「現在何をなさっているのでしょう」ローゼンは真剣な顔で答えた。「尾行だ」側近は頭を抱えた。学院の放課後。ルピナスは上機嫌だった。隣にはダリア。今日も美人である。「ダリアー!」「なんですの」「ケーキ!」「知っていますわ」「楽しみね!」「貴女は犬ですの?」ルピナスは笑った。前世ではほとんど話せなかった。だが今世は違う。ダリアは面白い。反応が良い。からかい甲斐がある。最高だった。「友達になりましょう」「まだ諦めていませんの!?」「諦めないわ」「怖いですわ!」ダリアが本気で後ずさる。ルピナスは満面の笑みだった。その二十メートル後方。物陰。に、彼はいた。息を潜めて。それはいた。ローゼンがいた。「楽しそうだな」「帰りましょう殿下」「嫌だ」「帰りましょう」「嫌だ」「帰りましょう」「嫌だ」側近は泣きたくなった。その時。ルピナスが突然振り返った。「ん?」ローゼンは慌てて柱の後ろへ隠れる。ダリアが首を傾げた。「どうしましたの」「誰かに見られている気がする」「気のせいですわ」ダリアは即答した。王子が尾行しているなど想像もしていない。当然である。普通はない。二人は王都で人気のカフェへ入った。ローゼンも入ろうとする。しかし。「殿下」「なんだ」「変装してください」「なぜだ」「王子だからです」「そうだったな」今気付いたのか。側近は遠い目をした。数分後。ローゼンは帽子と眼鏡を装備した。全然隠れていなかった。むしろ目立っていた。「完璧だ」「完璧ではありません」「そうか」「そうです」「そうか」「そうです」側近は疲れていた。店内。ルピナスはケーキを見て目を輝かせていた。「素晴らしいわ」「まだ食べていませんわよ」「見れば分かるわ」「分かりませんわ」ダリアは紅茶を飲む。ルピナスはケーキを頬張る。幸せだった。人生最高。処刑もされていない。ローゼンも近くにいない。平和だ。「そうい

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第6話 フジという男

    帰りの馬車の中。ルピナスは向かい側に座るフジを見つめていた。フジは窓の外を見ている。無言。ひたすら無言。静かだった。あまりにも静かだった。ルピナスは耐えられなくなった。「フジ」「なんだ」返事は早い。「趣味は?」「剣術」「それ仕事では?」「そうだな」会話終了。ルピナスは困った。ダリアがいたら笑っていただろう。「好きな食べ物は?」「米」「子供?」「違う」会話終了。ルピナスは天井を見上げた。何この人。難しい。しばらくして。フジが口を開いた。「お前」「なに?」「なぜ王子を振った」ルピナスは固まった。核心だった。聞かれると思っていた。だが答えられない。『未来で処刑されるからです』とは言えない。「なんとなく」「そうか」フジは納得した。早い。「聞き返さないの?」「聞いてほしいのか?」「聞いてほしくない」「なら聞かない」ルピナスは少し笑った。変な人。屋敷へ着く。馬車から降りる時だった。ルピナスの足が少しもつれた。「あっ」倒れそうになる。その瞬間。ぐいっと腕を掴まれた。気づけばフジが支えていた。「大丈夫か」「え、ええ」「まだ本調子じゃないな」ルピナスは驚いた。風邪が治ったばかりなのは事実だ。でも誰にも言っていない。フジは平然としている。「無理するな」「……はい」なぜか素直に返事をしてしまった。その頃。王宮。ローゼンは執務机に突っ伏していた。「なぜだ……」またである。側近達はもう慣れていた。「殿下」「なんだ」「本日二十七回目です」「何がだ」「なぜだ、です」ローゼンは黙った。数えていたのか。怖い。「本当に意味が分からない」「何がでしょう」「ルピナスだ」側近達は全員ため息をついた。また始まった。「俺は何かしたか?」「していないのでは?」「そうだろう?」「はい」「なのになぜだ」誰も答えられなかった。翌日。学院。ルピナスは元気に登校していた。未来が変わり始めている。それだけで楽しい。そこへ。「ルピナス様」マーガレットが現れた。金色の髪を揺らしながら微笑んでいる。前世の処刑台を思い出し、ルピナスの笑顔が引きつった。マーガレットは気づかない。「殿下を困らせているそうですわね」来た。ルピナスは思

  • CARDINAL(カーディナル) ― 裏切られた前世を返上し、今生は私が主役 ―   第5話 友達になりましょう

    ダリアは頭を抱えていた。目の前には満面の笑みを浮かべたルピナス。意味が分からない。本当に意味が分からない。「友達になりましょう」「断りますわ!」即答だった。教室中が頷いた。当然である。普通ならここで終わる。だが。ルピナスは普通ではなかった。「そう」「そうですわ」「じゃあ明日また聞くわ」「聞かなくて結構です!!」ダリアは思わず叫んだ。ルピナスは感心したように頷く。「良い声ね」「何を言ってますの!?」「将来有望だわ」「何がですの!?」ダリアは混乱していた。授業終了後。ルピナスは帰宅準備をしていた。そこへ。ローゼンが現れる。「ルピナス」「結構です」「まだ何も言っていない」「予防です」「何の」「未来の」ローゼンは意味が分からなかった。最近ずっと意味が分からない。「少し話を」「結構です」「聞いてくれ」「結構です」「頼む」「結構です」「なぜだ」「なぜだじゃありません」ルピナスは立ち上がった。ついに来た。前世では言えなかったことを言う時が。「王子」「なんだ」「女性に断られたら引きなさい」教室が静まり返る。ローゼンも固まる。「……え?」「しつこい男性は嫌われます」「しつこくない」「今しつこいです」「そんな」「今です」ローゼンは傷ついた顔をした。少し可哀想だった。少しだけ。本当に少しだけ。そこへ。「殿下」またしてもダリアが現れた。救世主である。「もう帰りますわよ」「ダリア」「授業は終わりました」「そうだな」「帰りましょう」ローゼンは諦めたように去っていく。ルピナスは感動した。「ありがとう」「何がですの」「助かったわ」ダリアはため息をついた。「別に貴女を助けたわけではありません」「優しいのね」「違います」「優しいわ」「違います!」ルピナスは微笑んだ。前世の記憶が蘇る。ダリアはいつも一人だった。高飛車で。誤解されやすくて。口が悪い。でも。困っている人を見ると放っておけない。そんな人だった。「ダリア」「なんですの」「一緒にお茶しない?」「しません」「ケーキ付き」「……」ダリアの眉が動いた。ルピナスは見逃さなかった。「苺のショートケーキ」「……」「モンブランもあるわ」「……」「プリンも」

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status