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52.年下組 合流

last update Last Updated: 2025-07-15 16:00:00

「到着だな ! 」

 カイが馬車から降りると、すかさず胸に何かが飛び込んで来た。

「グェっ !! 」

 隣では母子がクスりと笑みを零す。

「カイ〜〜〜 !! 」

「シエル !? 」

 飛び込んできたのはシエルの頭だった。

 みぞおちにめり込んだまま、ぐりぐりと柔らかいブルネットを沈ませる。

「大変なの〜 ! 大変なの、リラが〜 !! 」

「いででで ! おい、まず、あれだ。あの……馬車に患者さんがいるぜ」

「うん。治す。すぐに。

 話聞いてくれる ? 」

「どうした ? 」

「あ〜もう気が気じゃないよぉ〜 ! 」

「ちゃんと話、聞くから。

 治療は……丁寧にやれよ ? 大丈夫か、お前」

「うるさいなぁ。気が散るよ ! 」

「はあーっ !!? 

 なんなの ???! お前、なんなの !!??? 」

 シエルは母親と幼い息子を見ると聖堂へと連れていった。

 □□□□□□□

 タミルと言う病の子供は、そのまま聖堂で神父が治療を受け継ぐことになった。と言うのも、シエルの治療はものの半日で、解熱を待つだけとなる。無かったのは治療法や薬種などではない。運が良ければ治せる。白魔術師や賢者という者たちは僅かな献金だけで治療を可能とする。出会えるかが運なのだ。その存在は酷く希少であるからだ。

 母親は何度も涙を流し、シエルの手を握っていた。カイもそれを見届け、村内へぶらりと繰り出し、馬を休ませていた馬車屋と安堵を分かち合う。

 そしてようやく午後に、やっとシエルの仮住まいの部屋へと収まった。

「んで ? リラがなんだって ? あいつは今、どこにいるんだ ? 」

「……カイ。まず落ち着いて聞いてね ? 

 リラはずっと雪山で遭難してて、更に二重人格になってたんだよ」

「お……おお。お ? 

 …………なんだって ? 」

「人格が二人いるの。元の僕らの知ってるリラと、全

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    「到着だな ! 」 カイが馬車から降りると、すかさず胸に何かが飛び込んで来た。「グェっ !! 」 隣では母子がクスりと笑みを零す。「カイ〜〜〜 !! 」「シエル !? 」 飛び込んできたのはシエルの頭だった。  みぞおちにめり込んだまま、ぐりぐりと柔らかいブルネットを沈ませる。「大変なの〜 ! 大変なの、リラが〜 !! 」「いででで ! おい、まず、あれだ。あの……馬車に患者さんがいるぜ」「うん。治す。すぐに。  話聞いてくれる ? 」「どうした ? 」「あ〜もう気が気じゃないよぉ〜 ! 」「ちゃんと話、聞くから。  治療は……丁寧にやれよ ? 大丈夫か、お前」「うるさいなぁ。気が散るよ ! 」「はあーっ !!?  なんなの ???! お前、なんなの !!??? 」 シエルは母親と幼い息子を見ると聖堂へと連れていった。 □□□□□□□ タミルと言う病の子供は、そのまま聖堂で神父が治療を受け継ぐことになった。と言うのも、シエルの治療はものの半日で、解熱を待つだけとなる。無かったのは治療法や薬種などではない。運が良ければ治せる。白魔術師や賢者という者たちは僅かな献金だけで治療を可能とする。出会えるかが運なのだ。その存在は酷く希少であるからだ。  母親は何度も涙を流し、シエルの手を握っていた。カイもそれを見届け、村内へぶらりと繰り出し、馬を休ませていた馬車屋と安堵を分かち合う。  そしてようやく午後に、やっとシエルの仮住まいの部屋へと収まった。「んで ? リラがなんだって ? あいつは今、どこにいるんだ ? 」「……カイ。まず落ち着いて聞いてね ?  リラはずっと雪山で遭難してて、更に二重人格になってたんだよ」「お……おお。お ?  …………なんだって ? 」「人格が二人いるの。元の僕らの知ってるリラと、全

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