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31.あなたは

last update 公開日: 2026-07-27 19:46:17

「っ、先生!妹は…あさひは…」

「手術は成功いたしました。ただ、頭を強く打っていましたので、目が覚めるまでに数日はかかるかもしれません。それと、妹さんは事故の衝撃で右側のあばら骨を2本、右足の骨が折れていますので、しばらく入院していただくことになります。」

「っ、本当に、ありがとうございます…妹を助けていただいて…」

時刻は夜中の3時を回っていた。

集中治療室に行くと、痛々しい姿の妹がベッドで眠っている。

「どうして、こんな事になったのよ…」

夕也くん、愛華ちゃん、大和くんの3人を、兄貴が車で送ることになった。

「夕也くん。あさひの意識が戻ったら、すぐ連絡する。」

「お願いします…」

―夕也視点―

事故から5日が経った。

あさひの意識はまだ戻っていない。

家族ではない俺は面会がまだ許されず、どうしようもない不安を抱えている。

仕事を終えて更衣室で着替えていると、電話が鳴った。

電話の相手は、そらお兄さんだ。

「もしもし!?」

「夕也くん!今あさひの意識が戻った!病院に来れるか!?」

「は、はい!すぐに向かいます!」

電話を切って足早に駐車場へ向かい、車に乗った。

1時間ほど車を走らせて、病院に着いた。

あさひの病室へ向かうと、険しい顔をしたそらお兄さんが病室の前に立っていた。

「お兄さんっ、あさひの意識は戻ったんですよね…!?」

「意識は完全に戻った、ただ…」

あさひの病室に入ると、あさひはベッドの角度を変えられ、ベッドに体を預けたまま上体を起こされていた。

「あさひ、よかった…助かって…」

「…そらにぃ、このお兄ちゃん、だあれ?」

「え…?」

おかしい。

普段のあさひはこんな話し方をしない。

そらお兄さんのことも、『そら兄ちゃん』と呼ぶのに、『そらにぃ』と呼んでいる。

まるで、子供のような話し方だ。

それに…どうして俺のことが分からないんだ。

「あさひ…?夕也だぞ?」

「?」

「夕也くん、1回出ようか。」

病室の外へ出て、そらお兄さんが話し始めた。

「あさひは…記憶障害を起こしてる。」

「記憶、障害…?」

「事故の影響で、あさひは18年分の記憶が抜けている。」

18年。

つまり、俺と付き合っている事も、俺と出会った事すらも、全て忘れてしまっているということだ。

「そんな…」

「すぐに思い出せる場合もあれば、最悪、一生思い出せない場合もある。」

一生。

そんなの、俺には耐えられない。

今までの楽しい思い出も、愛情も、全部忘れられてしまうなんて。

「…お兄さん、今あの喋り方ってことは、はるひさんのこと…」

「…ああ、死んだ事も覚えてない。」

ああ、酷い。

どうしてあさひがこんな目に…

「病室に戻ろう。俺があさひに説明するから。」

病室に戻って再びあさひと顔を合わせる。

「あさひ、このお兄さんはね、あさひの…」

「友達だよ。俺は、あさひの友達で、夕也って言うんだ。」

「ゆ、夕也くん…」

「お兄ちゃんが、あさひの、友達…?」

「そう。覚えてないかもしれないけど、いつも遊んでたんだよ。」

記憶が6歳の頃で止まっているあさひに、彼氏ですなんて言っても、混乱させるだけだ。

「そっか…ごめんね、あさひ、頑張って思い出すから、待っててね。夕也くん。」

「はぁっ…はぁっ…夕也っ、あさひの意識が戻ったって…」

仕事を終えた愛華もやってきた。

「…お姉ちゃんも、あさひの友達?」

「え…あさひ…な、何言ってるの?」

「えっと…ごめんね。あさひ、なんかいっぱい忘れちゃったみたいなの。だから、夕也くん達のこと、分からないんだ。ごめんね。」

愛華は看護師だ。

あさひに今何が起こっているか、瞬時に理解したようだ。

「あさひ、このお姉さんも、俺と同じであさひの友達なんだ。」

「…私は、愛華って言うの。あさひと、仲良しのお友達だよ。」

「愛華ちゃん…ごめんね、頑張って思い出すから…」

「…ゆっくりでいいんだよ、あさひ。」

しばらく話をして、俺達は病院をあとにした。

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