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chapter14

Author: 水沼早紀
last update Last Updated: 2025-06-12 20:07:09

* * *

 ピーンポーン。

 ある日の夜、俺はとある家のインターホンを押した。

「待ってたわ。……入って」

「……ああ」

 俺は「お邪魔します」と、静かに家の中に入った。

「適当に座って。今お茶煎れるから」

 俺はソファーに腰掛け、深いため息をこぼした。

そしてチラッと静香に視線を向ける。

 静香、お前はあの時と変わってないな……。

「はい」

「……ああ、ありがとう」

 静香は俺の目の前に座ると、おもむろに口を開いた。

「……恭平さん、さっきごめんなさい。いきなり会社に電話をかけたりして」

 静香が俺にそう言うから、俺はあえて「……いや、いいんだ」と答えた。

「本当にごめんなさい。……悪気は、なかったんだけど」

 俺に向かってそう言った静香に、俺は「じゃあ何で、電話をかけたりしたんだ。しかも会社にまで」と問い詰めるように言った。

「……私、もう一度あなたに会いたくて」

 下を向く静香に、俺は「静香、俺たちはもう終わったんだよ。……俺たちは、もう夫婦じゃない」と伝える。

「そんなの、分かってるわ! でも、でもね……。もう一度、あなたに会いたかったのよ」

「分かってるのか?静香。俺たちはもう夫婦じゃないんだ。……俺たちはもう、赤の他人なんだよ」

 俺と静香は離婚した。もう夫婦じゃない。 赤の他人になったんだよ、俺たちは……。

「恭平さん……」

 悲しそうな目で俺を見つめる静香に、俺は「確かに一時は、愛し合った仲だ。……俺だって静香と結婚したいと思ったから、お前と結婚したんだ」と伝える。

「……ええ、そうね」

「でも俺たちは、きっと価値観が違ったんだ。……だから、離婚したんだよ」

 そんな俺に、静香は「恭平さん、聞いてほしいの。私はまだ、恭平さんのことが……」と口を開く。

「いい加減にしてくれ、静香。……俺はもう、お前の旦那じゃない」

「恭平さん!私はまだ、恭平さんのことが好きなの。……愛してるの、あなたが」

 静香はそう言うと、俺に抱き着いてきた。

「……やめてくれ、静香」

 俺は静香からそっと離れる。

「どうして……? 私は恭平さんのことを、愛してるのに……」

 静香は俺の体を引っ張り、俺の唇を乱暴に塞いできた。

「……っ、静香!」

 俺は静香の体を無理矢理離した。

 静香の様子がおかしいことは、見て分かる。何かを焦っているようにも見える。

「……恭平さん、抱
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