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17.聖堂集会と聖戦士

last update Last Updated: 2025-06-05 15:00:00

    王都 グリージオから最西端が、カイのいるモモナ港だ。そのモモナ港からほんの内陸部に小さな村がある。

    コッパーと言う村で、まだまだ王都に遠いながらも緯度としては同等。

    そこへリラの元パーティの最後のひとり、シエルが滞在していた。

「はい ! これでもう大丈夫 ! 」

    シエルは長めのブルネットで毛先にクセがあるのが特徴的な男児だ。とはいえ、今コッパーの村でシエルが男だと気付いているのは半数である。それ程に可憐で美しい。

    更には外見の幼さでは考えられない物腰の柔らかさと落ち着きがある。

シエルは手を広げ、目の前の老人の目に手をかざしていた。

「あぁ……見える ! 微かじゃが、これなら生活に不便は無い…… ! 」

「病気と違って体質的な物だからね。ごめんなさいこれ以上は僕の魔法でも……」

「いやいや。これだけ見えれば御の字じゃよ」

「良かった ! 」

    シエルは簡単な挨拶を済ませると、次に待っていた母娘を座らせる。

「娘の熱が下がらなくて……薬草では治らないんです」

「……ん〜。微弱な魔力を感じるかも……」

    シエルは机に立て掛けていた杖をもつと、母親に抱かれた幼女の額に先端を付けた。するとズラリと並んだ魔石がぼんやりと光を放つ。

「魔力……ですか ? 」

「はい。この魔石の光、僕が光らせてる訳じゃないですよ。

最近、村の外に行ったり、魔物と接触しましたか ? 」

「いえ、ほとんど家で読書していることが多い子で。……村の外どころか……外にも……」

「近親者で&he

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