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9:コミケで収益を上げる際の課題

Author: ซากุ
last update Petsa ng paglalathala: 2026-10-22 16:48:46

 010

「アキトさん!おはようございます!」

 お客さんのところへ向かう途中、菅原に声をかけられた。今日は日曜日なので私服姿だった。先日のセーラー服とはまるで違って、今日は黒と赤のゴシックロリータを完全装備で着こなしていた。

 ずっと気になっていたので聞いてみた。

「コスプレもするのか?」

「はい!一緒にいた女の子二人、覚えてますか?……中学からコスプレ仲間なんですよ……毎年コミケのイベントにも行ってます」

「そうか……その衣装、結構高そうだな」

「いいえ……全部自分たちで作ってるんです」

 そう言って毎年撮った写真を見せてくれた。

「へえ……縫製がすごく丁寧だな……高いお店の服みたいだ」

「だって一年かけて作るんですもん……コミケにしか行かないし……大抵はTwitterとInstagramに投稿するだけで、気軽に着てるコスが多いですよ」

 あ……TikTokにも上げてるとか何とか。コスプレの話になると嬉しそうに話す。

「コミケか……もう十年以上行ってないな……」

「アキトさんも行ったことあるんですか?」

「まあ……君と同じくらいの歳のとき、友人の同人誌販売を手伝ったことがあって……懐かしいな……コスプレもしたっけ」

「同人誌?……どのキャラクターのですか?」

「池也 x 折原[イザシズ]のやつ……知ってるか?」

「古すぎますよ……もう絶版じゃないですか」

「ちょっと!まだ古くないって!!」

「コスプレはどのキャラクターだったんですか?」

「カゲロウプロジェクトの晴人な……有名なボカロ曲で……赤いジャージ着るだけでコスできるんだよ……」

「すみません……知らないです……」

 ちょっと待て……本当に!?……今の子は「カゲロウデイズ」を知らないのか!?……世の中、本当に変わったんだな……ずいぶん変わってしまった……

「まあいいか……」

 思わず目に涙が浮かんだ……俺もついに本物のおじさんになってしまったか……まあ、エヴァの主題歌は聴いてるって言ってたから……そこまで時代遅れでもないはず……でも絶対「俺妹」は知らないだろうな……

 あの頃のコスプレ・同人誌市場は、あの作品のおかげでとんでもない盛り上がりだったんだが……まあ、もう十年以上前の話か。

「あ……来週イベントがあるんですよ、アキトさんも来てみてはどうですか?……友達のアキラちゃんが夏五[悟 x 傑]の同人誌を売りに来るんですよ……わたしとまゆりんもコスプレして行くし……」

「面白そうだな……悠太とハルも誘おうと思ってたとこだし……もしスタッフが必要なら手伝えるよ……」

「え……本当にいいんですか?……」

「まあ、いればみんな助かるだろうし……」

「やった!ありがとうございます!!」

 彼女は俺に抱きついてほっぺにキスをしてきた……俺は少し固まった。

 様子を見たいって言ってたのに……これはある程度合格ということかな……

「あと……同人誌も売ってみようかと……少しでも資金の足しにしようかと思って……」

「え……アキトさんって絵も描けるんですか?」

「描けないよ……妹が昔描いた同人誌が一冊あってな……コピー本にして売ったことはなかったから、俺に譲ってくれたんだよ……」

「へえ……妹さんの作品、読んでみたいです……あ、そうだ……」

 彼女は財布から何枚かお金を取り出して渡してきた。

「今週の収入です……」

「食費とか諸々引いた後だよな?」

「はい……」

 合わせて五万円。そして今の合計は……

「とうとう二十万円に達したぞ!!!」

「きゃー!!!!やっと!!!」

 モデル制作費が揃った……折り返し地点まで来た。

「残り三十万……PC周辺機器代だな……」

「はい!」

 あの日から一ヶ月半が過ぎていた……二人の努力の成果が少しずつ形になってきていた。

「よし……コミケでの収入も期待しよう……」

「もう準備万端ですよ!」

 その朝、俺たちは満々たる気持ちで出発しようとしていた。

「ところでどんなコスで行くんだ?」

「サイレントヒルのひな子ちゃんですよ」

「俺はコトユキくんにするかな……」

「え……わたしにプロポーズしてくれるんですか?」

 ところがそのとき。

「あの……佐藤と申します……コミケの運営委員をしておりまして……」

「そうですか……実は今日は同人誌を売りに来ているんですが……主明 [主人公 x 明智]の同人誌でして……よろしくお願いします……」

 きちんとした身なりの男性だった。品があって、ビジネスマンと言われても信じそうな雰囲気だ。数少ない、社会人のお客さんの一人だ。

「ありがとうございます……実は一つ、ご相談したいことがありまして……」

 彼はスマートフォンを見せてくれた。Twitterの投稿で、タイのネットユーザーがゲーム会社に対してコスプレや自作グッズの販売が可能かどうか質問した経緯が書かれていた。俺と菅原がコスをしようとしていたゲームのものだった。公式は「できない」と回答し、そのユーザーがそのメールのスクリーンショットをタイのコスプレグループに投稿したことでドラマになった。さらにその騒動が日本のコミケにまで波及してきていた。

「今どう対応するか検討中なんですが……公式からはまだ発表がなくて……でもこのニュースが広まるのが早くて……このシリーズのコスプレやグッズ販売を続けると、情報を半端に聞いた人たちから問題視されかねなくて……」

 重い案件だな……でも……まだ道はあると思う。

「その投稿の元アカウント、見せてもらえますか?」

 佐藤さんが開いて見せてくれた。Facebookのアカウントだったので、プロフィールを調べてみると、少し見えてきたものがあった。

「俺はそんなに問題にならないと思います……」

「え……でも……」

「プロフィールを見た限り、このパターンは三つ考えられます……あくまで推測ですが……本人が何を考えているかは俺にもわかりません」

「三つ……ですか……」

「一つ……あいつらが羨ましい。自分と同じようにコスして、自分と同じように売ってるのに、フォロワーも売り上げも多くて……うらやましくてたまらない。二つ……あいつらが羨ましい。自分より可愛くて、絵が上手くて……なんで自分の真似をするんだって。そして最後……あいつらが羨ましい。ただムカつく。あいつらの方が可愛くて見栄えがいい、なんで自分より……って」

「あ……そういうことですか……」

「つまりですね、佐藤さん……こういう人って、暇を持て余して他人を困らせることしかないタイプでなければ……自分も同じようにコスして、同じようにグッズを売ってる人なんですよ。で、もし同じことを誰かに報告されたら、『よくもやってくれたな、私への嫌がらせか』って言う。そして自分で投稿しておいて、騒ぎになると『私は正しいことをしただけなのに、なんでみんな邪魔するの!』ってなる……そして大抵は、アカウントを消して別の名前で復活して、また全員を叩く……それだけです」

 佐藤さんは黙って聞いていた。

「じゃあ、どうすればいいんですか……」

「難しいには難しいですが……それほど心配しなくていいと思います」

「なぜそこまで言い切れるんですか……」

 俺はケーキを一口食べてから、笑顔で続けた。

「コスプレも同人誌も……タダで宣伝してもらってるようなものですから……公式は『これはダメ、あれもダメ』と言いながら、衣装のデザインを投稿したりするでしょう……『やめてね』と言いながら、キャラクターの衣装の素材について投稿したりして……そういうものですよ……」

「そうなんですか……」

「ええ……だって誰も『いくらで売ってるんですか』って聞きにくる人はいないですから……目立ちすぎなければそれでいい……」

「………」

「全部禁止したらコミュニティ自体が成り立ちませんよ……友人の言葉を借りれば、そこまで囲い込みたいなら親父にでも見せてろって話ですよ……」

「………」

「商品を広めるには口コミが必要ですから……でも公式に直接聞いたら、著作権上の問題があると答えるしかない……公式が堂々と『好きにやっていいよ!』と発表するわけにはいかないんです……ビジネスと品位の問題もありますから……」

「はあ……そうですか……聞いてすごく楽になりました……」

 佐藤さんは大きく息を吐いてアイスコーヒーを一気に飲み干した。

「ええ……ただ油断は禁物ですが……ネットの荒らし程度なら、公式もそんな歩く生ゴミをわざわざ相手にはしないでしょう」

「アキトさん、本当にありがとうございます……よければ今回、いい場所にブースを二つ確保しますよ」

「え!本当ですか……ありがとうございます!」

 その日は無事に終わり、夜の八時には件のゲーム監督がそのキャラクターのコスプレをした全員をリツイートした。

 菅原にブースが二つ取れたと電話で伝えると、また家中に響くほど叫んでいた。

 そして……コミケの季節が、いよいよ始まった。

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