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Là où commence ton absence : Le prix d’un amour trop tardif

Là où commence ton absence : Le prix d’un amour trop tardif

By:  Honorine PérierCompleted
Language: French
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La sixième année de notre mariage secret, son premier amour est revenue. J'ai décidé de partir avec notre enfant pour leur laisser le bonheur.

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Chapter 1

Chapitre 1

 神楽坂ホールディングス本社、最上階。

 社長室のドアが、ノックの返事を待たずに開いた。

「社長、見つかりました!」

 秘書の息が上がっていた。普段なら一枚の資料を置く角度まで乱さない男が、タブレットを両手で差し出している。

 画面には、どこにでもあるような家庭の台所が映っていた。

 淡い色のエプロンの胸元から下だけが映っている。女の顔は出ていない。小さな鍋の蓋が開き、白味噌を溶いた汁の上で柚子の皮が揺れた。左手首に、小さな火傷跡があった。

 あの時の火傷だ。幼いころ、確かに見た。

 派手な料理ではない。けれど、手元だけで時間のかけ方がわかる。

『熱いうちではなく、香りがほどけたところで食べてください』

 その声を聞いた瞬間、煌の喉が動いた。

 古い台所の湯気。味噌の甘い匂い。まだ温かいおにぎり。

「……彼女だ」

 アカウント名は『糀ごよみ』。

 煌はタブレットを受け取った。

「今すぐ、彼女についてすべて調べろ」

 その低い声が、いつか糀を最愛の人と呼ぶ声になることを、この時の彼女はまだ知らない。

***

 同じ日の午前、瀬川糀は写真館の前で足を止めた。

 結婚して八年。ようやく、夫の修司とウェディングフォトを撮る日だった。

 結婚当時は余裕がなかった。式も写真も後回しにした糀に、修司は言った。

『仕事が落ち着いたら、一番いいプランで撮ろう』

 その約束を、糀は八年も大事にしまっていた。

 数日前、糀が「そろそろ写真、撮りに行こう」と言ったとき、修司は珍しく機嫌がよかった。

『いいよ。ちゃんと予定を空ける』

 普段なら、仕事の返事みたいに短く終わる。結婚記念日に何を作ろうか話しても、返事だけして、ほとんど聞いていない。

 それなのに、その日だけは違った。

 今朝も修司は「必ず行く」と言った。糀はそれだけで、とても嬉しかった。直前に《仕事の用事が入った。先に行って》と届いても、疑おうとは思わなかった。

 先に着替えて待っていればいい。

 今日こそ、八年越しの約束を写真に残せる。

 糀はシンプルなドレスに袖を通した。

 「少し遅れるくらい、いつものこと」

 鏡の中の自分に、小さく言い聞かせる。

 薄く整えた髪は、少しだけ乾いて見えた。目鼻立ちは、近所でも美人だと評判だった母によく似ていると言われたけれど、今は台所に立つ時間の方が長く、肌の手入れも後回しだった。

 少し手をかければ変わるのかもしれない。でも、今の糀には、その少しの時間もなかった。

 本当は、今日くらい綺麗に見られたかった。

 約束を忘れたわけじゃない。時々、仕事で流れるだけ。話しかけても上の空の夜はあるけれど、八年も夫婦をしていれば、きっとこんなものだ。

「あの……もしかして、『糀ごよみ』を管理されている方ですか?」

 隣で待っていた若い女性が、遠慮がちに声をかけてきた。

 糀は反射的にスマートフォンを伏せた。開いていた投稿編集画面の端に、アカウント名が見えていたらしい。

「見えてしまって、ごめんなさい」

 女性は慌てて頭を下げ、少し笑った。

「この前の小松菜のごま酢浸し、作ってみたんです。簡単なのにおいしくて、栄養もあって。ああいうメニュー、素敵ですね」

「ありがとうございます。家にあるもので作れるものばかりですけど、そう言っていただけると嬉しいです」

 糀が驚いていると、女性は本気で残念そうに続けた。

「でも、上級編で載せていらした甘酒トマトドレッシングは、発酵の加減が難しそうで。あれ、売らないんですか?」

 その言葉に、胸の奥が少しだけ明るくなった。

「売ることまでは、考えたことがなくて」

 そう言いながらも、小さなラベルを貼ったドレッシングが、いつか知らない誰かの冷蔵庫に並ぶ。そんな光景を想像すると、自分の料理が家の外へ届く未来を、初めて信じられる気がした。礼を言い、膝の上のドレスをそっと撫でる。今は、八年越しの約束を写真に残すことだけを考えた。

 糀ごよみは、家で褒められない料理を、初めて誰かが待ってくれた場所だった。フォロワーは十万人を超え、広告収益や小さなPR依頼で月に数万円ほど入る。稼ぎというより、自分の料理を誰かに見てもらえている証拠だった。

 家では古臭いと言われる料理が、外では誰かに食べたいと言われている。その事実だけで、糀は今日の寂しさを我慢できた。

 けれど、修司は来なかった。

 仕事が長引いているだけならいい。事故にでも遭っていないかと心配する一方で、こんな大事な日を忘れられていたらどうしようという不安が消えなかった。

 スマートフォンはマナーモードにしていなかった。それでも糀は数分おきに画面を確認した。

 けれど、新しいメッセージは一向に届かなかった。

 三時間後、届いたのは短い連絡だった。

《取引先を迎えに行く。今日は無理。また今度でいいだろ》

 謝罪はなかった。

 糀はドレスの膝の上で、スマートフォンを伏せた。謝る言葉さえない短いメッセージを見ていると、自分だけがこの日を大切にしていたのだと思い知らされた。カメラマンが気遣うように、館内の写真を見ますかと声をかけてくれた。糀は口元を整え、「お願いします」と頷いた。

 壁には、これまでの客の写真が並んでいる。笑い合う夫婦。指輪を見せる二人。

 その中の一枚で、呼吸が止まった。

 若い男が、白いドレスの女を抱き寄せている。

 女の腰に回された手。額が触れそうな距離。写真用の演出ではない。夫婦だけが持つ、遠慮のない近さだった。

「……これ、いつ撮られたものですか」

「八年前の今日ですね」

 八年前の六月十五日。

 糀が修司と入籍した、その日付と同じだった。

 まさか。

 そう言おうとした。人違いだと思いたかった。

「……修司さん」

 糀の口から、名前が漏れた。

 カメラマンは写真を覗き込み、少し考えた。

「修司さん……? ああ、たしかそういうお名前でしたね。お知り合いですか?」

 糀は、返事ができなかった。

 写真の中で別の花嫁を抱いていた男は――自分の夫だった。

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Sandra Saint Jean
Sandra Saint Jean
Bien.. belle histoire.
2025-12-01 18:56:03
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