เข้าสู่ระบบじらさないで、早くその先を……と思いつつ、何も言わず水谷さんの
次の言葉を待つ。信じられないその女は何と?
聞きたくないことを聞かされるのではないかという怖さ、不安を抱え
ながら、それでもやっぱり早くその続きを……と私は思ってしまった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 「実は大倉さんに夜這いしてたんですぅ。ふふっ。だけどぅ『お前ここで何やってんだぁ、自分の部屋に戻れ!』って
追い出されたんですよね。んでぇ、一度はこの部屋に戻って寝ようとしたんですけど
私ぃ、あきらめらんなくてぇ。だってこんな同じホテルにお泊りできるチャンスは、またあるかもぉ
だけど、大倉さんがひとりっていうチャンスは、もう来ないかもしれない じゃないですか。 そう思うと、最後のチャンスなのにこんなに簡単に引き下がれないって 思って、もう一度部屋に入ったんですよ。そしたら大倉さん可愛い顔して爆睡中でした。
もう嬉しすぎて私……大倉さんの横に入って朝まで一緒の布団で寝てま した。あ~、あたし めっちゃ幸せ~」(はーと)
「――って馬場さん悪びれもせず、そう言ったんです」
「『朝起きた時、大倉係長は何て言ったの、あなたに……』
って、彼女に聞きました」 「あははっ、むちゃくちゃ驚いてましたけど……こういうの 後の祭りっていうの?あはは、思い出したらまたおかしくなってきちゃったぁ。
『早く自分の部屋に戻れ』って言われました。ちょっと焦ってたかもぉ。
まぁ、一緒に寝ただけでなんもありませんでしたけどね。でも、大満足」
◇ ◇ ◇ ◇
「馬場さんの話に、私は、もうすごく脱力しました。 何もなかったようなので、逆に私も奥さんにあの日のことを こうやってお話できるんですけどね」 「そんなことがあったんですかぁ~」 何もなかったようだと言われてもなんだかなぁ~、すごく嫌な気持ち。 それはその馬場という人にもだけど、あまりにも無防備な夫に対しても。 夫は確かに悪くないと思う。据え膳に手も出さなかったわけだし、水谷さんの解釈通りならね。
だけど……だけど、何か釈然としないわ。
もやもや感が半端ない。「まだお話に続きがあるんですけど、大丈夫でしょうか?」
へっ、まだ続きがあるンかい? 思わず心の中で突っ込んじゃったよ。 そう声をかけてくれた彼女は話の続きを語り始めた。いや、確かに彼が自分に(単身赴任を8年し、帰宅してみたら俺の妻が 元妻になって彼の妻になっていたという、あの別ワールドとしか言うこ とのできない)あのコトについて話しかけてきたのは現実のことだと思う。 そっか、やっぱり。 あちらの世界も続いているんだ。 あっちで寂しい生活を送っている俺のことは気に掛かるが、 どうしようもない。 また日常の忙しさにかまけて妻に寂しい思いをさせたり蔑にしたりすれば、 あちらの世界に戻されそうな気がする。 もうすでにあちらに俺が存在するのなら、こんな言い方は変だが。 とにかく俺は今ある幸せを大事にしようと思った。 当たり前にある幸せは、当たり前じゃないのだから。 ◇ ◇ ◇ ◇ それなのに、やっぱりこちら側でも気が付くと俺は妻から離婚を 突きつけられ、独りに戻った。 喧嘩などなかったじゃないか。 家族サービスも頑張った。 できる時は、ちょっとした家事なども手伝ったし。 それなのに何がいけなかったというのだろう。 結局はこちらでも離婚されてあちら側と同じに なってしまい、笑うしかなかった。 最初離婚された時は、幸いなことに由宇子の不満とその呟きを 思い出したことで、こちら側に飛んでこれた。 だが、今回は原因が分からない。 どこが不満なのか教えて欲しいと俺は由宇子に問うた。 今回も由宇子は聞こえるか聞こえないかの声音で呟いた。 「蛇の生殺し。 あなたといると蛇の生殺しなの。 だからもう耐えられない」「どういうこと? 何のこと?」 だが、元妻は頑として口を割らなかった。 理由が分からないので修復のしようがない。 そのせいか? もう俺は2度と由宇子や子供たちと暮らす新しい別ワールドへ飛んでいく ことはできなかった。 その後、俺は誰とも再婚しなかった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 還暦を迎えたある黄昏時、散歩がてらに寄った公園に腰掛けていると、 子供を遊ばせながら話している小さな子連れの女性ふたりの会話が 聞くともなしに聞こえてきた。 片方の女性が放った言葉が胸に刺さった。 それはずっと長年どういう意味だったのだろうと、苦しい思いで 胸に抱えていた元妻の言葉と同じだったから。 「私、離婚しようと思うの」
夢なのか何なのか、とにかく単身先の俺の8年はなくなり、本来失くしてしまったはずの家族との生活が8年を過ぎていった。 とにかくどちらが現実でどちらが夢なのか――タイムスリップからのパラレルワールドというヤツなのか、いろいろ考えうる思考を働かせてみたが全く見当もつかない。 俺自身の気が変になったって可能性もあるのかもしれないが、俺はこちら側の妻や子供たちと暮らしている世界にずっといたいと思う。 あのぞっとするような地球上で独りボッチになったような感覚に陥った苦しい現実世界には戻りたくなかった。 由宇子のあの時の呟きを思い出そうとした……思い出した俺へのご褒美なんだきっと、と俺は考えた。 俺の意思が反映しているのか、そのまま俺は家族と一緒にいる世界でずっと過ごせている。 今では単身赴任先へ行ったほうの生活こそが夢だったのかと思うほどになっている。 ◇ ◇ ◇ ◇ 夏になって妻の従姉弟が遊びに来た。 相変わらず綺麗な男だ。 昼食の後、子供たちにせがまれた妻が子供たちを連れて近所のロー○ンまで出かけた折、従姉弟の薫くんが言った。「大倉さん、こちら側の世界に来れたんですね、残念。 俺折角由宇子ちゃんと結婚できたのに、フフっ」「えっ?」「大倉さん、あちらの世界のこと覚えてますよね?」「えっ、君は……」「……っていうか、あっちでは由宇子ちゃんと結婚して幸せにやってるので僕はこちらでは我慢しますよ?」「君、何を……その知ってるんだ?」 シレっと恐ろしい? ことを囁いた薫くんは俺の質問に答えることはなかった。 さっきの囁きは聞き間違えで幻聴だったのかと思えるほど、今まで通りの彼で、先ほど俺に意味深なことを話しかけてきた時の顔つきはもう、彼の表情のどこにも見ることはできず、それ以上の会話は望めなかった。
胸に痛みを感じた俺が涙目で顔を上げると、驚いたことに当時の部屋にいて、側には由宇子がいた。 えっ? 俺は夢を見ているのか? 脚を抓《つね》ってみた。 イタイっ! 元妻が言った。「ねぇ、会社からの強制じゃないなら単身赴任は止めてもらえない?私も子供たちを連れて一緒に行ければいいけれど、こちらで自営(税理士)のお客様もたくさんついてるし、子供のこともあるし何年で帰ってこれるかだけでも確定していれば、策も練らられるけれど、それも分からないでしょ? 中途半端でまたこちらに帰ってくることを考えたら、就学時期を跨ぐ形になる子供たちにも大きな負担を強いることになるし――。だからってあなたにすぐにひとりで行かれたら私、不安だわ。 いろいろと……」 あの日と同じ台詞だ。 夢か幻か……エエイっ、夢幻でもいい元妻が俺に不安だと言ってるんだ。 ちゃんと答えろ、オレ。「分かった、わかったよ。 仕事も大事だが君と子供たちが一番大切だからね。 俺も家族とは離れたくない。 すまない、この話しは忘れてくれ。 これまで仕事優先にしてきて申し訳なかったな。 これからもよろしくお願いしたい」「あーっ、よかった」 元妻は涙目で言った。「あなたが単身赴任決めちゃったらどうしようかって思った。 私たちのことを一番に考えてくれてほんとにうれしいわ。 ありがとう。 力一杯お仕事させてあげられなくてごめんなさい。 私のほうこそ、これからもよろしくお願いいたします」 俺たちの間には暖かい空気が流れていた。 どうなってるんだ? 俺は時空の違うふたつの世界を行ききしたのか? それとも単なる夢で、ずっと夢なのか。 そのまま俺は元の家族との夢の中? での生活が続いた。 会社でも俺は単身赴任しておらず、別の者が内定し単身赴任先へと旅立っていた。 ◇ ◇ ◇ ◇ 月日は流れ8年後 そして会社の件の同僚女子は独身のままだ。 このままだと以前というか、別ワールドで単身赴任先から帰ってきた後の彼女との会話も勿論ないのだろう。
それは単身赴任を受ける話をした日の、元妻の姿と反応だった。 俺は妻のことを知らず知らずのうちに、蔑にしてたのだろう。 あの時、由宇子は俺に何かをポソッと呟いてた。 俺はソコを華麗にスルーしていた。 どうして今になってそのシーンが蘇ってきたのだろう。 大事なことだからかもしれない。 俺は由宇子の呟きを思い出そうと努力した。 何度か記憶を手繰り寄せてはその声無き声を聞き取ろう、思い出そうとした。 まずは前後の会話を思い出すことからはじめてみた。 ◇ ◇ ◇ ◇「ねぇ、会社からの強制じゃないなら単身赴任はやめてもらえない? 私も子供たちを連れて一緒に行ければいいけれど、こちらで自営(税理士)のお客様もたくさんついてるし、子供のこともあるし。 何年で帰ってこれるかだけでも確定していれば、策も練られるけれど、それも分からないでしょ? 中途半端でまたこちらに帰ってくることを考えたら、就学時期を跨ぐ形になる子供たちにも大きな負担を強いることになるし……。 だからってあなたにすぐにひとりで行かれたら私、不安だわ。 いろいろと……」*「今までだって単身赴任のようなものじゃないか! 申し訳ないとは思うけど、長時間勤務や出張で子育てには参加できてないし、ただ寝に帰ってるようなものだしね。 心配しなくてもあんまり君たちの環境は変わらないと思うよ?」 あっ、そうだった。 俺のこの台詞のあと、元妻が何かぼそっと言ったんだった。 俺は頭の中で繰り広げられる過去の会話の中の肝心の元妻の次の台詞をじっと待った。「そっか、ならいいや。もういらないや」 あの時は聞く耳持たずスルーしていた元妻の言葉が、すっと耳にはっきりと入ってきた。「ならいいや、もういらないや」 あの時、元妻は俺のことをもういらないとはっきり言っていたのだった。 大切な元妻《ひと》からの大事な言葉を、いとも簡単にスルーしてた自分の態度に、頭を抱えたくなった。 頭の中がガンガンしはじめ、胸が苦しくなってきた。
あんなに仕事が好きだった俺。 なのに、どうにも意欲が湧かない。 独身になったのだから……身軽になったのだから……もう子供のことや家庭のことにも時間を割いて欲しいと懇願されることもなくなり、煩わしさから解放され思い切り仕事ができるというのに、全くヤル気が出ない。 おかしいじゃないか! 単身赴任と同じようなものじゃないか。 この8年間シングルと同じような生活でガンガン仕事をこなしてきたのに。 いや、違う。 同じなんかじゃないことは、己が一番よく知ってるだろ? 確かに独り身で子供や妻のために時間を割く必要もない。 だけど大きく違うものがあった。 父親として慕い夫として頼りにしてくれてた子供や妻が、もう俺とは違う誰かを慕い、頼りにしているっていうこと。 他所に幸せを求めて俺の元から去って行ったということ。 今の俺は誰かに慕われることもなく、頼りにされることもない。 そう、愛してくれる家族がいないっていうこと。 俺はこんなことになるまで、こんなにも家族の存在が俺を元気付け、安心感をもたらしてくれるものだとは気付けなかった。 仕事を思い切りするには、家族のことは足枷にこそなれプラスにはならないと傲慢なことも考えていたけれど、ものすごい勘違いもいいとこだった。 子供たちと妻がいたから仕事に生きがいを感じることができ、ヤル気も出ていたのだ。 そんな風に自分の大いなる思い違いを後悔している時に、あるシーンが唐突に蘇った。
元夫はどうしても単身赴任したかった。 私はどうしても行ってほしくなかった。 私たちの元に居て欲しかった。 だけど、私は好きな夫《ひと》の邪魔もしたくはなかった。 どうしようもないじゃないの。 だから別れた。 異性関係の心配ばかりしているような生活は嫌だった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 俺はあっち《単身赴任先》でもやらかして、由宇子はきっと自分の選択は間違ってなかったと改めて思ったことだろう。 自分としては微塵も浮気心はなかったとの想いが、胸の内にあるが。 微塵も? 自分の胸に今一度問うてみる。 異性と同じ部屋にいることに対する心地よさは? ゼロだったとは言いがたいかも。 しようがないじゃないか。 若くて綺麗な同僚と1つ同じ部屋にいたのだ、少しくらいうきうきした気持ちになっても。 だが由宇子はそういうのも嫌だったのだろう。 まさしく浮かれた気持ちさえも。 俺の気持ちは全部、由宇子に向けていて欲しかったということ。 それは裏返して突き詰めてみれば、俺は由宇子からそれほど愛されてたってことだ。 今なら分かる。 こちらに帰って来て事情を知った同僚から言われた言葉。*「奥さんも付いて行ければよかったのにね」 当時俺は逆にそこには拘っていなかった。 むしろ喜んでた節があるくらいだ。 思い切り独身のように仕事ができるって。 俺って詰んでたんだな。
子持ちの女性は特につらいよね。 やっぱり、欲だけのために"割り切って"なんていうふうに、誰とでも行為は できないもの。 死ぬほど好きな相手ならともかく、普通は婚姻関係のない男性《ひと》 との行為には、なかなか踏み切れないと思う。 リスクもあるだろうし。 悪い人間は、世の中星の数ほどいるから。 しかし、こんなに若くして自分がレスられる身になろうとは―― 結婚生活灰色どころか、真っ黒よ。 私の両親は少なくとも私がまだ実家にいた頃は、確実に夫婦生活が あったと思う。 両親は1階で寝てて、私の部屋は2階にあった。 深夜まで起きてて受験勉強してた折に、夜
出演していた妻たちは、大人しく控えめで健気に見えた。 何年も誘ってはこない夫を、身奇麗にして待ち続けていた。 そこから見えるモノ。 恐らく家庭でのいろいろなことに気配りし振り向いてもらうために、 頑張っているのだろうことが伺い知れた。 それを見ていた頃は、まさか我が身にそんなことが降りかかろうとは 露ほども思ってなくて……。 見ていてやりきれなくなったのを覚えている。 『そんなヤツ《旦那》身奇麗にして待つ必要なし。 捨ててやれっ』──なんて思いながら見てたったけ。 同じ身の上になってしまったけれど、考えは変わらない。 そんなやばいヤツ《旦那》……以下同文。
昨夜は口から心臓が飛び出すんじゃないかと思うほど驚いた。 離れることになったとはいえ、約1年と数か月ぶりに夫が誘ってきたからだ。 動画の中で放たれた夫の言葉を聞いていなければ……私はきっと戸惑いながらも喜んで、夫の誘いを受け入れただろうと思う。 だけど、もう遅いのよ将康。 遅いの……。 私は気がつくと、ぴしゃりと拒絶の言葉を放っていた。 何も考えていなかった。 口が勝手に答えていたのだ。 どうしようもなかった。 良かったのか悪かったのか。 ただ、昨夜の件が今後の私たちの行く末を大きく暗示しているのではないか? そんな風に思えてならなかった。 悲しい夜だった。
仕事をしながらの子育ては大変だろうけれど、今だって、激務の俺はなかなか家事育児は手伝えていない。 深夜帰宅することもあるから、考えようによっては、今の状況のほうが逆に大変だと思うのだが……。 朝食に夕飯、洗濯等1人分なくなると、随分楽になるんじゃないのか? 妻の仕事は義父の経営する事務所で、実家の義母も近くに居て子供たちのことは今まで通り頼めるし。 浮気のことを何やら言ってたけれど、本気でそんなこと気にしてるのか? 自分で言うのもなんなんだが、据え膳も喰わない男なんだ。 そこは心配しなくていいんだよって妻を説得したいところだが、あまり言うと薮蛇になって逆に心配させてもい







