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  ◇誘惑の罠 6

Penulis: 設樂理沙
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-06 21:45:21
6

 花とそんな風にかわいい約束をしていたのに、BBQ明けから

早速島本玲子からのメールが向阪匠吾の元へ一日に二度三度と

届くようになった。

 最初は

『おはようございます。先日はありがとうございました』

とあり放置していると同じ日の夜に

『今日もお疲れさまでした。明日もお互い頑張りましょう』とくる。

 最初は当たり障りの返事を特に返さなくてもよい内容だったので

放置していた。

 3日めからメールの内容が返事を促すものへと変化していった。

『正社員登用の試験内容など教えてほしい』というような文面に。

 花に対してほんの後ろめたさを感じつつも花はメールについては

何も言ってなかったのだし、との言い訳を盾に、向阪はざっと簡単に

自分が受けた時の試験内容などを書いて送信した。

 すると酷く感謝の言葉を羅列している文が送られてきて、これ以上

メールのやりとりはするまいと考えていた向坂だったのだが、

これで最後だしと返信メールをしてしまい、後は言葉巧みな玲子主導の元、

『その問題集を見せてはくれないか』

と言われOKすると、てっきり職場で渡す気だった向阪に玲子から

『じゃあお礼も兼ねてカフェバーで会いましょう』

ということにされ、あれよあれよという間にそのように設定されてしまった。

 いや、それは一瞬『まずい』と向阪は思った。

 花の顔も浮かんだ。

 しかし、おそらく今回一度だけのことなのだしカフェバーでお礼に一杯と

言われ断るのも大人げなく思い、断らなかった。

 また花との交際が若くして10代からのもので向阪は花以外誰とも

付き合ったことがなく、少し大人の女性との交流に興味を

持ってしまったということもあった。

 浮気をするつもりなど毛頭なく、ほんとに興味本位でのOKだった。

 しかし、自分の気持ちの確認はしたものの、玲子の思惑を少しも

考えてなかったことが向阪にとっては痛恨の極みであった。
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    106     「そういうことなら相原さんはやっぱり掛居さんにお願いしたいわ。 実は……掛居さんだから話すけど、私はカッコイイ男性《ひと》は緊張しちゃって駄目なのよー。 おばさんが何言ってんだーって笑われそうだけど。 そんなだからこの年になっても未だ独身なんだけどね」「芦田さん、私は笑いません。 私も相手が素敵な男性《ひと》だと同じです。 緊張しますもん」 相手に合わせて?  調子のいいことを言いながら自分自身に問いかけてみる。 私は匠吾だけを見て生きてきたので素敵な男性なんて他の人に対して思ったことがないんだよね~。 多少いたのかもしれないけど、私にとっては普通の男性《ひと》としてしか接してないと思われ、素敵な男性だと緊張するという経験は……なかったわっ。 ただ相原さんの場合は特殊というか、かみ合わなくてあまり接触したくないのよね。 だけど芦田さんの乙女チックな気持ちもよく分かるのでしようがないなぁ~。「ありがと、掛居さん。 私がいい年をしてこんな恥ずかしいこと話したの初めて。 共感してもらえてうれしいっていうか……。 じゃあ、今回の相原さんのお宅訪問の詳細はメールで送らせてもらっていいかしら」「はい、大丈夫です」「メールで説明してある項目以外は本人の意向を聞いてもらってお手伝い進めてもらえばいいです」「はい、分かりました」 電話を切り、メールをチェック。 凛ちゃんのことが気に掛かり、私は大慌てで出掛ける準備をした。 訪問する前に頼まれているモノをどこかで買わなきゃ。 さて、Let’s go.

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇ 付き合ってません 105 

    105「お待たせしました、掛居です」「休日でお休みのところ、ごめんなさいね」「いえ、大丈夫です。自宅訪問の件ですが行けます。 伺う時間とサポート内容、場所、それから滞在時間の目安など教えていただけますか」「有難いわ、助かります。 詳細は後からメールで送るわね。 掛居さんに担当してもらうのは相原さんなの。 場所は……」 私は『相原』という名前を聞いた途端、頭やら耳の機能が停止してしまったようで、芦田さんの話してる言葉が何も入ってこなかった。 いゃあ~、人を差別するというか、この場合自分の好き嫌いで選別してはいけないこととは分かっているものの、先月の彼とのエレベーターでの出来事を思えば、どんな顔をしてサポートに入れるというのだ。「もしもし?」「あの、芦田さん、できれば他の人と……つまり芦田さんが訪問する予定のお宅と替わっていただけないでしょうか」「……」「掛居さんは私が受け持つ人とは面識がないし、というのもあるし、ちょっと恥ずかしいんだけど言っちゃうわね。 私、独身でしょ、だから男性のお宅へ伺ってサポートっていうのは恥ずかしくて」 それを言うなら私も独身、しかも花も恥じらう? まだ20代ですってば。「あ、掛居さんも独身だけど相馬さんとも親しくしているって聞いてるし、男性に耐性あるんじゃないかと思って」 そんなこと誰に聞いたんですかぁ~、保育所勤務なのにぃ~、噂って怖いぃ~。「付き合ってるのよね?」「いえ、付き合ってません」 えっ、私ってばそんなことになってるの、知らなかったー。 相馬さんは知ってるのかしら。「でも親しくしてるのはほんとよね?」「個人的に親しくしてないつもりですが……。 そうですね、彼の仕事を手伝ってるので職場では親しくさせてもらってます」

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