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宅配便②

Author: 雫石しま
last update Last Updated: 2025-07-27 05:09:38

紗央里は仙石家の玄関を振り返ることなく、小走りで向かいの路地に駆け込んだ。レンタルした軽自動車の鍵を開ける指先が震えていた。ハザードランプが点滅し、振り返るとその扉は閉まりかけていた。冷たい夕暮れの風が頬を刺し、心臓が早鐘のように鳴り響く。彼女は車に飛び込み、エンジンをかけた。バックミラー越しに、仙石家の門をみる。あの家での出来事が頭をよぎるが、アクセルを踏み込むことで記憶を振り払った。一刻も早く、ただ、遠くへ逃げ出したかった。

(気が付いた、付いていない!?)

紗央里は宅配業者のユニフォームに似せたポロシャツを着ていた。まさか、不倫相手の家に押しかけた不審者だと露呈したのではないかと、ヘッドレストの陰から背後を窺ったが、仙石家の玄関扉が開く気配はなかった。冷や汗が背を伝う。彼女の心臓は早鐘のように脈打っていた。

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Comments (1)
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千恵
怖い愛人だ 吉高はどうかわからないけど、愛人は身体の関係回数が増える度に嫉妬が増えて、奥さんに対する憎悪が増すんだろうなー 既婚者と遊ぶなら情はかけないのがいいのにね。かっこよく見える既婚者は甲斐甲斐しく世話をした妻が作ったと思う。
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