エドガーと特に何か話すでもなくやってきたのは家の中にある食堂だ。
そこにはすでに他の兄弟たちも来ており、私たちが着いた時には席に座って私たちを待っている状態だった。「咲良、おはよう。昨日はよく眠れたか?」
まず私にそう声をかけてきたのは長兄、ヘンリーだ。
相変わらず何を考えているわからない笑顔で私を見つめるヘンリーにもうすでに思うところがあるがぐっとそれを堪える。ほぼ小屋のような埃っぽい場所によく客人を招いたな、と言葉が出そうになるが我慢だ。
「おかげさまで。昨日はありがとう」
「それはよかった。昨日と少々顔が違うから何かあったのかと思ったよ。昨日はもう少し落ち着いた雰囲気に見えたからな」
「ふふふ、ご心配どうも。何もなかったですよー」
にっこりと笑う私に少しだけ安心したように笑うヘンリーに殺意が湧く。
顔が違うって化粧のこと言ってるよね?
化粧詐欺師で悪かったな!おい!「それでは食事の前に自己紹介といこうか」
ヘンリーに挨拶をした後、私が席についたタイミングを見てヘンリーが兄弟たちにそう声をかける。
そしてヘンリーを含む兄弟たちの自己紹介が始まった。「まずは俺だな。昨日も言ったがもう一度。俺の名前はヘンリー・ハワード。ハワード家の長男だ」
最初に口を開いたのはヘンリーだ。にっこりと笑っているが腹では何を考えているかわからない、何なら目までは笑っていないところが怖い。
「俺は次男のエドガー・ハワードだ。お前の不本意だが世話係にされた哀れな男だよ」
次に口を開いたのはエドガーだった。本当に嫌そうな顔で天を仰ぐ姿は美しいし絵になるが普通に腹が立つ。
こちらもこんな男では哀れである。
被害者面すんな!「…三男のギャレット・ハワード。話しかけてくるなよな、人間」
エドガーの次に口を開いたのは暗そうな印象のあるギャレットと名乗る男だった。ギャレットはこちらをチラリと見て、すぐに視線を逸らす。
深緑色の真っ直ぐな髪と灰色の瞳。おまけに顔も綺麗で見た目は暗さを吹き飛ばす勢いで派手で明るい。
悪魔はカラフルな瞳だけではなく綺麗なことも条件なのだろうか。
「はいはーい。次僕ね!四男のクラウス・ハワードだよ!いろいろ仲良くやっていこーね!夜とか特に!」
次に口を開いたのは明るい笑顔が印象的なクラウスと名乗る男だった。
妖艶に微笑み私にウインク&投げキスをする姿にどんなに美しくても思わず鳥肌が立つ。ふわふわの柔らかいゆるくセットされた金髪にローズピンクの瞳。すごく甘いマスクでこの顔なら女の子はみんな落とされるだろうが遊び人オーラがすごい。
近寄りたくないタイプだ。
「…五男のバッカス・ハワードだ。よろしく」
最後に口を開いたのはバッカスと名乗る男だった。必要最低限のことしか口にせずさらには無表情な彼は正直ヘンリー並みに何を考えているのかよくわからない。
赤茶色の短髪に深い紺色の瞳。その瞳にはあまり感情を感じられない。
他の兄弟と同じように整った顔立ちをしている。ギャレット、クラウス、バッカス、共に大学生から高校生に見える見てくれで私やヘンリーより年下に見えた。
つまり私がこれから〝良好な関係を築かなければならない特級悪魔の兄弟〟とはこの5人の美形のことである。
挨拶だけでも癖しか感じないのだが。 不安しかない。「これからこちらでお世話になります。桐堂咲良と申します。どうぞよろしくお願いします」
不安な気持ちを抑えながらも私はヘンリーとした挨拶のように機械的に笑顔で挨拶をした。
「では自己紹介も済んだことだし朝食としよう」
私の挨拶も終わりヘンリーがそう言うと何人もの使用人さんらしき人が現れてどんどんテーブルの上に一人一人のご飯が運ばれ始める。
ヘンリー、エドガー、ギャレット、クラウス、バッカスと順に少しずつ違う豪華な料理が並ぶ。
あれは兄弟一人一人の好みによって違う内容なのだろうか?
ヘンリー、クラウス、ギャレットは割と朝食っぽい軽い感じのメニューに見えるが、エドガーはまるでお子様ランチのようなラインナップのプレートだし、バッカスに至ってはそれを本当に一人で食べるのか、と疑問に思う量が置かれている。
私にはどんなメニューが来るのだろう。少しワクワクした思いで朝食を待っているとついに私の前に朝食の皿が置かれた。
「…っ!」
こ、これは!
衝撃の朝食内容に思わず固まってしまう。お皿の上には見たくもないほどの量の虫と何だがよくわからない野菜。
いわゆるゲテモノ料理だった。どこの国の料理だか知らないがこれは食べられない!
虫が虫の姿のまま料理されているのはキツい!「…咲良?食べないのか?」
ゲテモノ料理の前で固まっていると不思議そうにだがどこか楽しそうにヘンリーが私に問う。
よく見ると他の兄弟たちもどこか意地悪そうな顔をして私を見ている。え?これまさか悪意?
「…今日はあまり体調が優れないのでご飯を食べられないんです」
食べられないわ!と強く言ってやりたかったがそう言う訳にもいかないので私は何とか誤魔化すように笑ってヘンリーに答える。
ちゃんと笑えている自信はないが。
「そうか。咲良が我が家に来ることを聞いて人間界の料理について調べ、作ってもらった料理だったのだが、残念だ。ふるさとの味が恋しいだろう?」
残念そうに笑うヘンリーを見て心の中で叫ぶ。
一体人間界のどこの地域のふるさとの味なのだ!と。間違いなく日本ではない。 どこかの部族のふるさとの味だ!「…恋しいですね。日本料理ですが」
ここはサラリと訂正しておこう。
笑顔のヘンリーにこちらも笑顔で対応する。2人とも笑顔だが流れる空気はあまりよくない。
間違いなくヘンリーも人間である私が嫌いなのだ。こんな兄弟と一体どうやって良好な関係を築けというのだ。
私たちのやり取りを聞きながらエドガーは大笑いし、ギャレット、クラウスはクスクスと笑っていた。
バッカスは特に気にすることなくご飯を平らげているようだった。 昨日の夜から今朝まででわかったことが一つある。この兄弟は癖が強すぎる上に間違いなく性格が歪んでいる!
side咲良魔界にやって来て1週間が経った。私は今日も栄養失調で倒れることなく、元気にやっている。これも全てミアとユリアさんのおかげだった。決してたった今留学の決まり事の為に共に晩ご飯を食べている5兄弟のおかげではない。むしろ彼らは私をずっと放置している。初日からずっと。…エドガー仕事しろよ。まあ、放置されている分自由にできるからいいんだけど。「咲良、今日も食欲がないのか?」「まぁ、うん。そう」今日も今日とて一切晩ご飯に手を付けようとしない私を不思議そうに五男バッカスが見つめる。相変わらず無表情なので何を考えているかわからないが逆に言えばヘンリーのような意地の悪さを感じず気分を害されることもない。 「じゃあ俺が食べる」「…え?まだ食べるの?しかもその…」ただでさえめちゃくちゃな量を1人で平らげているのにまだ食べようとするバッカスに思わず笑顔が引き攣る。そのついでにこの料理たちのことを〝ゲテモノ〟と呼びそうになったがそれはぐっと堪えた。この料理たちはあくまでヘンリーが私を思って好意で作らせている料理だから表立って悪口は言えない。そうこう考えている内にいつの間にかバッカスは私のお皿を取り、その中身を全て平らげていた。バッカスの閉じられた口の中から、バキバキと音が鳴るたびに鳥肌が立つ。いくら食べることが好きだからってあんなものまで平らげるとは恐ろしすぎる。「咲良はここに来てからずっと体調が悪いな。しっかり休めているのか?」バッカスの食べっぷりをげっそりしながら見ていると、今度は品はあるが意地の悪い笑みを浮かべている長男ヘンリーに声をかけられた。はい、今晩も始まりますよー。ヘンリーと腹の探り合いタイム。「ええ、まあ。慣れない環境なのが大きいのかな…」「そうか。俺はテオに咲良を任されているからな。何かあればいつでも言ってくれ」「…ありがとう。とりあえず日本料理が食べたい…です」「ああ。料理長にそう伝えておこう」笑顔のヘンリーに私もいつものように笑顔で返す。ヘンリーの思ってもいない言葉に私はすぐにでも反論したかったがそれをまたぐっと堪えた。ヘンリーは善人面をしてあんなことを言っているがこれはいつも言っていることで私の願いなど一度も聞いたことなどない。いつもいつもいつも!日本料理が食べたいと言っているのに出てくる
そしてあっという間に放課後になった。今日は一日中兄弟たちと同じ教室で座学を受けていたが朝のエドガーとの交流以外特に彼らと交流することはなかった。それよりも悪魔の学問とは一体なんだ!一応短大まで学んできた身だが内容が一切理解できない。人間と学ぶことが根本的に違いすぎる。魔法学とか魔界歴史学とかならまあ言葉だけだがわからないこともない。だが契約学とか生物欲望学とかその辺になると訳がわからない。そもそもこれを真面目に受けることが果たして正解なのか?「…」本日一日の文句を心に秘めながら帰り支度をする。学院から家への道は兄弟の誰かが送迎することになっているらしい。そうヘンリーが言っていた。だがもうこの教室には兄弟の誰もいない。そもそも兄弟の誰かというよりも買収されて私の世話係になったエドガーがちゃんと報酬分働くべきなのでは?もちろんエドガーもこの教室にはもういない。ちゃんと報酬分働けー!バカ野郎ー!そう思ったが仕方ない。朝来た道を帰ればよいのだと気にしないことにした。それに誰もいない方がこちらも好都合だ。とりあえず今朝見た求人の喫茶店に今すぐ向かおう!お腹が減って死にそう!私は気を取り直して求人広告に書いてあった喫茶店に向かうことにした。街行く人たちに場所を聞きながら。そうして素敵で親切な人に恵まれた私は割とすぐに喫茶店ナイトメアに着いた。喫茶店ナイトメアの外観はピンクと白で統一されており、ものすごく可愛い。早速ここで働かせてもらう。そう思って扉に手をかけようとした時だった。「もしかしてバイト希望の子?」少しだけハスキーな声に後ろから声をかけられたのは。「はい、そうです」何とタイミングがいいのだろうと私は振り向く。するとそこには可愛らしいメイド服に身を包んだ女の子が立っていた。ハスキーな声の感じ的に少年くらいだと思ったがどうやら私の後ろに立っていたのは美少女だったようだ。明るいふわふわのピンク色の髪はまとめてポニーテールされており、私を見つめる瞳は青色でまるでビー玉のようだ。年齢はおそらく中学生から高校生くらいの年齢だろうか。とんでもなく美少女で愛らしい彼女だが何故か見覚えがある。んー?こんな美少女すぎる知人いたかな?「表からだと目立ってしまうからこっちから入って!お話聞かせて!」美少女をまじまじと
「あー。お腹空いた」「はぁ?お前体調悪いから飯食えねぇんだろ?」朝食後、一応朝らしいが全く太陽の出ていない薄暗い街を私の世話係らしいエドガーと共に学院へ行くために歩く。思わずポツリと出た私の本音にエドガーは眉間にしわを寄せた。おっといけない。そう言えばそうだった。よく考えれば昨日の昼から私はご飯を食べていない。いろいろあって忘れていたが流石にお腹が空いてくる。「だいぶ回復してきたの。昼食はどうすればいいの?」私を変なものでも見るような目で見るエドガーに適当にそう言って私は昼食のことをエドガーに聞いてみることにした。流石に一日断食はキツい。そろそろ固形の何かをお腹に入れたい。「あ?そんなもん学院の食堂で食べるかその辺の売店とかで買って食べるかだろ」「…食堂ってまさかお金いる?」「人間の食堂は無料で飯食べれるのか?」「まあ、食べられないところの方が多いかな」「ふーん。学院の食堂は有料だ」魔界の金なんてないのだが?エドガーのめんどくさそうな昼食の説明を受けて心の中で私は思わずきつめにツッコミを入れた。こんなにも違う文明、生物なのに通貨だけ日本円だとは考えにくい。人間の世界の中だけでも数えきれないほどの通貨が使われているというのに。このままでは兄弟たちと良好な関係を築く前に餓死エンドだ。働かなければ。せめて自分の食だけでも自立できるように。そんなことを思いながら街を歩いているとふとある求人の広告が目に留まった。「ちょいちょい。エドガー。ストップ」「あ?」求人の広告をよく見たいので私を学院へ連れて行かなければならないエドガーを止めて求人の内容を確認する。エドガーは不満そうだが無視だ。人間メイド喫茶店、可愛い子募集中!賄い付き!時給2000ペールから!求人にはそう書かれてあった。「…」これ人間である私に向きすぎな案件じゃない?「エドガー。時給2000ペールってどうなの?」「ん?そりゃあ随分いい時給だろ。働くのか?」「…まぁ」「じゃあ俺がもっといい時給の仕事紹介してやるから取り分半分寄越せ」「はぁ?」私に背を向けたまま一応私を待っているエドガーに時給のことを聞いてみるとエドガーがどこか悪そうな笑みを浮かべてこちらに振り向く。そんなエドガーの台詞に私は思わず呆れた声を出した。何で取り分半分も渡さなければい
エドガーと特に何か話すでもなくやってきたのは家の中にある食堂だ。そこにはすでに他の兄弟たちも来ており、私たちが着いた時には席に座って私たちを待っている状態だった。「咲良、おはよう。昨日はよく眠れたか?」まず私にそう声をかけてきたのは長兄、ヘンリーだ。相変わらず何を考えているわからない笑顔で私を見つめるヘンリーにもうすでに思うところがあるがぐっとそれを堪える。ほぼ小屋のような埃っぽい場所によく客人を招いたな、と言葉が出そうになるが我慢だ。「おかげさまで。昨日はありがとう」「それはよかった。昨日と少々顔が違うから何かあったのかと思ったよ。昨日はもう少し落ち着いた雰囲気に見えたからな」「ふふふ、ご心配どうも。何もなかったですよー」にっこりと笑う私に少しだけ安心したように笑うヘンリーに殺意が湧く。顔が違うって化粧のこと言ってるよね?化粧詐欺師で悪かったな!おい!「それでは食事の前に自己紹介といこうか」ヘンリーに挨拶をした後、私が席についたタイミングを見てヘンリーが兄弟たちにそう声をかける。そしてヘンリーを含む兄弟たちの自己紹介が始まった。「まずは俺だな。昨日も言ったがもう一度。俺の名前はヘンリー・ハワード。ハワード家の長男だ」最初に口を開いたのはヘンリーだ。にっこりと笑っているが腹では何を考えているかわからない、何なら目までは笑っていないところが怖い。「俺は次男のエドガー・ハワードだ。お前の不本意だが世話係にされた哀れな男だよ」次に口を開いたのはエドガーだった。本当に嫌そうな顔で天を仰ぐ姿は美しいし絵になるが普通に腹が立つ。こちらもこんな男では哀れである。被害者面すんな!「…三男のギャレット・ハワード。話しかけてくるなよな、人間」エドガーの次に口を開いたのは暗そうな印象のあるギャレットと名乗る男だった。ギャレットはこちらをチラリと見て、すぐに視線を逸らす。深緑色の真っ直ぐな髪と灰色の瞳。おまけに顔も綺麗で見た目は暗さを吹き飛ばす勢いで派手で明るい。悪魔はカラフルな瞳だけではなく綺麗なことも条件なのだろうか。「はいはーい。次僕ね!四男のクラウス・ハワードだよ!いろいろ仲良くやっていこーね!夜とか特に!」次に口を開いたのは明るい笑顔が印象的なクラウスと名乗る男だった。妖艶に微笑み私にウインク&投げキスをする姿にどんなに美し
夢ならば覚めて欲しいと何度も願った。だが目覚めて周りを何度見渡しても、そこに広がっていたのは見慣れた私の部屋ではなく、見慣れない薄汚い小さな部屋だった。はーい!私、桐堂咲良!24歳!社会人4年目!今日も元気に会社に出社しまーす!と言えないのが現状だ。昨晩のことは夢ではなかった。目を覚まして部屋の中を何度も何度も歩いて改めて私は今の状況を飲み込んだ。それからとりあえずいつものように身支度を整え始めた。顔を洗った後カバンにたまたま入っていた携帯用のスキンケア用品で何とか肌を整えて制服に着替える。赤と黒のブレザーの制服を着た感想はコスプレだ。24歳ではとてもじゃないが着こなせない。不満しかないが仕方ないのでそのまま今度はメイクを始める。これもまたカバンにいつも入れていた必要最低限のメイク用品で顔を仕上げた。鏡に映る私を改めて見つめる。昨日出会った魔王やヘンリーのように真っ赤ではなく日本人らしい真っ黒な見慣れた瞳がこちらを休んだにも関わらず疲れた目で見ている。胸まである栗色の直毛は癖ひとつなく正直時間のない朝には助かる髪質だ。直毛すぎて巻き髪とかはあまり楽しめないけれど。もちろん地毛は黒だ。染めている。「…はぁ」今日の化粧のできに思わず朝からため息が溢れる。もっと大人っぽい化粧が好きなのだが、今手元にあるものではこのくらいの化粧しかできない。化粧により完成した顔は少しだけ背伸びをした幼さの残る女の顔だった。私の持ち物はカバンの中にあったものが全てだった。基礎化粧品とスマホとスマホの充電器と財布。後は仕事に必要なものとかお父さんに無理矢理持たされている塩とか。こんなことになるならもっとちゃんとしたものを持っていたのに。ガンガンガン!と突然扉の外から非常に激しく扉を叩かれ、思わず私は肩を揺らす。ただでさえ壊れそうな扉が今にも破壊されそうな勢いだ。「おおい!人間!朝だぞ!この俺様エドガー様が迎えに来てやったぞ!1秒たりとも俺を待たせるんじゃねぇ!今すぐ出て来い!」扉の向こうから苛立った様子のエドガーと名乗る男の声が聞こえる。それと同時にずっと破壊しそうな勢いで扉も叩かれる。壊さないでくれ!そう思った私は急いで扉の方へ向かい、扉を開けた。「おうおうおう!人間!俺様を待たせるとはどういう了見してんだ?おい!」扉を開くとそこに
「失礼するぞ、テオ」大きな扉が開かれ、そこに立っていた美青年が自称魔王に淡々と声をかける。短すぎず長すぎない綺麗な丁寧にセットされた漆黒の黒髪に、切れ長の赤い瞳。彼も自称魔王に負けず劣らずとても美しいがこちらを黙って見つめる姿は氷のように冷たい。年齢は私と同じくらいかその落ち着いた雰囲気から年上にも見える。何だこの世界。イケメンであることとカラフルな目であることがここに住む条件なのか?「待っていたよ、ヘンリー。紹介するよ、彼女が今回の留学生だ」「…?」おっと?美しいが冷たい印象の少年…自称魔王がヘンリーと呼ばれた男に声をかけられた瞬間柔らかく笑う。先程まで冷たい表情しか浮かべていなかったのでそのギャップに思わず自称魔王を二度見した。え?二重人格?人変わりすぎじゃない?「初めまして。俺の名前はヘンリー・ハワードだ。今日から君の留学生活をサポートするハワード家の長男でもある」こちらに歩み寄り、微笑みながらも右手を出してきたヘンリーの手を私は取る。「初めまして。この度学院に留学させて頂くことになりました、桐堂 咲良と申します。これからいろいろとお世話になります。どうぞよろしくお願い致します」そして私もヘンリーと同じように微笑んだ。まるで取引先との挨拶である。お互いに営業スマイルが板についている。「敬語など必要ない。俺たちはこれから共に過ごすのだから。遠慮はしないで欲しい。よろしく、咲良」「わかった。よろしく、ヘンリー」社交辞令をお互い交わしたところで手を離す。なーんかこのヘンリーって人、すごく胡散臭い感じがするんだよね。いい人ではなさそうな感じがすごくする。「咲良、彼は私の右腕でもある優秀な悪魔だ。困ったことがあれば何でも彼に聞くといい。ヘンリー、彼女にはまだ何も説明してやれていない。帰る道中にでも説明をしてくれ」私たちの挨拶が終わったタイミングを見て自称魔王が私、ヘンリーと順番に声をかけ微笑む。なーにが!〝咲良〟だ!さっきまで〝お前〟だったでしょうが!やはり二重人格確定!「わかった。じゃあ行こう、咲良」「うん」自称魔王に慣れた様子で返事をし、私に声をかけてからヘンリーが歩き始める。私はそんなヘンリーの後を追うように一緒に歩き始めた。ちらりと謁見の間のような部屋から出る前に自称…いや自称ではなくおそらく魔