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第5話

Author: スズリ
先に口を開いたのは、胡桃だった。

「千佳さん、突然お邪魔してすみません。これ、私からのお土産です」

口調はやわらかで下手に出ているのに、私を見る目は勝ち誇っていた。

私は彼女を無視して、袋を掲げたままの彼女を放っておいた。

でも、彼女のそばにいた子供が、いきなり私のお腹めがけて突進してきた。

「悪い女!ママをいじめるな!出ていけ!」

私の足にぶつかる寸前で、颯太が険しい顔でその子をぐっと引き留めた。

「誰がそんな口の聞き方を教えたんだ?」

彼はまるで厳しい父親のようだった。残念なことに、教えている相手は、私たちの子どもではなかった。

陸は彼の剣幕に怯えて、泣きながら颯太の母親である福田玲奈(ふくだ れな)の胸に飛び込んだ。

潔癖症のはずの玲奈は、その子がオーダーメイドのワンピースに鼻水をこすりつけるのを、なすがままにさせていた。

そして、その子の背中を優しく撫でてあやしていた。その目には責めるような色はなく、ただただ孫を可愛がる愛情だけがあった。

玲奈も、知っていたんだ。

福田家はみんな、とっくの昔に知っていたんだ。

胡桃が不機嫌な顔をした。颯太は彼女を自分の隣に座らせると、私の隣にぴったりとくっついて座った。

「胡桃ちゃんはまだ若いし、初めての母親なんだ。彼女たちのことを、もう少し理解してあげてほしい」

幸せそうな家族の光景を見つめながら、私の心はどんどん冷えていく。私は無表情でカバンから数枚の書類を取り出し、彼に差し出した。

颯太はそれを受け取ると、中身を確かめもせずに、私が指し示す箇所に、迷うことなくサインをした。

「これからは、買いたいものがあったらカードを使いなよ。わざわざサインなんていらないから。

俺の金は、全部お前のものだ。好きに使えばいい」

玲奈も陸をあやし終え、気まずそうに私に笑いかけた。

「そうそう。これから颯太があなたを怒らせたら、どんどん彼のお金を使いなさい。

千佳ちゃん、陸はまだ何も分からないのよ。だから、大目に見てあげて。

あなたが颯太の妻であることは、これからも変わらないわ。でもね、福田家には後継ぎも必要なの」

一見、慰めているような言葉だったけど、そこにははっきりと非難の色がこもっていた。

福田家に跡継ぎを産んであげられないことを、責めているんだ。

でも、玲奈は知らない。そもそも結婚した時、子どもはいらないと言ったのは颯太の方だった。

私が何も言わないでいると、今度は胡桃がうつむいてすすり泣きを始めた。

「ごめんなさい、千佳さん。陸のしつけができていなくて……私のことなら、叩いても罵っても構いませんから」

そう言いながら、彼女は私の手を取って、無理やり自分の頬に打ち付けた。

私はとっさに手を振りほどいた。すると彼女は、急に床に崩れ落ちた。

その場にいた全員が慌てた。中でも颯太は血相を変え、私を突き飛ばすと、胡桃を抱きかばった。

私は体勢を崩し、後ろのテーブルに腰を強く打ちつけた。突き刺すような痛みが走り、そのまま床に座り込んでしまった。

颯太はそこでようやく、自分が何をしたのかに気づいた。彼は慌てて胡桃を離すと、私を助け起こそうと駆け寄ってきた。

だけど私の体は氷のように冷え切っていた。彼を突き飛ばして自分で立ち上がると、さっきサインされたばかりの書類を、もう一部彼の手のひらに押し付けた。

「颯太、離婚しましょう!」
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