王都 グリージオから最西端が、カイのいるモモナ港だ。そのモモナ港からほんの内陸部に小さな村がある。
コッパーと言う村で、まだまだ王都に遠いながらも緯度としては同等。 そこへリラの元パーティの最後のひとり、シエルが滞在していた。「はい ! これでもう大丈夫 ! 」
シエルは長めのブルネットで毛先にクセがあるのが特徴的な男児だ。とはいえ、今コッパーの村でシエルが男だと気付いているのは半数である。それ程に可憐で美しい。
更には外見の幼さでは考えられない物腰の柔らかさと落ち着きがある。シエルは手を広げ、目の前の老人の目に手をかざしていた。「あぁ……見える ! 微かじゃが、これなら生活に不便は無い…… ! 」
「病気と違って体質的な物だからね。ごめんなさいこれ以上は僕の魔法でも……」
「いやいや。これだけ見えれば御の字じゃよ」
「良かった ! 」
シエルは簡単な挨拶を済ませると、次に待っていた母娘を座らせる。
「娘の熱が下がらなくて……薬草では治らないんです」
「……ん〜。微弱な魔力を感じるかも……」
シエルは机に立て掛けていた杖をもつと、母親に抱かれた幼女の額に先端を付けた。するとズラリと並んだ魔石がぼんやりと光を放つ。
「魔力……ですか ? 」
「はい。この魔石の光、僕が光らせてる訳じゃないですよ。
最近、村の外に行ったり、魔物と接触しましたか ? 」「いえ、ほとんど家で読書していることが多い子で。……村の外どころか……外にも……」
「近親者で&he
わたしに問題なんて……何も……。 まさか山賊の件 ? そうだよね、なんの罪にもならないわけが……。「まず、君のジョブプレートを見せてくれるかい ? 」「は、はい……」 こんな状況じゃ何も隠せる自信ない。二つあったジョブプレートどちらも取り出し、神父様に渡す。「吟遊詩人と言うのは ? 偽装かい ? 」「いえ。元々、魔法使いだったみたいなんですけど……。雪山の村でセロに出会って、音楽の旅に出る事に……。 旅の途中、戦闘の必要があれば魔法を……」「そう……。この魔法使いのジョブプレートはどこで発行したの ? 」 それって糸杉の焼き印のある方だよね。武器屋さんでは特殊とだけ言われたけど、発行場所は知らないし……。「分かりません。雪山の村で発見された時、高い場所から落ちたみたいで記憶が無いんです。 あの……自分の故郷も知らないし、もし知っていらしたら教えて頂きたいのですが……」 神父様は糸杉の魔法使いのジョブプレートだけを司祭や他の人間に見せると、明らかに緊迫した空気に変わったのを感じた。「これはね……糸杉は、罪人専用の絵柄なんだ。故郷や発行場所を示す物じゃないんだ」「ざ……」 罪人 ? わたし ? 山賊の事とは別に ? 元から犯罪者って事 ?「そ、そんな……」 困り果てる医者と聖職者の中、司祭が顎髭を撫で付けながら首を傾げる。「罪人と言えど、凶悪犯ばかりではないんじゃが……。 昨晩の歌声……あれが罪人とは思え
王都 グリージオから最西端が、カイのいるモモナ港だ。そのモモナ港からほんの内陸部に小さな村がある。 コッパーと言う村で、まだまだ王都に遠いながらも緯度としては同等。 そこへリラの元パーティの最後のひとり、シエルが滞在していた。「はい ! これでもう大丈夫 ! 」 シエルは長めのブルネットで毛先にクセがあるのが特徴的な男児だ。とはいえ、今コッパーの村でシエルが男だと気付いているのは半数である。それ程に可憐で美しい。 更には外見の幼さでは考えられない物腰の柔らかさと落ち着きがある。シエルは手を広げ、目の前の老人の目に手をかざしていた。「あぁ……見える ! 微かじゃが、これなら生活に不便は無い…… ! 」「病気と違って体質的な物だからね。ごめんなさいこれ以上は僕の魔法でも……」「いやいや。これだけ見えれば御の字じゃよ」「良かった ! 」 シエルは簡単な挨拶を済ませると、次に待っていた母娘を座らせる。「娘の熱が下がらなくて……薬草では治らないんです」「……ん〜。微弱な魔力を感じるかも……」 シエルは机に立て掛けていた杖をもつと、母親に抱かれた幼女の額に先端を付けた。するとズラリと並んだ魔石がぼんやりと光を放つ。「魔力……ですか ? 」「はい。この魔石の光、僕が光らせてる訳じゃないですよ。最近、村の外に行ったり、魔物と接触しましたか ? 」「いえ、ほとんど家で読書していることが多い子で。……村の外どころか……外にも……」「近親者で&he
「おじさん、なんて言ってた ? 」 定食を平らげた後、わたしはセロに聞いてみた。「いや、山賊にお前が攫われ無かったのは運がいいぞって……忠告」「攫われたけどね……」「あとは麓の雪がない森林地帯に入ったら熊が出るらしい」「熊……」「弓じゃ一撃必殺とはいかないからな。その辺の作戦を立ててから下山しろってさ」 優しさに泣きそう。「めちゃくちゃいい人だったね」「ああ。それよりも」 セロが聖堂を見上げる。 これからわたしたちは、記憶喪失の件で医者に会い、更には懺悔を聞いた神父の紹介で司祭に会う。 一体何を言われるのか不安しかない。「まだ時間がある。窓口でジョブプレートを申請しよう」「あ、そうだね ! ここが正式な吟遊詩人のスタートになるもんね ! 」 以前の村はそういう事は出来ない簡易的な山小屋の集落だったし、ここからが本当のスタートだ。「なにか派手に祝いたいところだが……。今の俺達には……」「分かってる。でも、戦いじゃなく、歌で旅できるなんて思わなかった ! ありがとう、セロ」「……それは俺の方だ。お前に会えて人生が変わる。ここから」 ふふ。相変わらずくさい台詞を真顔で吐く。 セロの事もだんだん分かって来たな。「すみません」「あぁらぁ〜 ! 何 !? なんでも聞いて〜 ? 」 ギルドの総合案内の端、一際暇そうな御局様に声をかけると激しい反応が返ってきた。「わたしたちのジョブプレートを吟遊詩人にして欲しいんです ! 」「OK〜。再発
ドッ、ドゥッ !「こりゃあ、たまげた」 わたしが撃った的を見て、武器屋のおじさんは呆然としていた。「まさかこんな使い方があったとは。しかしなんで銃なんだろうなぁ ? 杖の方が主流だよなぁ ? 」「そうですね。わたしもそれは疑問で。ただ銃の方が使い慣れてるのは見ての通りで……」「戦えればなんでもいいわな。よしじゃあ弾の詰めやすさなんて気にしねぇで言い訳だな ! どの銃にするかいね ? 」 壁にかかった銃、およそ三十丁ほど。遠距離用の長いのは要らないよね ? じゃあ、手に持つくらいの大きさで……。 ──グリップが手に余らず、トリガーまでの指が合う物。そして暗闇でも分かる銃身が派手で、尚且つ携帯時に装備に引っ掛かりが無いものを二丁。「…… ! 」 まただ。何かがわたしの中に居る感じ。 ザワザワする。「あの、二丁……頂いてもいいですか ? 」「ぜ〜んぜん構わねぇよ。支払い云々じゃなく、銃は冒険者には不人気でな〜」「じゃあ、この色違いの」「女の子らしいねぇ ! セーフフィがねぇんだが、魔法なら暴発もねぇわな ! どれ、今中も磨いてやっから待ってな」「ありがとうございます ! じゃあ、奥様のところに装備見てきます」 おじさんはへへへと笑い、顎で装備屋を指す。「あの兄さんは恋人かい ? 」「いえ、全然。歌がお互い……趣味 ??? で、吟遊詩人として組もうかって。弾丸冒険なんです」「え !? 彼氏じゃない割に……熱心にお前さんの服選んでんのか ? 」 もっと言って。 わたしも驚いてる。「彼がリーダーなので、衣装にはこだわりたいんだと思います」「衣装はそうか…
「らっしゃい ! 」「こんにちは。あの……紹介状を持ってるんですが……」「どれ見せてみな」 セロが荷袋から雪山の村長に持たされた封書を取り出す。そういえば、何が書いてあるかまでは知らないんだよね。確か、わたしが雪山で救出された経緯とか、そんなんが書いてあるはずだけど。 武器屋の若旦那はわたしたちを一度ジッと見て再び手紙に目を通す。「はぇ〜。二人で記憶ないっちゃ……まぁ、お似合いか ? 」 なんかレオナと同じ様な事言ってる。「それはいいとして……。リラさん、あんた魔法使い ? その装備で ? 」「え…… ? 」 わたし、なにか変な格好してる ? セロはボサっとして、何の反応も無い。なにか言ってよ、もう !「おいでよ。女房の店繋がってるんだが」 店内へ手招きされ中に入ると、ズラりと並んだ武器の間に通路があって、隣接した防具屋と繋がっていた。「おい、これ」 武器屋が奥さんに手紙を見せる。「この子が魔法使いって書いてあるんだよ」「え ? ん〜。まぁ好みもあるでしょう ? 」「でもこうはならんだろ」「あ、あの。何の話しでしょうか ? 」「すまんすまん。ええとだな。 お前……説明してくれよ」 話を振られた奥さんがわたしに微笑む。「そうだね。とりあえず、記憶無いってんだから仕方ないよね ? 今の装備、見せてもらえる ? 」「はい」 店の奥、プライベートルームに奥さんと二人で入る。「ジョブプレートは魔法使いの六芒星だね」「はい」「今、着ているその装備ねぇ。ガンナーの物なのよ。 だから弓やボウガン、銃とか……その武器を見繕う段階で魔法使いって書いてあったからびっくりしたのよ」「え…… ? これガンナーの装備なんですか ? 」 思わず自分の身体を見下ろす。「でも
まだ日は出てないけど、そろそろ朝だよね。長い時間歌ってたけど、今日は声が枯れてない。「今日は調子良かったなぁ」「寒い外で歌うよりは負担が無いとは思うが……ケアしないと後から枯れることもある」 ケアか。二ヶ月、雪山の村に引きこもってたのに、まさか歌うたいで旅に出ることになるとは……。長時間人と話すのも久々だったのに。あ、今もセロと二人でいても会話量は変わらないか。 それにしても、歌の仕事ってどうやって稼ぐんだろう。前の村酒場では順番待ちすれば誰でもステージに上がれたし、踊ろうが楽器を弾こうが、誰も見向きもしなかったのよね。……そういえば、わたし達が歌った時は盛り上がってたけど、あれもDIVAの力なんだよね ? それって凄く反則的というか……真剣に音楽をやる人にマナーとしてどうなんだろう。でも、その真剣に音楽やろうって人が今、そばにいる訳だし。 DIVAを隠して持ってろって言うのは、そういう引け目もあるのかな。「失礼します」「神父様……」 正装のまま、半二階の渡り廊下から神父様が歩いてきた。多分、影にある木造棟が宿舎なのね。「いやはや……素敵な歌声でしたね」 煩かったかな。でも凄く喜んでくれてるみたい。魔法で歌ってるなんて知ったら……なんだか素直に喜んでいいのか疑問。「神父様、実は……」 セロが少し顔を顰めて床に視線を落とし呟いた。「俺たちの懺悔を聞いて貰えますか ? 」「ええ。勿論」「道すがら、彼女が山賊に捕えられ、殺してしまいました」「えっ !? あ、そ……そうなんです」 やっばい ! ここで言う !? でも、やったのわたしだもん。遂に話す流れ来たんだ。「あの、わたしが……殺りました」「……。神は告白を受け止めてくださるでしょう。祈りましょう」「ありがとうございます」 祈りの言葉を終えてから、神父様は思い詰めた顔で考え込む。そりゃあ、そうだよね。通報される…… ? 今すぐこの村を出ていくことになるかも