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◇切なさ 82

Penulis: 設樂理沙
last update Terakhir Diperbarui: 2025-04-20 06:23:39

82

 雨宮が去り、気を効かせて宮内と星野もテーブル席から離脱、その場に

残された魚谷と柳井のふたりは、成す術もなくしばらく無言で

立ち尽くした。

「ほんとにごめんなさい。

 最初に恋人はいない、というシチュエーションでレセプションに

参加したせいで、本当のことが言えなくなってしまって。

 柳井さんから念押しされた時にちゃんと話せばよかったのにって

思うけど、だけど多分あの時私は婚約者がいることをあなたに

知られたくなかったんだと思います。

 あなたから声が掛かればいいのにと思ってしまったから。

 近々雨宮さんに話さなきゃって思ってたところだったの。

 話す前にまさか今日こんな形で知られることになるなんて」

「君のいうことを信じたいけど、まるっと信じられるほど俺は子供でもなく

純粋でもないのでね。

 君は天秤に掛けてなかったって言い切れるのか?

 本当に近々雨宮に報告するつもりだったのかなぁ。

 俺とのことがちゃんとした正式な交際の形になるまでは、雨宮のこと保険

にしておこうってそんなふうな考えが少しもなかったって言える?」

「えっ、私がふたりのことを天秤にかける?」

 私は柳井さんの鋭い言葉に反論できなかった。

 彼らふたりに話すチャンスがなかったわけじゃないのに話さず

時間稼ぎしていたのだからそう思われてもしようがない?

 自分の気持ちを振り返ってみるに、そうじゃないわとも思うし、

そうなのかもとも思えて、混乱してしまった。

「ね、俺あなたのことは忘れる、だから雨宮に謝罪して戻ってやって。

 一時の気の迷いだと言って。

 頼むよ、俺は……雨宮とは一生の友だちでいたいんだ。

 俺たちってまだ付き合い始めたばかりでしょ?

 そんなに深いところまでいってなくて、元いた場所まで

すぐに戻れるから。

 俺あなたとは親友の奥さんとして付き合っていけるから、俺のことは

忘れて」

 私は柳井さんの言葉を一言、ひと言、噛み締みて聞いた。

 彼の言うことが正しい。

 正しくない方へ踏み出していた私を正しい道に戻してくれるのだ。

 彼が正しい。

 だけど、この切なくてやり切れない感情とどうやって向き合えばいいのか 分からなかった。
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    112    お礼に、たぶんだが……何かご馳走してくれるらしいけどそれを彼は 『デート』と表現した。   シングルなのか既婚なのかは知らないけれど今でこそ子持ちパパだから デートする特定の相手がいるのかもどうかも分からないけど、独身だった頃 はあの見た目と積極的な性格を見るからになかなかな浮名を流していたので はなかろうか。 初めて社外でプライベートに会うのに『デート』という言葉をサラッと 使ったところを見ての私の感想だ。  私たちの初デート? は相原さんお勧めの駅前のカフェだった。  そこはジャズの生演奏が流れていてむちゃくちゃムーディーで恋人たちに もってこいの雰囲気があり、私には腰を下ろすのが躊躇われるほどだ。 お相手が素敵な男性《ひと》ではあるものの、残念ながら 恋人ではないから。 匠吾と付き合ってた時に巡り合いたかった……こんな素敵な夜を過ごせる お店。 昼間はどんな顔《店の様子》をしているのだろう。 駅前に立地していて自宅からも近いので次は平日の昼に来てみようかしら。 「俺たちラッキーだな」「えっ?」「何度か来たことあるけどジャズがスピーカーから流れていることはあって も生演奏は今日が初めてだからさ。うひょぉ~、やっぱ生はいいねー」「へぇ~、そうなんだ」 そっか、じゃあ平日来てもきっと生演奏はないだろうなー。 私たちはオーナー特製のピザと各々チーズのシンプルパスタと ツナときのこのパスタでボスカイオーラーというのを頼み、ジャズの演奏 を楽しんだ。 「掛居さんって家《うち》どの辺だっけ?」「言うタイミング逃してましたけど実は最寄り駅が相原さんと同じで ここから4~5分のところなの」 「まさか駅近のあの35階建てとか?」 ずばりそうなんだけど、相原さんの言い方を聞いていると『まさかね』 と思いながら訊いているのが分かる。  だって分譲で結構なお値段《価格》なのだ。 とてもその辺のサラリーマンやOLが買えるような物件じゃない。 本当のことを言うか適当な話でお茶を濁すか……どうしよう。「お金持ちの親戚が持っていて借りてるんです」「いいな、お金もちの親戚がいるなんて」 「まぁ……そうですね」

  • 『特別なひと』― ダーリン❦ダーリン ―❦   ◇相原さんとデート 111

    111     メールアドレスを残して帰ったものの、相原からは次の日の日曜Help要請が入らなかったので体調は上手く快復したのだろう。 今日は出社かな、週明け、そんなふうに相原のことを考えながらエレベーターに乗った。 自分のあとから2~3人乗って、ドアが閉まった。 振り返ると気に掛けていた人《相原》も乗り込んでいた。「あ……」「やぁ、おはよう」「おはようございます」 挨拶を返しつつ私は彼の顔色をチェックした。 うん、スーツマジックもあるのだろうけれど元気そうだよね。 土曜はジャージ姿で服装も本人もヨレヨレだったことを思えば嘘のように元の爽やか系ナイスガイになっている。『凛ちゃんのためにも元気でいてくださいね』 心の中でよけいな世話を焼きながら先に降りた彼の背中を見ながら同じフロアー目指して歩いた。 歩調を緩めた彼が少しだけ首を斜め後ろにして私に聞こえるように言った。「土曜はありがと。この通りなんとか復活できたよ」「……みたいですね。安心しました」 私たちの間にそれ以上の会話はなく、各々のデスクへと向かった。 昼休みにスマホを覗くと相原さんからメールが届いていた。「土曜のお礼がしたい。 残業のない日がいいので明日か明後日、いい日を教えて」「ありがとうございます。気にしなくていいのに……。 凛ちゃんのことはどうするんですか?」「デートの予定が決まれば姉に預けるよ」 お姉さんがいるんだ、相原さん。 じゃあこの間はお姉さんの方の都合が付かなかったのね、たぶん。「私はどちらでもいいのでお姉さんの都合のいい日に決めてもらって下さい」「じゃあ明日、俺の家の最寄り駅で19:30の待ち合わせでどう?」「分かりました。OKです」 すごい、私は明日相原さんとデートするらしい。 そんな他人事のような言い方が今の私には相応しいように思えた。

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