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◇かわいい嫉妬 5

Penulis: 設樂理沙
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-06 21:45:14

5

◇かわいい嫉妬 

 向阪は気付いていなかったが島本とのアドレス交換しているところを

少し離れた場所から見ていた人物がいた。

 それは向阪 の恋人で10代の頃から付き合っている掛居花だった。

 帰りは花と足のない同僚ふたりを乗せそれぞれを最寄駅まで送り届けたあと、

匠吾と花は北区のビバリーヒルズと呼ばれる高級住宅街に建ち並ぶそれぞれの

豪邸近くへと帰って来た。

 彼らは匠吾の父親が兄で花の母親が妹という兄妹の娘、息子、即ち

従兄妹同士だった。

 祖父の豪邸を真ん中に挟み匠吾と花は左右に住まっている。

 今回は匠吾の車でBBQに出掛けていた。

 その匠吾の車は近所にある公園の駐車場に止められた。

 会社イベントは楽しかったけれどふたりでゆっくり話す時間もなかったため、

少し話をしてから帰ろうということになったからだ。

イベントの残りの缶コーヒーを飲みながら花は訊いた。

「今日島本さんと何話してたの?

匠吾、鼻の下がビロ~ンって伸びてたけど」

「ビロ~ンってオマエなぁ~、なぁ~に言っちゃってんの。

 入社仕立てなんで分からないことがあったら教えてくださいって

お願いされてたんだってぇ」 

「へぇ~、接点のない他部署の匠吾に教えを乞うなんて不自然だよね」

「そうか?」

「そうよ、おかしいよ。メルアド交換したでしょ」

「あっ、あぁそうだったっけ……」

「ふ~ん、心配だな」

「大丈夫だって、わたしを信じなさいっ」

「信じていいの? ほんとに?」

「大丈夫、ンとに心配性だなぁ~花は。

 花が思うほど俺ってモテないから」

「もし、彼女から相談があるから会って話を聞いてほしいって言われたら

どうするの?」

「電話で聞くようにする」

「外では会わない?」

「会わない……」

「よかった。それ聞いて安心した」

「俺も良かったぁ」

「何が?」

「ちゃんと花が俺に焼きもち焼いてくれることが分かったから」

 俺がそういうと怒るかなって思ったけど花の反応はそうじゃなかった。

『じゃあ、約束ね』といって小指を出してきた。

 そのしぐさが可愛いなって思った。

 車の中じゃなかったら盛大にハグしたのに、残念。

         

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    98  週明け私は席に付くと、周囲を見渡した。 始業30分前、人はまだまばらなだけに凛ちゃんのパパらしき人物は 見つけられない。 15分前に珍しく寝ぐせをつけた相馬さん登場~、待ってたよ~。「おはようございます」 「おはよう~。週明け早々、元気だね掛居さん」「はぁ、まぁ、それだけが取り柄なものでぇ~って、待ってたんですよ~」「ナニナニ、僕をでしょうか?」「ええ、ええ、相馬さまをです」「ンで? 何でしょう」「あのぉ~、相原さんって男性社員の方、もしかしてこの同じフロアーに いたりしますか?」 「うん? いるよー。  えっとね、ここから数えて5つほど島を越えたところにいますよ~。 まだ知らなかったんだ、びっくりですわ」「まだまだ知らない人だらけですよ、たぶん。  相馬さんとの仕事に集中するだけで今は精一杯ですもんっ」「あっ、そうだよね、ごめん、嫌な言い方して。 それだけ僕の仕事に集中してくれてるってことで、有難いことです。  謝謝……謝謝。 相原さんのことで何かあった?」 「話せばちょっと長くなりそうなのでお昼休みに説明するね」「わかった。じゃあ、さっそく本日の業務に入りますか」「OKです。それではこの書類から整理してまとめていきますね」「助かるよ、その間僕は外回りできるので。  後少ししたら、クライアントのところまで出向く予定だから」「……ということは、1日がかりで帰社は17時頃になりますね」  相馬さんとの1日の予定のすり合わせをして週明けから、また新しい 1週間が訪れようとしていた。 始業時間になって再度私は遠目に見える島を見渡してみた。 いたーっ、凛ちゃんパパ。  ほんとにいたよ。 今日も残業で凛ちゃんは遅くまで待ちぼうけかな。 小さいのに可哀そうだな。  ……ってそんなこと考えるなんて頑張ってる親御さんに申し訳ない、 よね。 でもお父さんだと母親よりも残業が多いというイメージは払拭できない ので、やっぱり凛ちゃんが可哀そうだ。  そう思いつつ、そんな気持ちでいたのもつかの間、仕事に忙殺されて 昼休み直前になると、私はランチのことばかり考えていた。

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇その人の名は相原清史郎 97

    97    花は入社したばかりで相馬との遣り取りに神経をほぼ集中して過ごして いるため、凛の父親が広い同じフロアーで仕事をしている相原清史郎だとは 気が付けないでいた。           ◇ ◇ ◇ ◇ 短期間で相馬付きの派遣社員が立て続けに辞めてしまったことで 周囲と同様、野次馬根性を特別持っているわけではない相原清史郎も 次に着任した掛居花と相馬との仕事振りだとか仕事中の彼らの様子について それとなく気になっていた。 ……なので、娘のお迎えに行った時、娘を連れて彼女が目の前に現れた時 は非常に驚いた。 表向き平静を装いつつも心の中で叫んだ第一声が 『ここで? 何してるんだ?』 だった。  凛を受け取ろうとしたら彼女は一瞬逡巡して、奥にいた芦田さんに 何やら訊きに?  確認のためか、足早に目の前を去って行った。  ヌヌっ、もしや、自分は不審者と間違われたのか、参ったなぁ~。 同じフロアーで働いているのに俺の顔は覚えてないらしい。  呆れた。何ということ。 待っていると芦田さんが凛を抱いて連れて来てくれていつものように 『お疲れ様です』 と労いの言葉と共に凛を渡してくれた。 凛を片手に抱いて帰ろうとした俺の背中に彼女の声が届いた。「失礼して申し訳ありませんでした」と。「おぉ、ちゃんと礼儀正しい婦女子ではないか、よきよき!」  俺は彼女に向けて片手を振り、気にするなと意思表示した。 ちょっとかっこつけ過ぎただろうか。

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