Masuk保健室に運ばれて2時間ほどすると、夕也が給食を運びに来てくれた。
「あさひ、給食持ってきたよ。」 「…あ、ありがとう。」 「まだ気持ち悪い?」 「ううん、もう大丈夫。」 「そっか。…ごめんな。」 「え?」 夕也の突然の謝罪に、私は疑問を抱いた。 「なんで謝るんだよ?」 「俺が早く見つけてれば、こんな事にならなかったのに。」 「そんな、夕也のせいじゃないよ。あんなところに隠れてた私が悪いんだ。」 「でも、ちゃんと探さなかったのは俺だ。本当に、ごめん。」 「も、もういいから。謝るなよ。ってか、夕也のご飯冷めちゃうから早く教室に戻ったら?」 「え?あ、うん。そうする。じゃな。」 「またあとで。」 夕也は教室へと戻って行った。 なんだか、寂しい気分になった。 給食を食べ終え、体調もだいぶ良くなったので、5時間目からの授業を受けることにした。 「風間?もう大丈夫なのか?」 「はい、もう大丈夫です。」 「もうあんなところに隠れるんじゃないぞ。桐山が場所を当ててくれなかったら、もっと大変なことになっていたかもしれない。」 「え…夕也が?」 「風間が帰ってこなくて先生たちで探そうとした時に、『もしかしたら体育館にいるかもしれない』って、一緒に体育館に行って探したんだ。…良かったよ。風間を見つけられて。後でちゃんと桐山にお礼を言いなさい。」 「はい…先生も、ありがとうございました。あと、ごめんなさい。」 「風間が無事ならそれでいい。もうあんなことはするな。先生もみんなも、風間の家族も心配する。」 「はい。本当に、すいませんでした。」 放課後、待っている夕也の元へ走っていった。(帰る方向が一緒だったため) 「夕也ー!」 「おう、あさひ。」 「夕也、あのさ…」 「…ん?」 「先生から聞いたんだ。見つけてくれてありがとう。」 「ん?ああ、どういたしまして?」 「でも…なんであそこにいるって分かったんだ?」 「勘。あさひだったら誰も行かなそうなところに隠れるだろうなって。」 「へぇ…わっ!」 何も無いところで躓いてしまった。 やばい…転ぶ…! そう思い、目をきゅっと瞑った時… 「っと、危なっ。大丈夫?」 夕也が左腕で咄嗟に私を抱きとめ、私が転ぶのを防いだのだ。 「だ、大丈夫。ありがとう…」 「あさひって、たまにおっちょこちょいだよな。」 「な、そ、そんな事ねぇし!」 「あははっ!」 笑いながら歩く夕也の後ろで、私は密かに心の高鳴りを感じていた。 なんだろう、これ… 翌朝、私はいつもの集合場所で友達を待っていた。 「あーさひっ!おはよ!ごめんね、遅くなっちゃった。」 「おはよう、愛華!全然大丈夫!行こっ。」 東雲愛華。 クラスが一緒で、私の隣の家に住んでることもあって、毎朝一緒に登校している。 夕也といとこ同士の関係でもある。 愛華のお母さんがやってるダンス教室に通っていて、帰りはそのままダンススタジオに行くことがあるから、毎日は一緒に帰ることがない。 「?あさひ、何かあった?なんだかいつもと違う。」 「えっ?何も、ないけど…」 「あっ、さては…好きな人できたでしょ。」 「へっ?ないないない!」 「いや、あるね。正直に言った方がいいよ?大丈夫、私、体は柔らかいけど、口は堅いから。」 「ぷっ、あははっ、なんだそれ!」 「はいはい、早く言って?誰を好きになったの?」 「本当にいないってば。」 「何の話?」 突然後ろから出てくる桐山夕也。 「うわああああっ!」 「なんでびっくりすんだよ…」 「あ、夕也おはよっ!いまね…」 「わぁぁぁっ、あ、愛華、が、学校に遅れちゃうから、は、早く行こう!」 「え、あ、ちょっ…」 「あっ、おい待て!」 夕也から逃げながら(?)学校へと走り出した。帰宅してから、ずっともやもやした気持ちでいた。理沙から聞かされた、夕也の怪我の話。スポーツをしている人の大怪我なんてよくあることだ。だが、疑問に感じる。私の知る限り、夕也はとても足が速く、加えて他の選手とぶつからないよう、いつも上手く交わしていたのだ。夕也がそんなヘマをするだろうか。「さっきから険しい顔してるけど、どうしたの?」「え?あうっ。」眉間を指で押された。知らない間に眉間に皺を寄せていたようだ。何事も無かったように振る舞う。「なんでもない。」「なんでもなくないだろ。」「ほ、本当になんでもないってば。」「言わないつもり?じゃあ正直に言うまでこちょこちょの刑かな。」「はっ!?ちょっ、やだ!!!」突然、私の兄みたいなことを言う。必死に逃げ回ったが、俊足の夕也に勝てるはずもなく、あっさりと捕まってしまった。「はあ…もう…」「それで?言うの?言わないの?」ここまで来たら何がなんでも逃がしてくれないだろう。一つ一つ言葉を選びながら話し始めた。「理沙から聞いたの。夕也が高校の時エースだった事。…怪我した事も。」「…なんだ、そういう事。てっきり他に好きな野郎ができたのかと。」「っ、そんなわけ!…そんなわけあるわけないじゃん…」「ハハハ、ごめんごめん。」「…答えたくないならいいけど、本当にその怪我は部活中の事故だったの?…本当は、怪我させられたんじゃない?」「…どうしてそう思うんだ?」「自分のためにも、相手のためにも絶対に怪我するような動きはしなかったから。」そう言うと、夕也はふっと笑った。「俺の事は何でも分かってるんだな。」一緒にソファでくつろぎながら、ベランダの窓から覗く夜空を見つめる夕也。「…大事な大会の前は、部活が終わった後も1人でしばらく練習するようにしてたんだ。イメトレも兼ねてな。全国大会の前もそうだった。事前に強豪校のプレーを見て、そいつらの動きをよく学んで、どう動けばシュートできるか予測してた。そのおかげで関東大会で優勝することができたんだ。だけど…」夕也の声は、悲しそうだった。「全国大会まであと1週間切ったくらいの時に、プレーができなくなっちまった。同じチームのやつとプレーの事で言い合いになっちまったんだけど、言い合いになったそいつに足引っ掛けられてそのまま転んで…足首を思いっきり踏みつけ
ニヤけた顔で見つめられ、少し困惑していた。「ラブラブだねぇ~。」「そう、なのかな…?」恋する乙女の顔しちゃって~、なんて言いながらティーを飲む理沙を見ていると、今日の目的を思い出した。「そういえば、私に大事な話があるって言ってたけど、何の事なの?」何となく察しはついているが、一応聞いてみる。笑顔のまま、真面目な雰囲気で話し始める理沙。「私ね、今度結婚するんだ。先月、涼介くんにプロポーズされてね。その報告。ふふっ。」涼介というのは私と理沙の同級生で、同じバンドのメンバーだった。理沙とは高校三年生から付き合っている。去年、理沙がしばらく関西へ転勤することになり、1度破局していた時期もあったが、結局互いを忘れられず復縁をした。「へえ、やっとプロポーズしたんだ、佐久間。おめでとう。」「ふふっ、ありがとう。それでね、まだいつか分かんないけど、あさひを結婚式に招待したいんだ。」「行くに決まってるじゃん。」「わあっ!やったー!ありがとう、あさひ。」そう言って私の手を握ると、理沙は声のトーンをほんの少し下げて話しだす。「…私ね、あさひにすごく感謝してるんだ。あさひが背中を押してくれなかったら、涼介くんと別れたままだった。」「ちょっ、そんな大したことしてないよ、私。」「ううん。本当に、すごく感謝してるの。『伝えたい気持ちをちゃんと伝えなきゃダメ。』ってあさひが言ってくれたから、今の私達がいるんだもの。あさひってすごいんだからね?」「あはは、すごくはないけど…でも…うん。理沙にはどうしても、佐久間にちゃんと気持ちをありのまま伝えてほしかったんだ。後悔して欲しくなかった。自分の気持ちを伝えなかった事で、すごく辛い思いをしたことがあるから。理沙には同じことをしてほしくなかった。」そう言って一瞬だけ夕也をちらりと見る。どうやら夕也も、私と同じ事を考えているようだった。「それって…もしかして、例の初恋の人?桐山くんに聞かれちゃってるけど大丈夫?妬いちゃうんじゃ…」理沙には夕也の事は話していたが、名前までは教えていなかった。「大丈夫、その初恋の人、夕也だから。」再び目を見開く理沙。「えっ!?嘘!?回り回って初恋の人と付き合ったって事!?」「そういう事。」「なんかすごい、恋愛ものの漫画を読んでる気分だわ…」「あははっ。…夕也とまた会えて、
運ばれてきたケーキを食べていると、理沙が何かを思い出したように話し始めた。 「そういえばさ、葉桜高校のエースだった人って知ってる?」 葉桜高校は、夕也の母校だ。 「葉桜高校のエース?」 「サッカー部のエースなんだけど。」 私はその辺の話には詳しくない。 夕也なら知っているだろう。 「ごめん、知らないや…」 「あ、そっかぁ…だよね、あんまりこういう話しないもんね。でね!」 「?」 「そのエース、彼女作らないで有名だったんだけど、葉桜に行ってた友達から聞いたんだけどね。…そのエース、ついに彼女できたんだって。」 「へえ…」 「他校からも告白されるくらいイケメンだったんだけど、どんな人が告白しても、全員振られちゃったんだって。」 どんなモテ男だったんだろう。 興味があると言ったら、多分夕也が嫉妬に狂うだろうから、言わないでおこう。 「ふぅん、そんな人が本当にいるのかな?」 「いるんだって!実際私もその人見たことあるんだから!超カッコよかったよ!あさひも見たら絶対好きになってたって!」 「へぇ…よく分からないや…」 理沙は楽しそうに話しているが、私の頭の中は疑問符しか浮かんでこなかった。 「もう!もうちょっと興味持ってよ!」 「あはは、ごめんごめん。」 「あのエースを落とすなんて、相当な美人じゃないと難しいよねぇ…あ、そういえば。そのエース、あさひと同じ地元だったはず!」 「え?そうなの?」 「確かね…桐山…なんとかって人。」 同じ地元で、葉桜高校のサッカー部だった人。 1人しか思い浮かばない。 「もしかして…桐山夕也?」 「あ、そうそう!桐山夕也くん!知り合いだったりする?」 「そのサッカー部に同姓同名の別人がいなかったとしたら、それ、私の彼氏だ…」 理沙が目を大きく見開く。 「ええええええっ!?あさひだったの!?」 スマホを取りだしてフォトギャラリーを開く。 「理沙が言ってるのってこの人?」 夕也の写真を見せると、理沙が大きく頷いた。 「そう、その人!えー!あさひがその彼女だったんだ!納得だわ~…」 「そんなに有名だったんだ、夕也。」 「そりゃもう!背が高くてイケメンだし、シュートもパスも上手いし、試合見に行けば女子の歓声が凄か
駅ホームのベンチで、日向ちゃんと話を盛り上げていた。 「そっかぁ、本当だったんだね、あーちゃんがお兄ちゃんと付き合ったの。あいつの妄想かと思ってた。」 「あははっ、妄想って。」 「でもよかった、あーちゃんで。あいつの元カノ、なんか嫌な感じだったもん。」 「そっ、そっか…」 「雰囲気変わったよね、あーちゃん。女の子らしさが増したっていうか。恋の効果かな?」 「んー、それもあるかもしれないね。」 楽しく話していると、後ろから声が聞こえた。 「日向!」 「あっ、圭人くん!」 日向ちゃんと同じくらいの歳の子だ。 この男の子が日向ちゃんの彼氏なのだろう。 「大丈夫!?じゃ、ないよな…痛いことされなかった!?」 「うん。大丈夫。あーちゃんが助けてくれたから。」 「あーちゃんって?」 圭人くんが私の方に視線を移す。 「あ、もしかして、日向を助けてくれたのって…」 「初めまして、風間あさひです。」 「お兄ちゃんの彼女なんだ。たまたま同じ電車に乗ってて、助けてくれたの。痴漢されてる時すごく怖くて最初はあーちゃんだって気づけなかったんだけど…」 「仕方ないよ。あんなことされたら私でも怖い。」 すると、圭人くんが頭を下げた。 「えっ、あの…圭人、さん?」 「日向のこと、助けてくれてありがとうございます。一生この恩は忘れません。」 「ちょっ、頭上げて。そんな大したことしてないよ。」 ぶんぶんと両手を振って頭を上げてもらおうとした。 「大したことだよ。本当に怖かったんだから。あーちゃんが気付いてくれなかったら、もっと酷いことされてたかも。」 まだ震えている日向ちゃんの頭を撫でて、ベンチから立ち上がる。 「日向ちゃんが怪我しなくてよかった。圭人さんも来たことだし、私はそろそろ行くね。圭人さん、今日一日日向ちゃんの手を握ってあげれる?そしたら日向ちゃんも安心すると思うから。」 「…!はい、教えてくれてありがとうございます。今日は本当にありがとうございました!気をつけて行ってください!」 こくりと頷き、友人との待ち合わせ場所に向かう。 到着して10分ほど待つと、友人がやってきた。 「あさひーっ!」 「あ、理沙!」 岡崎理沙。 高校の同級生で、今でもこうしてたまに会うことがある。 「久しぶりだねー!トラブル、大丈夫だったの?何が
今日は高校の友達と会う約束をしており、地元より少し離れた所でお茶をすることになった。 まだ待ち合わせまで2時間ほどあったが、早めに行って少しウィンドウショッピングをする事にした。 電車に乗り込むと、高校生や家族連れで人がいっぱいになっていた。 空いている席は無さそうだ。 扉寄りにあるつり革を掴んで電車に揺られていると、斜め前にいる少女の顔が目に入った。 具合が悪いのだろうか、俯いて真っ青な顔をして震えているように見える。 大丈夫かな、とか思っていると、その少女が顔を上げて、私と目が合った。 小さくだが、口を開けて何かを言おうとしている。 「あ」「う」「え」という口の形は分かった。 声が出せないほど具合が悪くなっているのだろうか。 …いや、違う。 もしかして、「助けて」と言っている? まさか… 視線を下げると、その子の太もも辺りの位置に男の人の手があり、太ももを触っているのが見えた。 痴漢だ。 その男の手から腕、腕から頭を辿り、顔を見る。 ふくよかな男だ。 位置的にもこの男が痴漢をしている犯人で間違いなさそうだ。 「まもなく、𓏸𓏸駅、𓏸𓏸駅でございます。」 駅に着くと、その男の手が少女から離れ、電車を降りようとしているのが見えた。 犯人にバレないように、スマホで「この駅で降りて、すぐ近くのベンチで待ってて。」と文字を打って少女に見せた。 小さく頷いたのを確認して、扉が開いた瞬間に男の腕を掴んで言った。 「すみませんけど、お時間をいただけますか。」 痴漢をしたのがバレたとわかったその男は、私の手を振りほどいて走り出した。 が、すぐに追いつき、再び腕を掴んで背負い投げをした。 自衛隊員の兄から護身術を教わっててよかった。 まさかこんなところで役に立つとは。 すぐ近くにいた駅員を呼び、 「すみません、警察を呼んでください!」 と、大きな声で叫んだ。 暴れる男を私に変わって近くにいた男性が四方固めで押さえてくれたおかげで、警察が来るまで犯人を逃がすことなくその場にはとどまらせることが出来た。 すぐに少女の元へ行き、声をかける。 「大丈夫…じゃ、ないよね。もう警察があの人を捕まえてくれたから、安心して。」 「あ、ありが、とう…ございました。」 「いいえ。このあと警察の方から色々聞かれると思うけど、一人
「Lilas」登場人物について紹介していきます! あさひの両親、社員さん2人の名前もここで初公開です! ※現時点での年齢を載せていますが、今後変わることがあります。 風間あさひ(24) 本作の主人公。 高校卒業後に食品工場へ就職し、主に調理を担当しているが、時々フォークリフトに乗って倉庫での作業をすることもある。 両親と兄が2人いる。 兄2人の他にあさひの双子の兄がいたが、幼少期に事故で亡くなっている。 小学4年生から高校1年生の始めまで夕也に恋心を抱いていた。 その後も2人好きな人ができるが、いずれも付き合う事なく失恋する。 会社で夕也と再会し、再び恋に落ちて付き合う事になった。 桐山夕也(24) あさひの幼馴染でもあり初恋の人で、学校の人気者だった。 転職先があさひの勤める会社で、あさひと再会して付き合う事になる。 初恋の人があさひであり、小学4年生からずっと思い続けていたため、同じ高校の友人から「一途なのはいいけど、執着しすぎてて逆に怖い」などと言われた事もある。 同じ中学の美奈と付き合う事になるが、それはあさひへの恋心を忘れるための手段であった。 だが結局あさひを忘れられず、高校入学してすぐに破局した。 同じくあさひの幼馴染である愛華とはいとこ同士である。 両親と歳の離れた妹が1人いる。 東雲愛華(24) あさひの幼馴染であり、大親友でもある。 あさひとは実家が隣同士だったため、中学卒業まで2人で一緒に学校へ行っていた。 高校に進学したあとも2人で途中の道まで一緒に通学していた。 夕也の母と愛華の母が姉妹同士のため、夕也のいとこにあたる。 中学生になるまであさひ、夕也と3人でいつも遊んでいたが、あさひが失恋してから夕也との仲が悪くなり、疎遠になる。 高校卒業後は看護学校へ進学し、看護師となる。 同じ病院に勤めている大和と親しくなり、その後交際を始めた。 あさひの初デートの時の服を選ぶなど、あさひの事を妹のようにとても大切に思っており、あさひも愛華に対して同じ気持ちを抱いている。 両親と姉が1人いる。 市川大和(25) 愛華の彼氏で、愛華と同じく看護師として働いている。 愛華とは就職先の病院で出会い、愛華に一目惚れする。 どうにか仲良くなろうと積極的に話しかけた結果、親密になり交際を始める。







