「らっしゃい ! 」
「こんにちは。あの……紹介状を持ってるんですが……」
「どれ見せてみな」
セロが荷袋から雪山の村長に持たされた封書を取り出す。そういえば、何が書いてあるかまでは知らないんだよね。確か、わたしが雪山で救出された経緯とか、そんなんが書いてあるはずだけど。
武器屋の若旦那はわたしたちを一度ジッと見て再び手紙に目を通す。「はぇ〜。二人で記憶ないっちゃ……まぁ、お似合いか ? 」
なんかレオナと同じ様な事言ってる。
「それはいいとして……。リラさん、あんた魔法使い ? その装備で ? 」
「え…… ? 」
わたし、なにか変な格好してる ?
セロはボサっとして、何の反応も無い。なにか言ってよ、もう !「おいでよ。女房の店繋がってるんだが」
店内へ手招きされ中に入ると、ズラりと並んだ武器の間に通路があって、隣接した防具屋と繋がっていた。
「おい、これ」
武器屋が奥さんに手紙を見せる。
「この子が魔法使いって書いてあるんだよ」
「え ? ん〜。まぁ好みもあるでしょう ? 」
「でもこうはならんだろ」
「あ、あの。何の話しでしょうか ? 」
「すまんすまん。ええとだな。
お前……説明してくれよ」話を振られた奥さんがわたしに微笑む。
「そうだね。とりあえず、記憶無いってんだから仕方ないよね ?
今の装備、見せてもらえる ? 」「はい」
店の奥、プライベートルームに奥さんと二人で入る。
「ジョブプレートは魔法使いの六芒星だね」
「はい」
「今、着ているその装備ねぇ。ガンナーの物なのよ。
だから弓やボウガン、銃とか……その武器を見繕う段階で魔法使いって書いてあったからびっくりしたのよ」「え…… ? これガンナーの装備なんですか ? 」
思わず自分の身体を見下ろす。
「でも
「おじさん、なんて言ってた ? 」 定食を平らげた後、わたしはセロに聞いてみた。「いや、山賊にお前が攫われ無かったのは運がいいぞって……忠告」「攫われたけどね……」「あとは麓の雪がない森林地帯に入ったら熊が出るらしい」「熊……」「弓じゃ一撃必殺とはいかないからな。その辺の作戦を立ててから下山しろってさ」 優しさに泣きそう。「めちゃくちゃいい人だったね」「ああ。それよりも」 セロが聖堂を見上げる。 これからわたしたちは、記憶喪失の件で医者に会い、更には懺悔を聞いた神父の紹介で司祭に会う。 一体何を言われるのか不安しかない。「まだ時間がある。窓口でジョブプレートを申請しよう」「あ、そうだね ! ここが正式な吟遊詩人のスタートになるもんね ! 」 以前の村はそういう事は出来ない簡易的な山小屋の集落だったし、ここからが本当のスタートだ。「なにか派手に祝いたいところだが……。今の俺達には……」「分かってる。でも、戦いじゃなく、歌で旅できるなんて思わなかった ! ありがとう、セロ」「……それは俺の方だ。お前に会えて人生が変わる。ここから」 ふふ。相変わらずくさい台詞を真顔で吐く。 セロの事もだんだん分かって来たな。「すみません」「あぁらぁ〜 ! 何 !? なんでも聞いて〜 ? 」 ギルドの総合案内の端、一際暇そうな御局様に声をかけると激しい反応が返ってきた。「わたしたちのジョブプレートを吟遊詩人にして欲しいんです ! 」「OK〜。再発
ドッ、ドゥッ !「こりゃあ、たまげた」 わたしが撃った的を見て、武器屋のおじさんは呆然としていた。「まさかこんな使い方があったとは。しかしなんで銃なんだろうなぁ ? 杖の方が主流だよなぁ ? 」「そうですね。わたしもそれは疑問で。ただ銃の方が使い慣れてるのは見ての通りで……」「戦えればなんでもいいわな。よしじゃあ弾の詰めやすさなんて気にしねぇで言い訳だな ! どの銃にするかいね ? 」 壁にかかった銃、およそ三十丁ほど。遠距離用の長いのは要らないよね ? じゃあ、手に持つくらいの大きさで……。 ──グリップが手に余らず、トリガーまでの指が合う物。そして暗闇でも分かる銃身が派手で、尚且つ携帯時に装備に引っ掛かりが無いものを二丁。「…… ! 」 まただ。何かがわたしの中に居る感じ。 ザワザワする。「あの、二丁……頂いてもいいですか ? 」「ぜ〜んぜん構わねぇよ。支払い云々じゃなく、銃は冒険者には不人気でな〜」「じゃあ、この色違いの」「女の子らしいねぇ ! セーフフィがねぇんだが、魔法なら暴発もねぇわな ! どれ、今中も磨いてやっから待ってな」「ありがとうございます ! じゃあ、奥様のところに装備見てきます」 おじさんはへへへと笑い、顎で装備屋を指す。「あの兄さんは恋人かい ? 」「いえ、全然。歌がお互い……趣味 ??? で、吟遊詩人として組もうかって。弾丸冒険なんです」「え !? 彼氏じゃない割に……熱心にお前さんの服選んでんのか ? 」 もっと言って。 わたしも驚いてる。「彼がリーダーなので、衣装にはこだわりたいんだと思います」「衣装はそうか…
「らっしゃい ! 」「こんにちは。あの……紹介状を持ってるんですが……」「どれ見せてみな」 セロが荷袋から雪山の村長に持たされた封書を取り出す。そういえば、何が書いてあるかまでは知らないんだよね。確か、わたしが雪山で救出された経緯とか、そんなんが書いてあるはずだけど。 武器屋の若旦那はわたしたちを一度ジッと見て再び手紙に目を通す。「はぇ〜。二人で記憶ないっちゃ……まぁ、お似合いか ? 」 なんかレオナと同じ様な事言ってる。「それはいいとして……。リラさん、あんた魔法使い ? その装備で ? 」「え…… ? 」 わたし、なにか変な格好してる ? セロはボサっとして、何の反応も無い。なにか言ってよ、もう !「おいでよ。女房の店繋がってるんだが」 店内へ手招きされ中に入ると、ズラりと並んだ武器の間に通路があって、隣接した防具屋と繋がっていた。「おい、これ」 武器屋が奥さんに手紙を見せる。「この子が魔法使いって書いてあるんだよ」「え ? ん〜。まぁ好みもあるでしょう ? 」「でもこうはならんだろ」「あ、あの。何の話しでしょうか ? 」「すまんすまん。ええとだな。 お前……説明してくれよ」 話を振られた奥さんがわたしに微笑む。「そうだね。とりあえず、記憶無いってんだから仕方ないよね ? 今の装備、見せてもらえる ? 」「はい」 店の奥、プライベートルームに奥さんと二人で入る。「ジョブプレートは魔法使いの六芒星だね」「はい」「今、着ているその装備ねぇ。ガンナーの物なのよ。 だから弓やボウガン、銃とか……その武器を見繕う段階で魔法使いって書いてあったからびっくりしたのよ」「え…… ? これガンナーの装備なんですか ? 」 思わず自分の身体を見下ろす。「でも
まだ日は出てないけど、そろそろ朝だよね。長い時間歌ってたけど、今日は声が枯れてない。「今日は調子良かったなぁ」「寒い外で歌うよりは負担が無いとは思うが……ケアしないと後から枯れることもある」 ケアか。二ヶ月、雪山の村に引きこもってたのに、まさか歌うたいで旅に出ることになるとは……。長時間人と話すのも久々だったのに。あ、今もセロと二人でいても会話量は変わらないか。 それにしても、歌の仕事ってどうやって稼ぐんだろう。前の村酒場では順番待ちすれば誰でもステージに上がれたし、踊ろうが楽器を弾こうが、誰も見向きもしなかったのよね。……そういえば、わたし達が歌った時は盛り上がってたけど、あれもDIVAの力なんだよね ? それって凄く反則的というか……真剣に音楽をやる人にマナーとしてどうなんだろう。でも、その真剣に音楽やろうって人が今、そばにいる訳だし。 DIVAを隠して持ってろって言うのは、そういう引け目もあるのかな。「失礼します」「神父様……」 正装のまま、半二階の渡り廊下から神父様が歩いてきた。多分、影にある木造棟が宿舎なのね。「いやはや……素敵な歌声でしたね」 煩かったかな。でも凄く喜んでくれてるみたい。魔法で歌ってるなんて知ったら……なんだか素直に喜んでいいのか疑問。「神父様、実は……」 セロが少し顔を顰めて床に視線を落とし呟いた。「俺たちの懺悔を聞いて貰えますか ? 」「ええ。勿論」「道すがら、彼女が山賊に捕えられ、殺してしまいました」「えっ !? あ、そ……そうなんです」 やっばい ! ここで言う !? でも、やったのわたしだもん。遂に話す流れ来たんだ。「あの、わたしが……殺りました」「……。神は告白を受け止めてくださるでしょう。祈りましょう」「ありがとうございます」 祈りの言葉を終えてから、神父様は思い詰めた顔で考え込む。そりゃあ、そうだよね。通報される…… ? 今すぐこの村を出ていくことになるかも
「これにサインを……」 グランドグレー地大陸の心臓部、王都 グリージオ。 その城内の執務室で、久々に帰還したエルンスト王は執務に追われていた。「……」「サイン……」「……もう逃げたい」 溜まりに溜まった書類の海。『後は、王からGOサインを貰うだけです』となった物だ。 自慢の長い金髪は乱れに乱れ、上着も乱雑に着崩し白いシャツ一枚の姿で額に手を当てる。「はぁ〜。気が遠くなるな」 まさに外見だけは、皆がイメージする地位も名誉も美も兼ね揃えた王……なのだが、その生活は実に一般的なのであった。「こんなのお前がやればいいよ。許可するよ。代理で『レイがサインしてもいい』って……」「それをやってお爺様が失敗してたろ」 そばにいる男はエルンスト家に代々仕える側近でレイルと言う。王にとって早くに亡くした両親の寂しさを紛らわせてくれたのは、幼馴染だったレイルのお陰でもあった。「気がおかしくなりそうだ……」「はい次 ! 」 二人ともリラと並べば見下ろす程背が高い。レイの黒髪と、本人が好んで身につけるモノトーンの衣服を見た王都の民は、レイを『王より出しゃばらない立場をわきまえた男』と認識している。 残念ながらそれも誤認で、単純に個人的趣味な上に王に対して横暴である。「前科があるんだから、お前がやらなきゃ駄目だろ」「前科ぁ ? 前例って言え。 レイの祖父が、抵当に読まずにサインしまくったからバレたんだろ。同じ敷地に二軒もギルドが出来たり、輸入品を二重購入したり。……飢饉の時に、一羽でいい生け贄の鶏が、二羽死んだから聖堂が騒いだとか……」「俺の家系に罪を擦り付けるな。当事者が騒がれるような事をしたんだから……仕方ない
雪山の村から出発して二日目の夜。 旅に慣れない二人でも何とか魔物に遭遇すること無く麓の村に辿り着いた。「えっと……雪……」「雪国 アリアへようこそ……だな」 一応、半分まで読めたけど……文字もあやふやだな。「セロに比べて、わたしの方が記憶が抜けてるよね ? やっぱり個人差はあるかな……。文字とか読めないのは困る」「その時は俺が目になるだけだ」 うぐぐ。何その……。 昨日も思ったけど、無意識に殺し文句言い過ぎじゃない ? これから酒場のステージを回るんだよ ? これじゃ記憶が戻んないうちから女の子を勘違いさせそう ! ……そして女性に絡まれて、倒れてわたしが介護する──までセットで見えるようだわ……。「この時間だとお店はやってないね」「そうだな。武器屋より、お前はギルドに行きたいんじゃないのか ? 付き合う」「あ、ありがとう……」 大事にはしてくれるんだけどな。DIVAを持ってるからって本人は言い張るけど、あんな山賊ののさばる場所に単身探しに来てくれるんだもん、感謝しなきゃね。 多分セロは自分で思ってるほど冷酷では無いんだ。 それに宮廷楽長を目指すだけなら、歌い手なんていなくても問題無さそうだと思うけどな。 アリアの村は栄えてるとは言えないけど、雪を被った建物がどれも頑丈で、窓の灯りが暖かく見える。 村の大きな十字路に来ると、レンガ造りの建物を挟んで大きな木造建築がギルドだった。結構、人が多い。村全体は静かなのに、明らかにギルドだけが騒音レベルで騒がしい。「すごい人……」「雪山へ向かう為の入山手続きだな」 人を掻き分けて掲示板まで進む。 貼られてるメモはそんなに多くない。