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38.モモナ道中

last update Last Updated: 2025-07-01 16:00:00

「うぉぉぉっ !! 」

 信じるは己の肉体のみ。高い瞬発力と武器を扱う経験値。

 カイの双剣は凄まじいスピードで地面を這う。

 植物を薙ぎ倒し、斬られた葉は風に乗り空へと舞い上がる。

「オラァァァァ !! 」

「おい、見ろ ! なんて速さだ !! 」

 馬車を引いた男が、つい興奮して客へ話しかける。馬車から身を乗り出した母子たちも珍しい光景に思わず声を漏らしていた。

「まぁ、凄いですわね」

「おにーちゃーん ! 頑張れー」

 カイはモモナ港の城下町を出発してすぐ、この馬車屋に捕まった。脱輪した馬車を持ち上げる作業を手伝い、事故の経緯を聞いた。

 大きな町のすぐ近くとはいえ、程よく気候が安定しているこの辺りでは、人の手入れも疎かで雑草が伸びるのが早いのだ。草根の読みを一つ間違えれば溝や轍にハマる。

 他の馬車も道の先で立ち往生していた。馬も馬車屋も乗客も、葉っぱを巻き上げながら道を進んでくる塊に目を丸くしていた。

 そう。

 カイは新しい双剣で草刈りをしている。

「うおぉぉ ! 」

 両手を大きく振りながらも、身のこなしは軽々しい。一振でも広い範囲を、切っ先は道を開く。

 その様子を、一匹の白い烏が上空から観ていた。

「もう十分だ ! 助かったよ兄ちゃん ! 」

 カイは双剣を鞘に収めると、赤い髪をカシカシと掻く。

「いや〜俺も楽しかったっす。モモナで買ったばっかだったんすよ、この双剣」

「え !? そりゃあ、申し訳ないことをしたな……刃こぼれしてないかい ? 」

「んにゃ、ぜーんぜん ! 大通りの一番端にある鍛冶屋で買ったんすけど、腕いいっすよ ! 」

「あ、ああ。確かゼンチって旦那の店だな」

「剣を新調した時って、一番最初は生き物以外を斬らねぇと悪運が付くんすよ」

「えぇ ! ? 初めて聞いたが、そうなのかい ? 」

「俺の故郷……アカネ島の言い伝えっすけどね」

「アカネ島ぁっ !!? ここから真逆の極東じゃねぇか

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