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第3話

Author: ファイブ
琴羽の症状は日に日に重くなっていった。適切な治療を受けていないせいで、ほとんど毎日のように吐血している。

洗面台に広がる暗い赤色の血を見つめるたび、自分にはあとどのくらい時間が残されているのだろうと計算した。

そんな状態になっても、薫は彼女を追い詰めることをやめなかった。毎日のように大量のメッセージや写真を送りつけてくる。

【琴羽、今どんな気分?すごく寂しいよね?でも私は違う。お父さんもお母さんも、正樹さんも智則くんも、みんな私のそばにいてくれるもの】

【私はね、みんなにすごく大切にされてるよ。毎日の食事だって、みんな交代で食べさせてくれるのよ】

【あんたみたいな人間は、一生誰にも愛されないまま、使用人の娘として生きていればよかったのに!】

琴羽は送られてくるメッセージを一通ずつ読んだ。そして何も返信せず、静かに画面を閉じる。

その頃には胃の痛みもかなりひどくなっていた。けど家に残っていた痛み止めはとっくに切れている。

しかも先日の怪我の治療費で、わずかな貯金もほとんど使い果たしてしまった。

これから、毎日こんな苦痛に耐えなければならないなんてさすがにこたえる。そう思った琴羽は、痛み止めを買うためのお金を稼ごうと仕事を探し始めた。

知人の紹介で、「トワイライト」という高級クラブのホールスタッフとして働くことができた。

決して楽な仕事ではないが、時給は良く、今の琴羽にはありがたい職場だった。

その日も個室の片付けを終え、次の仕事へ向かおうとしていた時だった。廊下の向こうから聞き覚えのある声が響く。

「薫、退院したばかりなのに、こんなところに遊びに来るなんて本当に大丈夫なのか?健志さんたちに知られたら怒られるぞ」

正樹だった。

すると甘えるような声が返ってくる。

「大丈夫だもん」薫は正樹の腕にしがみつきながら笑う。「だって正樹さんがいるでしょ?

昔から私に何をしても、全部守ってくれたじゃない。それに、お父さんたちだって正樹さんのことが大好きなんだから。絶対怒らないよ」

正樹は苦笑しながら彼女の額を軽く指でつついた。その仕草には自然な親しさと甘さが滲んでいる。

一方で智則は、自分のジャケットを脱いで薫の肩に掛けてやっていた。「治ったばかりなんだから無理しないでね。それより、喉乾いてない?君の好きなジュースも買ってきたぞ」

三人はそのまま隣の個室へ入っていく。ガラス越しに見える個室の中では、正樹が飲み物を注ぎ、智則が果物を切り分けていた。二人ともまるで本物のお姫様を扱うように、薫の世話を焼いている。

琴羽は視線を落とし、その場を離れようとした。しかしその時、背後からマネージャーに呼び止められ、ワインボトルを一本手渡される。

「これ、あの個室のお客様から追加注文。届けてきてくれ」

琴羽は一瞬だけ表情を曇らせた。だが、上司の指示に逆らうわけにはいかず、ボトルを抱えて個室へ向かう。

ノックして扉を開けた瞬間、三人の視線が一斉に彼女へ向けられた。正樹と智則の顔に驚きが浮かぶ。

「琴羽?お前、なんでここで働いてるんだ?家からお小遣いをもらってないのか?」

琴羽はワインをテーブルへ置き、小さな声で答えた。「もらってない」

これまでずっと自分で学費や生活費を稼いできた。だが癌になってからは以前のように働けず、体力も落ちている。今の彼女にできるのは、こうした単純な作業だけだ。

その事情を知らない二人の目に、一瞬だけ同情がよぎる。だが、それはすぐにかき消された。

薫が口を開いたからだ。

「また嘘をつくなんて、ひどいよ。お父さんとお母さん、毎週ちゃんとお小遣いを渡してるじゃない。もしかして使い切っちゃったの?それで可哀想なふりをして同情して欲しいわけ?」

そして意味ありげに二人を見た。「ねえ、正樹さん、智則くん。そもそも琴羽が私たちの個室に来るなんて、出来すぎだと思わない?」

まるで琴羽が意図的に近づいてきたかのような言い方だった。

琴羽はうんざりしていた。これ以上聞く気にはなれず、そのまま踵を返して出て行こうとするが、次の瞬間、薫が突然駆け寄り、琴羽の手を掴んだ。そしてすぐに自分の手の甲を押さえながら目を赤く潤ませる。

「琴羽……図星だからって、そんなに怒らなくてもいいじゃない……私はあなたのためを思って言っただけなのに……」

その演技はあまりにも自然だった。正樹と智則は反射的に薫を引き寄せ、自分たちの後ろへ庇う。そして薫の手の甲を見た瞬間、二人の表情が変わった。

そこには深く食い込んだ爪痕が残っていた。

正樹はすぐに怒りを露わにして琴羽を睨みつける。「前にも言ったはずだ。薫に手を出すなと。何度言えば分かる?」

智則の顔も険しい。彼は無言でカバンを開くと、中から分厚い札束を取り出し、テーブルの上へ叩きつける。

「金が欲しくてここで働いてるんだろ?だったら証明してみろよ。ここにある酒を全部飲み干せ。そしたら、君の言うことを信じてやる。この金も全部君にやるよ」

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