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5◇夜這い

Author: 設樂理沙
last update Last Updated: 2025-12-19 22:57:28

 じらさないで、早くその先を……と思いつつ、何も言わず水谷さんの

次の言葉を待つ。

 信じられないその女は何と?

 聞きたくないことを聞かされるのではないかという怖さ、不安を抱え

ながら、それでもやっぱり早くその続きを……と私は思ってしまった。

          ◇ ◇ ◇ ◇

「実は大倉さんに夜這いしてたんですぅ。ふふっ。

 だけどぅ『お前ここで何やってんだぁ、自分の部屋に戻れ!』って

追い出されたんですよね。

 んでぇ、一度はこの部屋に戻って寝ようとしたんですけど

私ぃ、あきらめらんなくてぇ。

 だってこんな同じホテルにお泊りできるチャンスは、またあるかもぉ

だけど、大倉さんがひとりっていうチャンスは、もう来ないかもしれない

じゃないですか。

 そう思うと、最後のチャンスなのにこんなに簡単に引き下がれないって

思って、もう一度部屋に入ったんですよ。

 そしたら大倉さん可愛い顔して爆睡中でした。

 もう嬉しすぎて私……大倉さんの横に入って朝まで一緒の布団で寝てま

した。

 あ~、あたし めっちゃ幸せ~」(はーと)

 

「――って馬場さん悪びれもせず、そう言ったんです」

「『朝起きた時、大倉係長は何て言ったの、あなたに……』

って、彼女に聞きました」

「あははっ、むちゃくちゃ驚いてましたけど……こういうの

後の祭りっていうの? 

 あはは、思い出したらまたおかしくなってきちゃったぁ。

 『早く自分の部屋に戻れ』って言われました。

 ちょっと焦ってたかもぉ。

 まぁ、一緒に寝ただけでなんもありませんでしたけどね。

 でも、大満足」

          ◇ ◇ ◇ ◇

「馬場さんの話に、私は、もうすごく脱力しました。

 何もなかったようなので、逆に私も奥さんにあの日のことを

こうやってお話できるんですけどね」 

「そんなことがあったんですかぁ~」

 何もなかったようだと言われてもなんだかなぁ~、すごく嫌な気持ち。

 それはその馬場という人にもだけど、あまりにも無防備な夫に対しても。

 夫は確かに悪くないと思う。

 据え膳に手も出さなかったわけだし、水谷さんの解釈通りならね。

 だけど……だけど、何か釈然としないわ。

 もやもや感が半端ない。

「まだお話に続きがあるんですけど、大丈夫でしょうか?」

 へっ、まだ続きがあるンかい?

 思わず心の中で突っ込んじゃったよ。

 そう声をかけてくれた彼女は話の続きを語り始めた。

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