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第110話:二人の目覚め

作者: 渡瀬藍兵
last update 最終更新日: 2025-11-09 22:00:00

**────エレナの視点────**

次の日。

「みなさん!!!!本当にご迷惑をおかけしました!!!」

「本当に面目ねぇ……!!!今回迷惑かけた分は、必ず挽回するぜ!」

二人が目を覚ましたんだ。

あんなに傷だらけで、ずっと目を覚まさなかったグレンさんも元気になって、本当に良かったと思う……。

でも……。

聞かないといけない。

二人に、何があったのか。

「それより……二人に何があったんですか?なんで……グレンさんはあんなに傷だらけだったんですか……?」

私がそう尋ねると、グレンさんが急に口を噤んでしまう。

数秒の重い沈黙が部屋を支配すると、やがて言いにくそうにグレンさんが口を開き始めた。

「お前たちが情報収集に行った数時間後、とんでもなく強い奴が現れたんだ」

「とんでもなく強い奴?」

シイナさんの声に、緊張が走る。

「ああ。全身に見たこともない鎧を着て、刀を使っていた」

(見たこともない鎧に刀……か)

エレンの声が、意識の奥で静かに響く。

「そいつは……全く俺の攻撃が通じなかった」

「なに!?グレン、お前の攻撃がか!?」

シイナさんは心底驚いたような様子を見せる。グレンさんの実力を知っている彼だからこその驚きだった。

(…………)

エレンが沈黙している。何かを考えているみたいだ。

「ああ、正直全く底が見えなかったぜ。戦ってる感触としては……エレンに近かったかもな」

「エレンに……?」

私の声が震える。エレンと同じくらい強いなんて……。

「それは……かなり厄介そうですね」

シオンさんの美しい顔に、珍しく深刻な表情が浮かんでいる。

「厄介なんてもんじゃねぇよ。あいつは俺の攻撃を全部受け止めやがった」

グレンさんは、私たちのパーティ内でも屈指の攻撃力を持つ
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