一年前の五月、ゴールデンウィーク明け。
大学前の公園の桜がすっかり葉桜になり、新緑が色濃く萌える頃。
理玖は慶愛大学にやってきた。
慶愛大学医学部医学科自然健康科学群内分泌内科WO専攻講師。
国立理化学研究所の研究員だった向井理玖が新たに得た肩書だ。
(学術機関での研究ってどうなんだろう。大学はどこの国でも資金難で研究自体が難しくなってきているけど)
最近、注目を集めるWO研究と言えど、不景気な社会で最初に削られる経費には違いない。理研でそれなりに自由にやりたい研究をさせてもらえていただけに、不安なところだ。
(それ以上に、講師ってどれくらい学生と関わるのかな。日本の大学って、よくわからない)
高校を飛級してロンドンのカレッジで医師免許を取得し、院で|博士《ドクター》まで習得した理玖には、日本の学校のシステムが実感としてわからない。
(あまり深い関わりは、したくない。距離が近付けば、バレる率も上がる)
学生であろうと職員であろうと、一定の距離感を保っていたい。onlyだとバレる