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第5話

Author: 年々
翌日の明け方、彩花は看護師に起こされた。

彼女は重い体を引きずって家に帰り、見慣れたドアを開けた。リビングからは両親が心配そうに話す声が聞こえてきた。

「先生が言ってたわ。早く病院に運んでよかったって。傷の手当てもちゃんとしてもらったから、跡は残らないそうよ。

でも、すごく怖かった。顔が真っ青で、見てるこっちが辛かったわ」

健太はソファの後ろに立っていた。彼はうつむいて、美羽の青ざめた顔をじっと見つめている。

なんて心温まる、感動的な光景だろう。

最初にドアのところに立つ彩花に気づいたのは、健太だった。彼は鼻で笑って、馬鹿にしたように言った。

「ふん、帰ってきたのか?病院が大げさに電話してきて、お前が血を吐いて倒れたなんて言うからさ。本当に死ぬのかと思ったよ」

学と千佳も同時に振り向いた。「彩花、美羽ちゃんはあんなに怖い思いをした。お前はわざと俺たちを困らせたいみたいだな」

三人の顔には、まるで申し合わせたかのように、うんざりした表情と、非難の色が浮かんでいた。そして彼らの後ろでは、美羽が勝ち誇ったように口の端を吊り上げている。

もう、疲れた。

彩花は、ただただ、本当に疲れたと感じた。

彼女は目の前の人を無視して、くるりと背を向けた。そして二階の寝室の方へ歩いていった。

後ろから千佳の不満そうな声が聞こえる。「あの態度、なんなのかしら。本当にどうしようもなくなってきたわ!学、なんとか言ってやってよ」

彩花はウォークインクローゼットへ行くと、隅にあった木の箱を引っ張り出して開けた。

中に入っているのは、宝石でもなければ、通帳でもない。あるのは、いくつかの「思い出の品」だけだ。

健太がプロポーズしてくれた時の花束。もうすっかり枯れてしまっている。

新婚旅行の時のツーショット写真。写真の中の健太は彩花の額にキスをしていて、彼女の顔は幸せでいっぱいだ。

それから、綺麗に並べられたビロードの小箱。箱には【彩花、お誕生日おめでとう。愛するお父さんとお母さんより】と書かれたラベルが貼ってあった。

中身は、両親が毎年誕生日に贈ってくれたプレゼントだ。ブレスレット、ブローチ、髪留め……どれも高価なものばかり。

彩花はそれらの品々を、まるでゴミでも捨てるかのように、すべて火鉢の中に放り込んだ。

「あら、彩花さん。これは遺品の整理でもしてるのかしら?死ぬ準備?」

美羽が、いつの間にか彼女の後ろに現れていた。ドアの枠に寄りかかりながら、その両目を欲深そうに輝かせている。

「本当にかわいそうねえ。あなたはかつて、たくさんの綺麗な服や高価な宝石、あなたを愛してくれる夫にかわいがってくれる両親……全部持っていたのにねえ……」

美羽は首を振りながら言った。「でも、それが何だって言うのかしら?」

彼女は少し顔を上げ、見せびらかすような、そして挑発的な表情を隠そうともしなかった。

「あなたが20年以上も守ってきたものを、私は2年足らずで全部奪ってやったわ。

あなたの負けよ。完膚なきまでにね」

美羽の胸はかすかに上下していた。彩花が取り乱し、絶望し、ヒステリックに叫ぶ姿を期待しているかのようだ。

しかし、彼女はがっかりすることになった。

彩花は美羽を見つめ、ゆっくりと口を開いた。「それなら……おめでとう」

そして、口の端を歪めて言った。「あなたが必死になって奪っていったものなんて……私が捨てたゴミよ」

美羽の顔色が一瞬で険しくなった。彩花の無関心な態度が、彼女に敗北感を与えたのだ。

美羽は燃えている火鉢を思い切り蹴り飛ばした。「まだあの人たちが心変わりするとでも思ってるの?あなたがこれ以上、私のものを壊すなんて絶対に許さない!」

ガシャーン――

炎が周りの燃えやすいものに舐めるように燃え移り、パチパチと音を立てる。ウォークインクローゼットは、あっという間に黒い煙でいっぱいになった。

彩花は黒煙に包まれた美羽に駆け寄り、彼女を炎の中から引きずり出そうとした。「死ぬ気?」

しかし、煙で涙を流す美羽の瞳には、狂気じみた憎しみと決意が宿っていた。彼女は彩花を突き飛ばす。「触らないで!」

そして、笑いながら、甲高い悲鳴をあげた。「きゃあ、助けて!」

慌ただしく重い足音と共に、健太が黒煙をものともせず、炎の中へまっすぐ突っ込んできた。

「美羽!」

健太は美羽の服についた火を叩き消すと、彼女をさっと横抱きにしてウォークインクローゼットから飛び出した。

火が消し止められた後、リビングの空気は重苦しく、息が詰まるようだった。

健太の腕の中では美羽が声を殺して泣いていて、学と千佳は心配そうに彼女の怪我の様子を確かめている。

「彩花!美羽を焼き殺すつもりだったのか?この子を道連れに死のうとしたのか?この悪女が!」

彩花はもがきながら顔を上げた。「違う……火鉢を蹴り飛ばしたのは彼女よ。私を陥れるつもりなの!」

健太の目は激しい怒りで真っ赤に充血していた。「いいだろう。火遊びがしたいなら、望み通りにしてやる!」

彼は外にある焼却炉を指さした。「こいつを中に放り込んで、ドアに鍵をかけろ。生きたまま焼かれるのがどんな気分か、味あわせてやれ!」

彩花は信じられないというように目を見開いた。「健太、あなた狂ってる!」

彼女はもがきながら立ち上がろうとした。「離して!火なんてつけてない!」

学と千佳の目に、一瞬だけ哀れみの色が浮かんだ。「やめ……」

美羽は絶妙なタイミングで二人の手を掴み、か細い声で言った。「おじさん、おばさん、私の手……すごく痛いです……頭もクラクラします」

二人はすぐさまきっぱりと考えを改めた。「少し懲らしめるくらいは、仕方ないのかもしれないわね。じゃないと、彩花はいつまでも分からないままだから」

最後の希望は、完全に打ち砕かれた。

彩花は焼却炉の中に放り込まれた。背中と腕が焼けるように熱い金属に触れ、ジュッと音がした。

焼却炉の扉は固く閉ざされ、鍵がかけられた。彼女の苦痛に満ちたうめき声は、外には聞こえない。

少しでも身じろぎするたびに、焼け焦げた皮膚が引きつれて、身を引き裂かれるような激痛が走る。

脱水症状でめまいがしてきて、意識がだんだん朦朧としてきた。

彩花は焼却炉の一番奥でうずくまった。激しい痛みと高熱で、体は抑えようもなく震えている。

あと3日……仮死計画。

その時まで、自分はもつのだろうか?彼女はそう思い始めていた。
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